小鬼狩り《ゴブリンハンター》の異世界調査録

黒頭白尾

第1章 異世界への遭難と帰還

第1話 プロローグ とある遺跡にて

「遂に、遂に見つけたぞ」


 とある古代帝国の遺跡。


 その奥に隠されていた封印の間と呼ばれる場所に。


 世界の真理を求め研究を続けること幾星霜、遂に私はたった一人だけで辿り着いたのだ。


「これで本当の愚か者がどちらか判明するのだ……!」


 そんな物はないと言い、私を存在しない物を求める愚者だと馬鹿にしてきた奴ら。


 今からそいつらの吠え面を想像するだけで笑いが込み上げてくる。


 厳重に隠されていた隠し扉を抜けて奥に進む。


 高揚感は覚えているが慎重に、だ。ここで罠にかかって死んでは元も子もない。


「これはゴーレムか?」


 通路には幾体もの古代帝国時代のゴーレムと思われる物が転がっていた。


 どれもこれも動く気配はない。


 しっかりと整備されたゴーレムは人間の寿命の数倍から数十倍以上も稼働すると言われているのに。


 全てがボロボロになるまで壊れているということは一体どれだけの月日が流れたのだろうか。


「数千年、下手をすればそれ以上の月日が流れているのか……?」


 これだけでも歴史的価値は相当なものだが私が求めるものはその程度ではない。


 齢六十を迎えるまで一心不乱に求め続けたのはこんなものではないのだ。


「ここが古文書に掛かれていた封印の間か」


 そうして辿り着いた最奥の部屋には一つの台座しかなかった。


 奥に続く隠し扉なども調べた限りでは見つけられない。


 台座の上には透明な球体が設置されていた。


 その材質は見ただけでは判別がつかないし、よく見ればその球体と台座には複雑な真言が羅列されているのが分かる。


「『空間』とこっちは『地脈』か? ……駄目だ、断片的な情報しか分からん」


 ここに真理、あるいはそれへと至る情報が書かれているのか判断はできない。


 だが逆にそのことが期待を大きくする。


 長年、真理へと至る為に真言の研究を重ねた私ですら断片的にしか分からない文字。


 それは今の世に出ていない未知の真言に他ならない。


「とにかくこれらを持って帰って研究するしかあるまい。幸いゴーレムやこの新たな真言の一部を国にでも提出すれば研究費用には困らんだろうしな」


 台座は固定されていたので下手に動かすと壊してしまう。


 仕方ないので台座に描かれた文字は持って来ていた紙に書き写して、球体の方は持って帰る。


 ちなみに球体の方は簡単に取り外しが可能で外しても特に何かが起こることもなかった。


 こうして私、この調査結果によって後に賢者の称号を得ることになるマンスリーグ・グリアシスの遺跡探索は完璧とは言わないが満足の行くものとして終わったのだった。





 マンスリーグは一つの大きな見逃しをしていた。


 その最奥の間が封印の間と古文書に掛かれていたその意味を。


 その場所は遺跡の奥に封印された部屋などではなく、あるもの封印をしていた部屋だったのだと。


 マンスリーグが球体を持ち帰った遺跡の封印の間では徐々に変化が起きていた。


 と言ってもそれは目に見えるものではないし、その部屋自体には何ら異常はない。


 あの球体は封印の為の要石。


 それがなくなったことで徐々に封印されていた地脈が活性化して門が開き始める。


 遥か古き時代にて隆盛を極めた古代帝国。


 そんな帝国ですら最終的には封印するしかないと判断されたそれが。


 それが物語の始まりの切っ掛けとなることこの時に知る者は誰一人としていなかった。


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