配信参観with≪冥府の花嫁≫、≪死者の案内人≫、≪暖炉の聖女≫

「闇の饗宴へようこそ!今宵も迷える子羊達を教え導いてやろう」


”待ってましたぁ”

”こんばんは!”

”楽しみにしています”


僕はいつも通り、配信を始めた。しかし…


「≪冥府の日輪ラストサン≫様しゅてきぃ…濡れちゃいそうだわ…」

「生≪冥府の日輪ラストサン≫様、生≪冥府の日輪ラストサン≫様、生≪冥府の日輪ラストサン≫様あああああああ」

「エロスのお兄様ぁ、まさかこの目で見ることができるなんて、夢みたいだよぉ…」

「…」


(≪境界を超える者クロスオーバー≫達がすぐそこにいるということを除けばだけど…)


僕は先日までのことを思い出していた。


━━━


━━



「≪冥府の日輪ラストサン≫様。私が勉強を教えてあげるわよ?」

「いやいや、音無さんみたいな天才よりも誰にでも寄り添うことができる私が教えた方が確実だよ?」

「血のつながりのある私の方が教えるのが上手に決まってるじゃないですかぁ~。おばさんたちはさっさと帰っていいですよ?」


先週、佳純先生の正体が≪暖炉の聖女ヘスティア≫だと見破った後、詩と佳純先生がマウントの取り合いが放課後に始まった。リアル≪聖戦≫を起こすようになっただけでも頭が痛いのに、そこに愛莉も加わって余計にカオスになった。


場所は学校の空き教室だ。成績が悪いのは本当なので、学校で勉強している。だけど、三人のせいで全然集中できない。


ちなみに愛莉がなぜ学校内に入っているかというと、校門の前でずっと正座している中学生がいると、うちの高校に苦情が来たからだ。当然中学校にも文句が言ったのだが、愛莉は知らぬ存ぜぬを貫き通し、ついにうちの高校側が折れて、放課後限定で学校内に入る許可を勝ち取った。


僕の教室に愛莉が「お兄ちゃ~ん」と入ってきたときは、愕然とした。そこで佳純先生と愛莉がお互いの正体を知り、後はお察しだ。


「≪暖炉の聖女ヘスティア≫を置いて帰りましょう。今日は私がご飯を作るから≪ネフティス死者の案内人≫はゆっくりしていていいわよ?」

「家に帰るのは賛成ですけど、私はお兄様と『二人きり』でご飯を食べるんです。≪冥府の花嫁ペルセポネ≫は一人で帰れ」

「≪冥府の花嫁ババア≫と≪死者の案内人ネフティス≫で一緒にご飯を食べればいいんじゃない?≪冥府の日輪ラストサン≫様は私の家で一緒に暮らせばいいんだし」

「「ふざけんな」」


もう一度言う。僕は勉強中だ。なのに、先生役を買って出ている三人に超絶邪魔をされている。


「あの、勉強したいんだけど…」


すると、ハッと僕の方を見た。良かった。これで勉強が捗る。


「ごめんなさい…」「ごめんね?」「ごめん、お兄ちゃん」


ちゃんと反省してくれていたならよかった。普通にしていれば最高の美少女達だ。それに先生役として申し分ない(愛莉は優秀過ぎて高校の範囲はもう終わらせているらしい…)。


これで勉強に集中できると思った。しかし、


「≪冥府の日輪ラストサン≫様が勉強できない方が私に依存してくれると思って、勉強なんて教える気はなかったの…」

「おい、コラ」

「私も。永遠に留年してくれれば職場でも家でも結婚生活が送れるからラッキーだと思っていました…」

「教師失格だよ」

「お兄ちゃんと隣の席で勉強したいなぁ」

「可愛いことを言ってるけど、僕を二留させようとするのはやめて」


普通、誰かの信者と言ったら、その誰かを喜ばせたいと思うものじゃないのだろうか。それなのに、うちの≪境界を超える者信者筆頭≫は自分の私利私欲を満たすために、僕を貶めようとしている。


すると、ギャーギャーとまた喧嘩を始めてしまった。ため息と同時にちらりと時計を見たら、時刻は6時を迎えていた。その間、勉強していた時間はほぼ0分だ。成果と言ったら『渉猟しょうりょう』という言葉が『読書に耽る』という意味でカッコいいから覚えたくらいだ。


「不味いな…」


境界を超える者クロスオーバー≫がいる空間では全く勉強ができない。かといって家で一人でやりますと言っても馬鹿すぎる僕一人では留年は必至だ。


僕が留年しないためには≪境界を超える者クロスオーバー≫達に勉強を教えてもらうしかない。それ以外に僕が留年しない方法はない。


となれば僕は何かご褒美を上げて釣るしかない。でも僕があげることができるご褒美なんて…


「あるな…」


ほんとはやりたくないけど、背に腹は代えられない


「≪境界を超える者クロスオーバー≫よ、話がある━」


僕の話を聞いてもらうために、≪冥府の日輪ラストサン≫の役になりきった。


━━━


「まさか≪冥府の日輪ラストサン≫様の成績を上げたものにはご褒美を下賜してくださるなんて…」

「聖域に入れるなんて、グス、仕事を頑張ってきてよかったよぉ」

「≪冥府の日輪ラストサン≫様の生声…ダメダメお兄ちゃんとはオーラが違うなぁ」


詩が言ったように僕の成績向上に貢献した者にはご褒美をあげるようにした。具体的に言うと聖域僕の部屋でコラボ配信をするという物だった。


それを聞いた≪境界を超える者クロスオーバー≫の食いつきは半端じゃなかった。明日から本気を出すといってやる気を出してくれたので良かった。


そして、


「まさか報酬の前払いで、生配信神の御業の様子を見せていただけるなんて…夢みたい」


佳純先生の言葉に詩と愛莉が仲良く頷いていた。


ちなみに僕は誰とも配信をコラボしないことで有名だ。というよりも常に孤独を謳っている故に、配信したら僕のイメージを崩してしまうのではないかと思って、意図的にやってこなかった。


