第5話 SOS――世界β・東京

 しかし、しかしだ。


――何かが違う


 違ってきた、と感じるようになったのは、二年ほど前からだろうか。


――種類が違う


 もしかしたら今まで望にちょっかいを出してきた幽霊とは、別個体が加わったのだろうか。それくらい望が感じる怪奇現象の性質が変わってきたのだ。


 真由佳が「おちゃめ」と表現したようなものとは違う。つついたり、息をふきかけたり、指文字でしょうもないことを伝えてきたり、そんな類のものではなくなってきたのだ。


『たすけて』


 そんな言葉を感知するのは、必ず鏡を見ている時だ。

 そう気づいたのは、大学生になった頃だった。両親が他県に移住し、光との二人暮らしが始まった時期だったので、生活の変化からのストレスが原因だろうと軽く考えていた。


 しかしあまりにも頻回に、『たすけて』という不吉なメッセージが頭に飛び込んでくる。声が聞こえるのとは違うのだ。心で、頭で感じるのだ。


 それも自宅にいるときに鏡を見た時限定で。


「この家、まさか崩壊寸前なのかな。大分古いし」


 もしや家屋の悲鳴かと思ったが、光はあっさり否定した。


「父さん達が引っ越す前に、リフォームついでに業者に点検依頼してたじゃないか。異常はなかったはずだよ」


 それならば何だろう、このSOSは。


 声ではないので性別すら判別できない。声の調子も分からないが、切羽詰まっているのだろうか。


「だれなの……?」


 毎朝化粧をする時に、望は鏡に向かって問いかける。しかし『たすけて』のメッセージの他に、言葉となって受け取れるものは何もないのだった。

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