第4話 勘違い

 結果から言うと俺は無事に彼らに助けて貰えた。


 背後から追って来ていた化物――彼らの話だと小鬼ゴブリンというらしい――もあっさりと仕留められていた。


 その戦う姿を見て俺は改めて決意する。刃向っても勝てる気が欠片もしないので下手に出ようと。


「つまりこの三体以外は見てないんだな?」

「はい、その通りです」

「ならここにいるゴブリンはこいつらだけなのかもな。おい、ゲッツ。念の為に奥を見て来てくれ。ヘリックとナバシは周辺の警戒を頼む」

「はいよ」

「「了解」」

「で、お前さんはなんでこんなところにいるんだ?」


 強面の男達は全部で四人。

 それぞれが弓であったり剣であったりと武器をその手に握っている。


「姿からして盗賊って訳でもなさそうだし……そういや村の薬師が森に入ったきり帰って来ないとか言ってたか?」

「えっと、俺の名前は鳴海なるみ つかさと言います」

「ナルミツカサ? 随分と変わった名前だな。で?」


 男が先を促してくるが俺だって何が何だが分かっていないのだ。


 何を話していいのかなんてさっぱり分からない。なのでとりあえず最も聞きたい事を聞いてみることにした。


「あの、ここはどこなんでしょうか?」

「あん? ここはハリネ村の近くの森の中だよ。正確にはその森の中に有る遺跡だがな。まさかそんな事も分からないって言うんじゃねえだろうな?」

「恥ずかしながら全く分かりません」


 この言葉に男が怪訝そうに顔を歪ませる。


「へケテラ、ホウレイ、クザン、ラターシュ。近くの街とかの名称だが、どれかに聞き覚えは?」


 全く分からないので正直のそう答えて首を横に振る。


「嘘だろ、この国の名前すら分からないって言い張るのか? そりゃいくら何でも……おい、ちょっと待て」


 そこまで話した男の顔が急に強張る。

 ただでさえ強面なのだからそれだけで滅茶苦茶怖い。


「お前、これ手に持ってジッとしてろ」


 断るなんて怖くて出来ないので言う通り手渡された石ころを持ってみる。

 しばらく待ってみるが特に何も起きない。


 よく分からなかったが、それがこの男からしたら相当不味いことだったらしい。


 サッと顔色が悪くなると慌てた様子で懐から笛らしき物と取り出して短く二回ほど吹く。すると他の三人がこの場に戻ってきた。


 近くで警戒していた二人はともかく、奥まで行っていた人にまで聞こえるような大きな音ではなかったのに一体どういう仕組みなのだろうか。


 そんな疑問を抱いたが聞く余裕はないようだった。


「全員撤退だ! 急げ!」

「どうした?」


 俺と話をしていた人物が指示を出す。大声にならないように気を付けているが語気は強い。


 その焦りを感じ取ったのかゲッツと呼ばれた人物も小声で周囲を警戒しながら聞く。


「真言食い現れたのかもしれん」

「「な!?」」

「ゴラム、マジで言ってんのか!?」


 俺と話していたゴラムという人物は頷く。


「こいつ、この国の名前を分からないとほざく上に真言が一つもないときた。そんな奴がこんな装備も護衛もなしでこんな森の中までやって来れるか? 怪我もない身綺麗な状態で?」

「……真言食いに真言どころか記憶まで食われたってか?」

「俺はそうだと見ている。最近、地方で何人がそういう奴が現れたってギルドで噂になってたしな。まあ今の今まで信じちゃいなかったが」


 そこからもよく分からない単語が飛び交う相談が少しだけ続くと結論が出たらしい。


 ちなみに俺は黙って待っていた。他に何が出来ると?


「とりあえずハリネ村まで戻るぞ。俺達以外の冒険者にも警告しないと不味い」


 幸か不幸か、彼らの中で俺は記憶を失った(食われた?)薬師だという結論になったようで村まで連れて行って貰える事になった。


 まあ事情が全く掴めないので何が起こっているのかはさっぱりなのだけれど。

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