プロローグ4
「楽しそうにしてるわね」
そういって僕の部屋に侵入してきたのは
いつも怒ったような顔をしているが、慣れてしまえばこれがデフォルトであるということには気が付く。
詩とは小学生の頃からの腐れ縁でそこまで関係が深いかと言われればそうでもないというのが正しいだろう。普通に会えば挨拶もするし、会話もする。ただ、学校で会うことはほとんどない。会ったとしても詩と僕は天と地の差があるのでお互いにスルーしてしまっていた。
そんな詩が今、僕の部屋にいる?部屋に入れたのは何年ぶりかもわからない。ただ、窓の開閉の音がしたということは屋根を伝ってきたのだろう。
とりあえず僕は配信中で≪
「無視しないでくれるかしら?」
「あ、はい」
無理やり詩の方に向き直させられる。
”おいおいおい!孤高の≪
”滅茶苦茶美少女じゃねぇか!クソ羨ましいぞ!”
”その子との関係をkwsk”
ちらっと見えたコメントには詩が一体誰なのかというものだった。当たり前の疑問だ。僕だって推しの配信中に誰かが乱入してきたら気になるものだ。
「私は学校で『聖剣』を使ったあなたが心配で心配で仕方がなくて来たのよ」
端的に一番気になる動機について教えてくれた。なるほど。昨日のことで心配してくれたのか。
「感謝するが、我には≪
言ってて気が付いたけど、詩に厨二ってどうなんだろうか?普通に配信モードで対応したけど、滅茶苦茶恥ずかしいわ。これおばさんとかに言われて、うちの家族に伝わるんじゃないか?
「ふひ…」
「え?」
「なんでもないわ」
「そ、そうか」
詩らしからぬ邪悪な声が漏れた気がしたけど、気のせいだな。すると、詩が意を決したように会話を始めた。
「全く…あんな事件を起こすなんて…半信半疑だったけど『聖剣』を抜いたことは事実だったみたいね…」
「あの時の我の選択に悔いはない。奴らを殲滅するには『聖剣』を解放する以外に道はなかった」
「そう…≪
「ああ、ん?」
普通に会話できてるけど、おかしい。僕の厨二言語を理解できるのは≪
”『聖剣』ってなんだ?凄い気になるんだけど”
”何かの隠語か?本当に『聖剣』を抜いたのか?”
”というかこの子凄いな。≪
”同時翻訳と同時に会話の成立…≪
≪
しかし、ここまではまだ序章だった。
「はぁ…まぁやってしまったことは仕方ないわね。これからは
「はい…は?」
「勉強もスポーツも全然ダメだったわよね?全く仕方がないんだから。ついでにご飯も三食作って「ちょっと待て!」…何よ?」
詩は水を差されたような顔をしているけど、そんなことに配慮できないくらい聞き逃せないことがあった。
「我に花嫁などいないのだが!?」
「?私がいるじゃない?」
ゾッとした。僕に向けられる笑顔は最高級の物だったが、瞳のハイライトが黒一色だった。そして、勝手な妄想で事実改変をする、詩はストーカーそのものだった。けれど、この感情を向けられたのは初めてじゃない。
配信中に≪
”彼女だと!?≪
”リア充だったんですね。そりゃあ≪
”≪
”私なんて学校に行くのも嫌になっちゃった…”
詩の爆弾発言に≪
”≪
信者中の信者である≪
「ねぇ。さっきから大人しくしているけど、何か嫌なことでもあった?彼女としてできることがあれば聞いてあげるわよ?」
目の前にいる詩に恐怖を感じているんだよと言いたいけど、明らかに様子のおかしい詩にそんなことを言ったら僕が殺されるかもしれない。
「少々考え事を…な」
「そう。何かあったら本当に言って頂戴。≪
「うむ」
≪
「そうだわ。ついでに≪
「えっ!ちょ!」
詩が僕の前に身を乗り出して、チャンネルを削除しようとカーソルを動かす。柔らかい身体が当たって身体が再起動した。僕の唯一無二の財産だ。このチャンネルを消されるわけにはいかない。
”チャンネルを消されたら私の楽しみがなくなっちゃう!”
