第2話 酔っ払いの夢?

 俺、鳴海なるみ つかさは酔っ払っていた。


 現在大学四年生。


 少し前までは就活で悲鳴を上げていたが今は希望していた職種の企業に内定を貰えたことで、その呪縛からも解放されている。


 単位もあと僅かと卒業も問題ないこともあって大学生活最後の夏休みを謳歌していた。


 八月の猛暑、滴り落ちる汗を気にもせず俺はフラフラと駅へと歩く。


「あー飲み過ぎたー」


 しこたま飲んで、そして吐いたので気分はあまりよくない。


 だがヤバかった時からそれなりに時間も経っているので意識はそこまで朦朧としている訳ではない。


 でなければ終電で帰るなどせず一緒に飲んでいた友人の家にでも泊まっていただろう。


「こりゃ明日は爆睡だなー」


 駅の改札を通りホームへと続くエスカレーターに一人で乗る。平日の深夜のせいかホームにも他の人影はなかった。


(終電が来るまであと十分くらいか)


「よっこいしょっと」


 ホームにあるベンチに腰を掛ける。寝たら不味いが寝なければ問題ない、そう思って俺はバックから買ってあったペットボトルの水を取り出してゴクゴクと飲む。


(こんな自由気ままに居られるのはあと半年くらいか。あー社会人になりたくねー)


 モラトリアムを存分に満喫しているからこそその先の事を考えると憂鬱になりそうだ。


 まあ希望の業種に行けるだけ俺は幸福な方だろう。

 まだまだ周りには就職が決まっていない人もいるのだし。


 そんな事を考えながらウトウトしかけていると電車がやってくる。

 これを逃すと始発まで待たなければならないので乗り逃す訳にはいかない。


 そう思って立ち上がろとしたのだが、急に視界が歪んだ。


(あれ? 思ってた以上に酔いが回ってたか?)


 平衡感覚が掴めず、このままでは倒れるのではないかと焦ったところで意識が暗転した。





 目が覚めた時に最初に感じたのは喉の渇きだった。


(あれ……俺、何してたんだっけ?)


 ボーとして頭が回らない。

 とりあえず近くに落ちていたバックの中に残っていたはずの水を取り出して飲む。


(ってそうだ。飲み会から帰ってる最中だった)


 そう、俺は確かに電車に乗るところまで行っていたはず。


 そこで急に意識が薄れたのでもしかしたら急性アルコール中毒か何かで倒れたのだろうか?


「……ってここどこだ?」


 周囲は明らかに見覚えのない景色だった。


 床は石畳のようになって明らかに駅のホームじゃないし、明かりがなくて薄暗い。幸い今は日が昇っている時間らしくて外から差し込む陽光で視界が確保出来てはいるが万全とは言い難い。


(……酔っ払ってどっかの倉庫みたいなとこにでも突入したのか? いや、駅のホームまで行った記憶はあるんだが……あれは夢か?)


 だとしたらどこまでが現実でどこまでが夢なのだろうか?


 そんな事を考えながら起き上がり陽光が差し込んできている窓に近付く。

 そこからの景色でここがどこか判明すると考えたのだが、


「……なんだこりゃ」


 結果は意味不明だった。


 何故ならその景色は木々が生い茂って人工物らしき物がほとんど見当たらないという明らかに異常なものだったからだ。


 飲み会を行ったのは繁華街だ。


 その近くに山なんてある訳がないし、近くには公園すらなかったはず。


 だが現実の景色は森というレベルを超えて木々が存在している。


「え、なんだこれ。マジでどうなってるんだ?」


 混乱する頭で必死になって考える。


 これは夢か? いや頬を抓ったら痛みがある。だとしたら現実だっていうのか? 


(だとしたらこの生い茂る木とこの遺跡みたいな建物はなんなんだ?)


 その答えを返してくれる存在はいない。ただただ混乱することしか出来ない俺だったが、


「ギヒ?」


 その背後から聞こえてきた音にハッと振り返る。


 そこには緑色の肌をした明らかに人間ではない謎の生物が立っていた。

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