第2話 闇金と少女

 急ぎ声のする方へ向かう、そこには見るからにカタギとは思えない男がいて、少女を無理やりハイエースに押し込もうとしている所だった。


 「誰か、誰か助けてください」


 少女は助けを求め必死に声を上げる、声を聞き少女の事に気付いた人も何人かいたが、少女と一緒にいる男を見ると皆すぐに目を伏せ足早に走り去っていく。


 走り去っていく人たちが薄情なわけではない、少女を拉致しようとしている男は身長が2m位あり、ムキムキの身体、まるでマウンテンゴリラの生まれ変わりのようである。

 

 Tシャツの袖から出た手には手首辺りまでぎっしりと禍々しい模様のタトゥーが入っており、明らかにカタギではない雰囲気だ。


 「何見てんだ、ぶっ殺すぞ」


 タトゥーゴリラは叫びながら野獣のような目で、道行く人たちを睨みつける。


 僕も急ぎ物陰に隠れる。


 「手を離してください、わたし風俗なんて絶対に嫌です」


 それを聞き奥の方に立っていた男が、ゆっくりと少女の方へ歩み寄る。


 その男もタトゥーゴリラと同じくらい背が高いがタトゥーゴリラとは違い病的なまでに痩せている、テカテカに固められたオールバック、ギョロっとした目つきはまるでトカゲのようだ。


 トカゲ男は前かがみの体制になり少女の目を見据え、顔を左右にユラユラと揺らしながら囁く。


 「お嬢ちゃんはお父さんの作った借金の連帯保証人だ、お父さんが亡くなった以上その返済をするのは当然の事だろう?」


 「だから働いてお返ししますと、何度も言ってるじゃありませんか」


 少女はトカゲ男から逃げるように顔を背けながら叫ぶ。


 「知っていると思うがもう一度だけ言っておく、うちの金利はトイチだ、お嬢ちゃんが今働いてる喫茶店のバイト代じゃ一生働いても返せない」


 「そ、その金利は違法です、日本では認められていません、だからっ」


 トカゲ男は少女の話の途中で髪を掴み強引に引っ張りあげる。


 「痛い、痛いです」たまらず声を上げる少女。


 「だから返しませんか?弁護士に相談しますか?」


 「お前たちはいつもそうだ、金を借りる時は全部分かったうえで必ずお返します、ありがとうございますと涙ながらに感謝を述べる、そして返済期間が近づくと弁護士に相談して踏み倒そうとする」


 「どちらが悪だ?言ってみろ」


 「……。」


 少女は男の言葉に反論できず、俯き涙を流す。


 トカゲ男は掴んでいた少女の髪の毛から手を放し、今度は少女の頭をゆっくりと撫でながら語りを続ける。


「お嬢ちゃん、俺の貸した金は絶対に回収する、絶対に


 少女の耳元でトカゲ男がささやく。

 

「妹さん可愛いねえ、そっちも金になりそうだ」


「ま、待ってください、妹には手を出さないでください、お願いします」


 トカゲ男の迫真の語りを聞き、少女は小刻みに震えている。


「それはお嬢ちゃん次第だ、おとなしく車に乗ってくれるかな」


 トカゲ男は少女の背中を押し、ハイエースに乗るように促す。


 少女は観念したのかハイエースに乗り込もうとしている。


おそらくだがあの少女には、このあと地獄のような日々が待っているだろう、彼女を助けるならここしかない。


 助けに入った僕は、きっと闇金業者に殺されるだろう。


だがそれで良い、それを女神様が見てくれていれば、哀れに思った女神様が、きっと異世界転生させてくれるはずだ。


異世界転生チャンス到来!意を決した僕は声を張り上げる。

 

「ちょっと待ってください」

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