河合佳純2
「ささ、入って入って」
「はぁ…」
僕は河合先生と共に生徒指導室に入った。何をするのかと聞いても「秘密」と言われてしまって、僕は付いていくしかなかった。
ガチャ
「え?」
「気にしないで。情報漏洩を防ぐものだから」
「なっ、なるほど」
鍵を閉められてドキリとしたが笑顔の河合先生を見ていたら安心させられた。それと同時に僕はそれだけのことをしでかしてしまったのかと思った。
「さて、そこに座ってもらっていいかな?」
「はい」
僕は言われるままに席に座った。生徒指導室ということもあって少しだけ高そうなソファーだった。
「うんしょっと」
河合先生は僕の前に座るのかと思ったら、隣に座った。しかも体が密着していて、香水の良い匂いが鼻孔をくすぐった。
「さて話をはじめようか」
「は、はい」
「?何か緊張してる?」
「いえ、その距離が近「実力テストの答案を出してもらってもいい?」あ、はい」
僕の言葉を遮るように、答案を要求してきた。僕は焦りながら鞄から取り出して、机の上に取り出した。
そして、僕の答案を見ながら「うーん」とうめく。その仕草に見惚れてしまうが、煩悩を振り払う。
「やっぱり、ここ、私が採点ミスをしちゃってたかぁ」
そういって河合先生は僕の答案に罰を付けた。そして、無慈悲にも97点に点数が落とされた。けれど、河合先生が僕を呼びつけた理由がやっとわかった。
「ごめんね。私の不注意で…」
「いえ、それでも人生最高得点な「あ、ここもだ」え?」
点数が94点に落とされた。この時点で2位ということになり、宮下さんに敗北したことになった。
ただ、異常はここからだった。
「これもだ、ここも、これもマークミスしてるし、この記述も間違えている。『専門』に点を付けてるし、抜き出してるところもミスしてるね」
「あ、あの、河合先生?」
僕の点数が90、80、70、60、50、40、30…と目減りしていった。僕の答案は〇しかなかったのが、オセロでひっくり返したように×へと入れ替わっていった。
そして、
「0…ごめんね、山井君。採点ミスをしちゃって…」
「あ、その、え~…」
天国から地獄に落とされた気分だった。100点だった答案用紙は0点に変身し、僕は何も口にできなかった。
「ということで山井君は赤点です…しかも文句のつけようもないくらいね…このままだと留年が確定しちゃうね…」
「え?嘘でしょ!?」
「本当だよ…ほかの先生方からも聞いたけど、全部赤点だったらしいよ…」
「そんな…」
流石に留年ということで僕もぎょっとする。しかし、河合先生は落ち着いていた。
「山井君、ううん、旭君には一つだけ留年を免れる方法があるの」
「っ、それはなんですか!?」
僕はがっつりと食いつく。留年しないためなら、なんでもする。僕が真っすぐに河合先生を見つめると、河合先生は顔を真っ赤にした。
「あんまり見つめられると照れちゃうなぁ…あはは」
「す、すいません」
「ううん。むしろ嬉しかったから…」
「え?」
「な、なんでもないよ!」
「そ、そうですか」
僕と河合先生の間に沈黙が支配する。僕は留年の瀬戸際だっていうのに、なんでこんな甘酸っぱいことをしているんだろう。とにかく話を戻さないと。
「あの、僕は何をすればいいんですか?」
「うん。まずは旭君の成績を上げることが急務かな。それは分かるよね?」
「あ、はい」
そりゃあそうだ。成績が終わってるのに留年は勘弁してくださいなんて阿呆すぎる。
「だからここからは私からの提案。私と一緒にマンツーマンで勉強しない?」
「え?先生と僕で、ですか?」
「うん。旭君には普段お世話になってるからね。私からじゃこれくらいしかできないけど、どうかな…?」
そんなの願ったりかなったりだ。美人な河合先生と一緒に勉強なんて夢のようなシチュエーションだ。しかもマンツーマンで教えてくれるというのだ。断る理由は全くない。
ただ、美味しい提案だというのに不安がぬぐえない。
(こんなこと、考えちゃダメだ!河合先生は僕のために提案してくれているんだ!)
僕は顔をぶんぶん振って横に座る先生を見る。そして、
「ぜひお願いします!」
「~~!やったぁ!旭君ありがと!」
「!?」
僕は河合先生から抱き着かれた。柔らかさとかいい匂いとか色々なものが僕の脳に直接伝わってきた。
「ふ、ふご」
「あっ、ごめんね!」
河合先生が僕を離してくれた。心臓に一瞬だけ空白ができたような気分になったが現実感を取り戻す。
「それじゃあ今後の具体策について話そうかな」
そして、それは笑顔で告げられた。
「まずは私の家に行こうか!」
河合先生の家?僕は聞き間違いだと思って聞き返した。
「先生の家ですか…?」
「うん。私の家だよ!」
聞き間違いじゃなかったらしい。茫然としていると先生がその理由を説明してくれた。
「個別指導がバレたら他の先生方に怒られちゃうんだよね~。それに旭君、相当やらかしちゃったじゃん。『聖剣』云々の話と結び付けて私と一緒にいるとバレたら困るんじゃないのかな?」
「うっ、確かに…」
僕のことは正直、どうでもいいけど、河合先生が僕と一緒にいることでひどい目に遭うのは困る。
「≪
「え?」
「あ、なんでもないよ!それより行こうか!」
「ちょっと!?」
僕は突然、腕を引っ張られた。河合先生のどこにそんな力がっていうくらいの力だった。
「≪
ぞっ
ぶつぶつと何か念仏を唱えながら僕を引っ張っていく河合先生の横顔を見ると、目が真っ黒だった。
「先生、ちょっと、痛い!」
「あっ、ごめんね」
僕がそういうとあっさりと手を離した。そのせいで僕はしりもちを着いた。
「大丈夫?」
「あ、は、は…い」
僕が見た河合先生の横顔は見間違いじゃなかったらしい。形容しがたい闇が目の前にあった。
「全く…こんなんで倒れちゃうなんて本当にダメダメだね…やっぱり君のことは私がしっかり面倒をみないと!」
「河合先生…?」
「私のことは佳純って呼びなさい」
「で、「佳純」、あの、「佳純」、はい…佳純先生…」
無理やり名前を呼ばされた。笑顔だったけど、圧力しかなかった。
「うんよろしい。でも、私の名前を呼ぶのにそんなに時間がかかるなんてどういった教育を受けてきたのかな?」
「すいません…」
「謝る必要はないんだよ?だけど、旭君は私がなんとかしないといけないということは分かりました。よって今日から私の家で泊まり込みで勉強です。家事全般は私がやるから、旭君は自分のやることに集中してね!それじゃあ行こう!」
「え?え?」
僕は再び手を取られて無理やり立たされた。そして、扉を先生がガチャリと開けて、生徒指導室から連れてかれそうになったその瞬間、
「こんにちは、河合先生。私の彼氏に何か用かしら?」
「…音無詩」
「詩!?」
扉を開けたらドアのところで壁に背を預けている詩がいた。
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