2018年12月17日

 ある組織は「何か」と戦っている。4人1班で活動しており、班員はそれぞれ戦士、絵描き、運び手、班長といった具合に役割が割り振られている。

 ある班が夜のガソリンスタンドで討伐任務についていた際、戦士が殺される。しかし、偶然その場にいた一般人の青年が本人がみえなくなるくらいの強く白い光を発して「何か」を倒す。班長は一般人が「何か」と戦いしかも倒したことに驚きを隠せない。というのは、「何か」と戦えるのは一部の人間のみだからだ。青年は妹を「何か」に殺されたため一人で復讐の旅をしていたという。班長はそれを聞いたとき青年に対して不満を抱く。彼女も一人娘を「何か」に殺されたため「何か」を殲滅するべく組織に身をささげていた。そんな彼女からすれば、組織に奉仕することなく一人で場当たり的な戦闘を繰り返す青年が無責任にただ己の怒りをぶちまけているだけのように見えたのだ。とはいうものの、班員の穴を埋めるために青年を組織に引き入れるよう本部から命令されたため班長は説得を試みる。青年は不信感を持っている様子だったが、彼らについていけば「何か」と確実に戦えると考えて行動をともにすることになる。

 彼らは基地に戻る。基地は地下に広がっており山小屋のような雰囲気だが、居住空間というより物置として使われているようだった。階段を降りて右手にはブラウン管やラジカセ、本、雑誌が積まれた作業机が置かれている。あとは一面本棚だ。大学図書館の書庫のように本で詰まった棚が所せましと並んでいる。棚は天井に届く高さではしごがついている。天井付近の壁からは五つ六つほど箱型のものが突き出ている。中に毛布や服が敷き詰められており、寝床になっているようだった。

青年は基地の中をおもしろそうに歩き回る。班長は中を案内してやる。彼と歩きながら、班長は目の前で一人娘が殺されたときのことを青年に話す。娘の仇である「何か」が許せなかったのはもちろん、あまりにも無力な自分も許せなかった。それで何の能力も持たない自分でも戦うべくこの組織に入ったのだと。話をきいた青年は班長に少しだけ信頼を置く。

 翌朝、一同は箱のベッドの上でミーティングをする。その日は午後三時から離れ島で討伐任務に就く予定だ。班長が一日のスケジュールを確認していく。絵描きだけはクレヨンで絵を描いているが誰も気にしない。彼はヒッピーのようにぼさぼさの髪を伸ばしており、容姿が異様にひょろ長かった。いつも黄ばんだ白の作務衣のような囚人服を着ており、精神病院から出てきたという噂もあるが、喋らないということ以外とくに変わったところはない。

 出発時間になる。まずは港に向かう。正午の波止場は陽の光で白く輝いていた。彼らの足元で灰色がかった波が静かに打ち寄せている。左手には海に突き出た船着場があるが眩しくてはっきりとは見えない。

運び手の少女が白い紙の舟を水に浮かべる。少女はまだ十を少し超えたくらいで、自分のやるべきことを了解してはいるがその行為の意味を理解しきってはいない。舟には一人ずつしか乗ることが出来ず、戦士の青年が一番手となる。少女が背中を軽く押すと、彼はすうと舟に吸い込まれていく。それから舟がひとりでに進みだした。ゆったりとした動きだったが、すぐに見えなくなった。青年の次は班長だった。彼女が荷物を整えているうちに舟が帰ってくる。運び手がつくるものは空間を移動する。班長がリュックを背負って深呼吸をすると少女が彼女の背中を押す。

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