第8話 日向 南(ひなた みなみ)

 車に乗り込み「お金です」と伝え、1200万円の入った銀行の袋をトカゲ男に渡す。


 100万の札束を手に取り、軽く口笛を吹くトカゲ男。


 これから1200枚数えるのかな……「ダル~」と考えていると。


「ごり、現金を受け取る所、ちゃんと確認はしたか?」


「はい、が銀行員から受け取る所、しっかり確認しやした、大丈夫です」


 えっ、タトゥーゴリラの奴、今って言わなかったか……。


 少し前までクソガキって言ってたくせに、手のひらコロコロだな。


「金は確かに受け取った、お嬢ちゃんの借金はこれで全額完済だ」煙草を吹かしながら、トカゲ男が告げる。


 流石トカゲ男、話が早い。


 「借金の借用書だ確認してくれ」トカゲ男が借用書を僕に渡してくる。


 トカゲ男から借用書を受け取り、中をしっかりと確認する…………問題ない。


 なんとか少女を助けることが出来そうだ。


「ごり、目立ちたくないに、車を移動してくれ」


「分かりやした」タトゥーゴリラがハイエースを出発させる。


 人通りの少ない所……何をする気だ「お金はちゃんと返したはずですが?」トカゲ男を睨みつける。


「おいおい勘違いするな、本当に目立ちたくないだけだ、何もしやしねえよ」おどけながら、トカゲ男が答える。


 少し車で走り、僕と少女は人通りの少ない裏路地で車を降ろされた。


「兄ちゃん俺の名刺を渡しておく、その借用書いつでも高値で買い取るから、そん時は連絡してくれや」そう言いながら、トカゲ男が名刺を渡してくる。


 「一応もらっておきます」受け取った名刺には「赤壁せきへきファイナンス 工藤雄作くどうゆうさく」と書いてあった。


 赤壁せきへきって三国志かよ、名刺を眺めながら社名に突っ込んでいると。


「伊藤さん、色々と無茶やっちまってすんませんでした、自分柴田剛しばたつよしって言いやす、ゴリって呼んでください」そう言いながらタトゥーゴリラが僕に頭を下げる。


 おいおい誰だコイツ、劇場版ドラえも〇のジャイア〇並みの変わりようだな……逆に怖いわ。


 僕がドン引きして言葉を失っていると「自分も施設育ちなんです、それだけ言いたくて……」と言い、ニカッと笑うタトゥーゴリラ。


 ヒク付きながら「そうなんですね……」と答える。


 トカゲ男が僕の右胸に軽く拳を当てながら「今日は良いもの見せてもらった、久しぶりに燃えたぜ」と呟やき、ハイエースに乗り込む。


「失礼しやす」劇場版ドラえも〇のジャイア〇ことタトゥーゴリラも、運転席に乗り込む。


 二人が乗ったハイエースが完全に見えなくなってから、少女に「もう大丈夫ですよ」と笑顔で伝える。


「ああああ、いとうさあああああん」そう叫びながら少女が抱き着いてくる、服の上からでも分かる豊かな胸の感触が、フニフニと伝わってくる。


「こわかった、こわかったよ~」と泣きだす少女。


 少女の頭をポンポンとしながら「大丈夫、大丈夫」と安心させてあげる。


 頭ポンポンからの「大丈夫」は、異世界に行ったら言ってみたい台詞でも、かなり上位にランクインしている。


 異世界には行けなかったが、少女の事も助けられたし、今日のところは合格点かな。


 …………


 しばらく時間がたち、少女がようやく泣き止んだ。


「すいません、安心したらつい」そう言い、今日初めての笑顔を見せてくれた。


 少女が可愛いのは分かっていたが、改めて見るとアイドル顔負けの超絶美少女だった。


 僕がポーっと少女に見とれていると「私、日向 南ひなた みなみって言います、18歳です」と自己紹介してくれた。


「あ、すいません、申し遅れました、僕は伊藤 明いとう あきら、22歳です」お見合いのような挨拶を二人でかわす。


 少女はいたずらっ子な顔をしながら「えへへ、知ってます」と呟き、満足そうに顔をほころばせた。

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