だけど、信者と配信をするだけならギリギリセーフだろうと自分を納得させた。


今回配信を見学させているのは、サービスだ。もちろん僕の留年回避に本気で取り組んでもらうという考えもある。それでも普段から≪境界を超える者クロスオーバー≫にはずっとお世話になっているのだからこういうのもいいだろうと思って見学させた。


(もう後悔してるけど…)


”≪冥府の日輪ラストサン≫しゃまの横顔素敵ぃ”

”エロい声がエロく響いてエロエロ空間になっちゃってるよぉ”

”≪死者の案内人ネフティス≫は猛烈に感動しております”


赤札スパチャで僕の配信に投げ銭を投げてくるのだが、明らかに邪魔。リアルでも挙動不審の三人の女がよだれをたらしながら、僕のことを見ている。しかも、興奮Maxだから、配信を観てくれている信者達に赤札スパチャで匂わせ発言をするしで、大変過ぎる。


”なんか≪境界を超える者クロスオーバー≫達が意味深なことを言ってるんだけど…”

”≪冥府の花嫁ペルセポネ≫様は前に顔を出していたよな?”

”まさか≪死者の案内人ネフティス≫様と≪暖炉の聖女ヘスティア≫様までリアルで≪冥府の日輪ラストサン≫様と交流があるんじゃ…”

”孤高とは何ぞや”


(ほら、こうなる)


境界を超える者クロスオーバー≫達のせいで≪冥府の日輪ラストサン≫の闇のイメージがどんどん薄れてしまう。


「ん?」


そんなことを考えていると、スパチャが来た。≪境界を超える者クロスオーバー≫ではなく、一般人の質問だった。


”会社員千人以上の大企業に勤めている営業のイケメンエース社員です!経理が一人しかいないのですが、コミュ障ボッチの陰キャで鬱陶しいので辞めさせました。無能そうなやつでもできる仕事なら明るくて元気な新人を入れた方がいいと判断しての行動です。褒めてください”


(ツッコミ待ちなのかな…?)


コメントも『…』がほとんどで絶句していた。≪境界を超える者クロスオーバー≫のみんなも黙ってしまった。赤札で送ってくれたということはこの人は本当に僕から褒められると思って言っているんだろう。


だけど、僕はそういう奴に対して手加減しないと決めている。


「ふっ、愚かを通り越して大愚かだな、貴様は。孤独の数司が無能で追放しただと?阿呆なことを抜かすのも大概にしろ。千を超える民草の金貨の流れを一身で管理し、問題らしい問題を犯さなかった。それのどこが無能なのだ?予言をくれてやる。舵を失った貴様の泥船は一月のうちに沈むだろう」


”ニュアンスはわかるけど、意味が分からん!”

”≪冥府の日輪ラストサン≫様が怒っていらっしゃる”

”質問主がクズなのはよくわかった”

”≪境界を超える者クロスオーバー≫の皆さま、お願いいたします!”


少し気合を入れすぎた。反感を買うようなことを言ってしまったかもしれないと思っていたが、コメントは僕に対する賞賛で溢れていた。


(意味が分からないのに、よく僕を褒められるなぁ)


すると、


「私ぃ、お兄様の妹で良かったですぅ…」


愛莉を筆頭に隣にいる≪境界を超える者クロスオーバー≫達が感動で号泣していた。普通に恥ずかしいし、照れくさいからやめて欲しい。


しかし、問題が起こった。


”あの、≪境界を超える者クロスオーバー≫の皆さん解説を…”


僕の意味深な厨二発言に答えようにも隣で泣いている≪境界を超える者クロスオーバー≫達はあてにならない。このままだと信者たちは困惑したまま終わってしまう。というか僕が恥ずかしいことを言って終わりになってしまう。


「ダメ、涙で文字が打てない!」

「私もだよ!スマホがずぶぬれになっちゃってる…」


佳純先生も詩も全くあてにならない。僕は他の≪境界を超える者クロスオーバー≫達に期待したが、今回に限って誰もいなかった。


(どうする!?僕が自分の言葉の解説なんて恥ずかしすぎてやれないぞ!?)


僕がどうしようかと迷っていると、赤札が投げられた。


”え~と、お馬鹿さん、超馬鹿野郎だね、君は。一人で経理をやっている陰キャ?ド底辺?をクビにするとか、馬鹿なことを言わない方がいいよ?千人を超える社員のお金の管理をその陰キャが一人でやっていて、問題を起こさなかったんだよ?それのどこがただの陰キャなの。有能な陰キャじゃん?え~と、予言してあげる。陰キャを失った貴方の会社は一か月以内で潰れるだろうね”


「…」


所々に棘がある言い方だが、おおよその流れは間違っていない。しかし、僕にとってはそれどころじゃなかった。


問題は送り主だ。


“≪冥府の日輪ラストサン≫様!AKARIはついに≪境界を超える者クロスオーバー≫になることができるのですか!?“


AKARI…僕が『聖剣』を抜くキッカケになった女の子、宮下あかねだ。

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