第6話 七塚家の双子――世界β・東京
望と光の住む家は、古くからこの辺りに住まう地主の家で、昔ながらの日本家屋だった。今流行りの古民家と呼べるものだろう。
住所表記は東京都だが、この辺りにはまだ田畑が残っていて、農家として機能している家もそれなりにある。望の家では祖父の代で農業から手を引いたが、家屋だけは手入れを繰り返しながら現役だった。
以前から父の退職後は母の故郷へ移り住もうと計画していた両親は、都合よく父の会社がその地域へと移転したので、嬉々として移住計画を実行に移したのだった。
こうして親子四人でも広かった日本家屋には、子供たちだけが残された。二人は大学生。学校は自宅から通ったほうが都合が良い。
そんなわけで、七塚家には現在、二十歳の双子が住んでいる。
◇◇◇
望と光は仲の良い双子だった。
よく喧嘩もしたが、仲直りも上手かった。霊感体質のせいで少々臆病な望とは反対に、光は何に対しても飄々とした性格だったが、かえってその違いがお互いに噛み合っていたのかも知れない。
両親がいなくなり二人暮らしとなった後も、双子は問題なく生活を回していた。
二人の顔立ちはよく似ていて、望が化粧をせずに素顔でいると、それはよりよく分かった。男女の双子なので二卵性のはずだが、それにしても似ているねとよく驚かれる。
思春期を超えたあたりから、さすがに男女の差は出てきたが、それでも光が中性的な顔立ちなことと、望が女子にしては高身長なこともあり、二人が双子であることは一目瞭然なのである。
そのせいかどうかは分からないが、望は女子に人気があった。人当たりの良い性格や、友人としての付き合いやすさという観点からではない。恋愛対象としての「好き」の対象とされることが多かったのだ。
中高生の頃は制服でスカートをはいていたはずなのに、ファン界隈で「王子様みたい」と囁かれていた。
恋愛経験ゼロの望とは違って、何人かと交際経験のある光だったが、「いつも最終的に女心の分かる望と比較され、幻滅されて破局に至る」と愚痴るのだった。望にしてみれば「そんなこと知ったこっちゃないよ」と返すしかないのだが、そろそろそんな困りごともなくなるだろう。
大学生になり、お互いに行動範囲も広がった。服装も随分男女差が出てきたし、望自身、鏡に映る自分の容姿はやはり女だと感じるのだ。髪型を変えたら、きっともっと印象は変わる。
――髪、伸ばしてみようかな
そんな風に考えるようにもなった。
「今度は絶対、ひっぱらないでよね」
見えない幽霊に対して声をかける。鏡に映るのは自分ひとりだけだったが、誰かが頷いた気配が分かった。
ふ、と思わず笑い声が漏れる。
慣れたものだ。この幽霊に対しては、流石に二十年近く共にいれば恐怖感も薄まる。驚かしてこない時に限るが。
しかし、
『たすけて』
――まただ
聞こえるかな、との予想通りに、望はそのメッセージを感じた。鏡に面と向かっている時。こういう時に、このSOSを受信するのだ。
「ねえ」
鏡に手をついて、望は付き合いの長い方の幽霊に問いかけた。見えないので、どこに視線をあわせて話せばいいのか分からない。なのでとりあえず、鏡の中の自分を見た。
「誰が私に助けを求めてるの? あんたは知ってるの?」
ふわりと、風が頬を撫でるように通り抜けた。窓は締め切っている。
「
名前を呼び、風が去った方向を見た。望の視線は見えない幽霊を追う。
しかし、その日はそれきり、幽霊の気配を感じないままだった。
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