2023年10月20日
高校生の私は赤いジャケットの制服を着て登校している。朝日は昇り切っておらず、辺りは濁った水槽の中のようにほんのり薄暗い。登校時間よりかなり早い時刻に出発したのは二人の友達と誰が一番早く登校するか勝負しているからだ。土手沿いを歩いて殺人事件の注意喚起の看板を通り過ぎ、全貌の見えないスタジアムの下を抜けて学校の敷地に忍び込む。校舎にはまだ鍵がかかっていて入れなかったので体育館で待つことにする。暇だったので二階のキャットウォークに上がろうとすると、舞台の幕の向こうから友人が現れる。
「私の方が先。私の勝ちね」
友人は勝ち誇ったような顔で私を見下ろしてくる。どっちが先に着いたかなんて分からない、そもそももう一人がそろうまでは勝敗は決まらないはずだと反論するが、彼女は聞く耳を持たない。上から私を鼻で笑い、見せつけるように髪をなびかせながらスカートを翻す。私は彼女の傲慢な性格も気障ったらしい態度も憎たらしくてしかたがないが我慢して階段をのぼる。その途中で突然体育館の正面入口が開き、用務員のお爺さんが入ってくる。お爺さんは怪訝そうな顔で私たちに何をしているのかと問いただす。私と友人はあわてて文化祭の出し物の練習をしていたと口裏を合わせる。お爺さんはいぶかしげな表情をしたままだったが、他の場所の掃除もあるためその場を去る。二人で胸をなでおろしつつ、キャットウォークの片隅のドアを開く。ドアの向こうにはカフェが続いており、挽きたてのコーヒーの香りが漂ってくる。しかし内装は急ごしらえといった感じでカウンターのイスはプラスチックだったり隅にダンボールがたてかけられていたりした。一人しか通れないほどの狭さの通路を進んで奥の席につき、コーヒーを注文する。愛想のよい店主はコーヒーを入れながら、今朝また殺人が起きたと話し出す。殺されたのはこの高校のクラス委員長だという。その特徴を聞くうちにそれはまだ姿を見せていない私たちのもう一人の友人らしいことが分かる。高飛車な方の友人は初めこそショックを受けていたが、すぐに記者に取材されるんじゃないかと色めきたつ。私はこっちの方が殺されればよかったのにと思いながらコーヒーをすする。
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