音無詩
詩が邪悪な笑顔を浮かべながら≪
僕は配信を切って、詩と向かい合っている。詳細を聞くためだ。
「当初の予定だと『聖剣』を抜いたダメダメ旭を甲斐甲斐しく世話してあげる幼馴染ポジションでだんだん私のことを好きにさせようと思ったけど、嘘を付かない優しい人が好きなんて言われたら隠し事なんてよくないわよね」
「どっちみち『聖剣』を抜いたあの日にバッドエンドに直行だったわけね」
こんな目に遭うんだったら『聖剣』なんて抜かないでカツアゲされたまんまの方が良かったかもしれない。
「ツンデレは夫婦の間でしか通じないわよ?まぁ事実婚している私には通じちゃうんだけど」
「信者なら僕の話を額面通りに受け取ってほしい」
詩ってこんなに危ない女の子だったのかと少し幻滅している。実際は優等生の皮を被った危ない女の子だったんだな。
「ダメな女にしたのは旭、いえ、≪
「何言ってんの?」
少しジト目で声を低くしてツッコミを入れた。しかし、詩はぞくぞくと身体を震わして、頬を紅潮させた。
「≪
ヤンデレとは会話が通じない人間であり、偏愛故に行動が予期できない人間のことを言う。これ以上詩と会話をしていたら頭がおかしくなりそうだったので、聞くところだけ聞こう。
「なんで僕の正体に気が付いた?」
一番気になるところを直球で聞いた。
「中二の8/9の午後7時5分に窓を開けていたら、旭の声が聞こえてきたの。気になって屋根を伝って耳をすましたら、≪
「そこまでは聞いてないし、普通に怖いわ」
僕のことをそんなに前から知っていたということか。≪
「ふふ、言わなくても気持ちは伝わってきているわよ?お礼は処女貫通でいいわ」
「そんな馬鹿なお礼があるか。もっとまともなやつにしてくれよ…」
「残念…それなら保留するわ」
「はいはい」
詩は≪
もう帰ってほしいが、まだ聞きたいことはある。
「スパチャのお金はどうやって工面したの?」
赤札のスパチャは一枚一万以上する。それなのに、あんなに僕に貢げるってことは相応の何かをしているはずだ。
「それなら簡単よ。私、投資で人生を何周もできるくらい稼いでいるから」
「マジか…」
危ないことをして稼いでいるわけではなかったので安心半面凄いなという気持ちでいっぱいだった。すると、詩はハッと気が付いたように声をあげた。
「あっ、もしかして≪
「僕をド変態に堕とすな!マジで滅ぼすぞ!?」
後、彼女でもない。妄想するにしてももう少しノーマルなやつにしろ。
「はぁ…それじゃあなんで今まで行動を起こさなかったんだ?中二の頃から知ってたならいくらでも僕と関わる機会はあったでしょ?」
「そんなの言わなくても分かるでしょ。恥ずかしかったからよ…」
「そ、そうなんだ」
おや?さっきまでのアブノーマルな行動から普通の恋する乙女みたいにもじもじしていた。ヤンデレから乙女へのギャップ萌えで少し当てられてしまう。
「だから、私は旭の部屋に耳を当てて≪
「前言撤回だよ」
全部台無しだ。やっぱりヤバイ奴はヤバイ。もうストーカーと一緒なんよ。
「もうこれがラストの質問。なんで僕を、その、「好きになったのかの理由ね?」そう…」
現実世界の僕は何もかもがダメ人間だ。勉強だって死ぬほど勉強したおかげで、恥ずかしくない高校を名乗れるけど、今ではドベの方だ。スポーツは昔からてんでダメ。ちびで顔も不細工な僕になんで近づこうと思うのだろうか。
ブイチューバ―がいい例だ。中の人がバレた瞬間に幻滅するなんてことはざらにある。
何が言いたいかというと、≪
「そんなの簡単よ。旭は配信で悩みを抱えた人たちを救ってあげてきたじゃない」
「…それは≪
山井旭としては何もできない。だから、虚構のキャラをつくりあげたんだ。しかし、詩は首を振るだけだった。
「ただの厨二配信だったら痛いで片付けられるわ。だけど、≪
「いや…」
「『いや』じゃないの。じゃなかったら、≪
「うん…」
こういう時に≪
詩はそのまま言葉をつづけた。
「さて、これで私の気持ちは分かってもらえたかしら?見知らぬAに対して本気で向き合い、そして、解決してしまう≪
「さぁ…」
「照れてる≪
「台無しだよ…まぁでもありがとう」
僕という人間に価値はないと思っていたけど、身近に見ていてくれている人がいた。それは自分は自分のままでいいと認められた瞬間だった。
僕がお礼を言うと、詩は一瞬目を見開いた。そして、髪を指で髪をいじり始めた。
「不意打ちはズルいわ…これはこのままベッドに押し倒され「帰れ」」
残念な美少女は結局最後まで残念だった。
━━━
「さっきのって、特進の音無詩だよね…?」
宮下あかねは≪
詩が≪
あかねも≪
≪
≪
けれど、あかねにはあまり焦った様子はない。
「音無詩と仲良くなって≪
ただ、あかねは一抹の不安があった。それは≪
『僕が≪
散々、あかねに嘘を吐き続けたあの憎きクラスメイト。しかし、どうしてもあの忌々しいクラスメイトを忘れられなかった。
「ああもう!あんなカスのことなんて考えてもしょうがない!明日になればバイトの給料が入るし、今月こそは≪
数日後、あかねは悪夢を見ることになる。
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