”ヤバイ彼女じゃん…全力で阻止してくれ!”
”消えろ彼女!私たちの楽園を奪うな!”
”おいおいおい!彼女ちゃん!やっていいことと悪いことがあるんだぞ?≪
僕は身体を乗り出して、詩の行動を妨げようとするが、女の子のか細い腕とは思えないほどの力で退けられる。
「なんで邪魔をするの?私は≪
「我と地上を繋ぐ唯一の扉だ。破壊は許さん!」
「どうしてよ!≪
「ひっ」
妄信的過ぎる詩の態度に素でビビッてしまう。僕が日和った瞬間に削除ボタンの一歩手前まで開いてしまった。
(ヤバイ!遠慮している場合じゃない)
僕は詩が動かしている右手に手を重ねた。そして無理やり剥そうと…する前に、暴れ馬のような詩がピタリと動きを止めた。
「≪
恍惚な表情を浮かべながら地面にへたりこんでしまった。しかも、≪
何はともあれ一難去ったようだ。椅子に深くかけて、肩で息をしながらへたりこんだ詩を見下ろす。
もうここまで来たらさっきから気になっていた、なぜ≪
”彼女っていうより信者の顔やろ”
”美少女にあんな顔をさせる≪
”やべぇなこの女。≪
”メンヘラ女に捕まったのか…」
「ふふ、私のことが好きだからってカメラの前でイチャイチャするなんていけない≪
もう普通に怖いわ。
「帰れ」
「嫌よ」
即答かい。≪
「部屋に入ってきた理由。説明しろ」
「?貴方が私を愛してるって言ったからでしょ?」
どうしよう。全く会話が成立しない。
すると、詩が自分のスマホをポケットから取り出し、そして、画面を見ながらニヤニヤしていた。
「嘘を付かない優しい人…」
「やめろぉぉぉ!」
リアルタイムで見ていないと出てこないセリフだ。正直、厨二キャラでツッコまれるのはある程度慣れたからいいんだけど、素の部分を言われるのは慣れない。しかも、配信史上五指に入るレベルのやらかしだった。
「恥ずかしがらないで。これからは私が傍にいてあげるから」
「違う。そういう問題じゃない!」
「嘘を付かない優しい人…それを聞いた時、私はいてもたってもいられなくなったわ。ついに≪
(僕の話を全く聞かないで勝手に語り始めたんだけど…)
”この子いい性格してるな(笑)”
”普通にヤンデレで怖いけど、自分に害がないと分かると可愛いもんだ”
「でも、それと同時に私は隠し事をしていたことに気が付いたのよ。嘘を付かない優しい人が好きな≪
「それ以上そのことでいじるのはやめてくれるかな?」
「だから、私は正体を明かすことにしたの。嘘を付かない優しい人が好きな≪
「話を聞いて。致命傷を受けてるんだけど」
≪
「それでも意気地のなかった私は最後に質問を加えたわ。美人で世話好きな美少女はどうか、と。そしたら、大好きと言ってくれたわ。だから、屋根を伝ってここに来たの」
「違う、
会話は通じないけど、言いたいことは分かった。そして、詩の正体も。まさかこんなに身近にいたとは…
「私は≪
ニチャアと浮かべたその笑顔は何よりも恐ろしいものだった。
”マジかぁ!ついに≪
”これは『聖戦』に決着がついたか!?”
”リアルでも配信でも、寄り添う彼女の鏡(?)”
コメントは湧いていたがこの間に、信者中の信者である≪
━━━
ここから変態が覚醒します。
期待してくれる方、ブックマークと☆をください!レビューをくれたら部屋で踊り狂います。
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