第5話 朗報 ハリネ村の薬師は無事でした
ゴラムは余程急いであの場から離れたかったらしく、俺をまるで荷物の用に肩に担いで森の中を疾走していった。
成人男性を軽々担げる時点で相当な力持ちなのにそれを持ったまま足場の悪そうな森の中をとんでもない速度で駆け抜けていく。
うん、最初から下手に出ていて大正解だったな。
どう考えても普通の人間が出せる力や速度ではない。
少なくとも俺が知る人間なら。
(てことはまあそう言うことなんだろうなあ……)
ここは俺が存在した世界とは異なる場所、つまりは異世界という奴だ。
そして自分はファンタジーでしかあり得ないと思っていた異世界へと飛ばされた地球人ってことになるだろうか。
(それが分かったところでどうしようもないんだが)
とまあそんなゴラム達、超人じみた異世界人の身体能力のおかげでハリネ村という場所に到着するのに時間は掛からなかった。
「お前はそいつを見知った奴を探してやれ」
ゴラムはお仲間に俺を任せると報告しなければならないことがあると足早にどこかへ行ってしまった。
残念ながら俺は例の姿が見えない薬師ではないのでこちらを見知っている人が見つからないのだが、それを正直に言ってもいいものだろうか。
(……とりあえず記憶喪失ってことにして様子を見るか)
事情は掴めないが真言食いとやらが存在して、そいつによって記憶を奪われるというケースがあるらしい。
なら薬師でなかったと分かったとしても、どこかの商人とか旅人とかがその被害に遭ったと思ってくれるのではないだろうか、と考えたのだ。
(異世界からやって来たと言って信じて貰えるかも分からないし、信じられてもそれが良い事とも限らないからなあ)
実は俺が異世界マンガによくある魔王を倒すために召喚されたとか異世界人、とかになっても困る。
今のところ神様からチートを与えられた様子は欠片も見られないので戦いなんて出来る訳がない。
とは言え俺だって男だ。
漫画やアニメでしかあり得ないようなこんな状況にワクワクしている自分がいないとは言い切れない。
でもだからと言ってどう考えても異世界人と比較して貧弱としか言いようがない身体能力だけで突っ込んでいけるほど考えなしでもない。
「おい、そんなところでボーと突っ立ってどうした?」
「いえ、なんでもないです」
思考に耽っていたがヘリックさんの言葉で我に返った。
とりあえず今は彼らに従って村の人間に話を聞く事に専念しよう。それが例えこんな奴は見たことないという返答が絶対にくると分かっていたとしても。
そうしてしばらく聞き取りを続けていると、別の冒険者が例の薬師を森で発見して村に連れてくる。
なんでも薬師は森で薬草を取っていたところをゴブリンに追いかけられて、村からかなり遠くまで逃げる羽目になってしまったらしい。
それで戻って来るまで時間が掛かっていたところを冒険者の人が発見して連れて帰って貰えたという訳だ。
まあなんにせよ無事に見つかってよかったね……で済まないのが俺の状況なのだ。
「じゃあお前は何なんだ?」
「えっと、記憶がないので分かりません」
これが正解か分からないがこれで行くと決めた以上は貫き通すしかない。
下手に動揺して怪しい奴だから排除しようなんてことになったら目も当てらない。
まあ動揺しなくても怪しい奴であるのは間違いないのだが、その点はどう頑張っても誤魔化せないので諦めるしかないだろう。
念の為としてハリネ村の村人だけでなくゴラム達以外の冒険者の人達にも聞き込みをしたが結局、誰も彼もが見たことも無い人物だという返答をもらうという当たり前の結果に終わるのだった。
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