第27話 アイドルだって人間
「そうか。結構有効なんだが。男の俺には到底真似できない話で羨ましい限りだよ。一つや二つ程のネタで良いのなら、簡単に引っ張って来ることが出来るんだぞ」
嘲笑と共に言うと、尚のこと睨まれる。
「それ娘さんにも同じ事言えるんですか」
思わぬ切り返しに狼狽し、目を剥いた。
「いや、悪かった」
陳謝しつつも少し安堵する。こんな話に乗ってくるような奴ならば俺が教えられる事など何も無く、記者としての先もない。女を売って仕事を拾った所でやがて廃れる。若さと美貌で生き残った者はいずれ、その若さと美貌に負ける日が必ず訪れる。
それまでに新たな武器を手にしていれば良いがそれもまた難しい。一度でも魅力という魔性の力を受け入れてしまったなら、味を占めたその体はもう元には戻らない。俺はそんな人間をごまんと目にしてきた。
そして。
「だがな、土村。若さと美貌を武器とする最たる者がアイドルだ。それだけで戦う者は居なかろうと、それを持たずに戦おうとする存在を俺はまだ知らんよ。例え、絵に身を潜めていようとも恐らくは同じ事だ」
本来は関係ないはずの中の人の美醜が、人気や金払いに影響を与えるのが実際だ。ドラマや映画を通して俳優を見るように、アニメのキャラを介し声優を観るように、型は違えど人は人を、中の人を見ている。
呆れから来る物なのか。はあと吐く息は意識せずとも重いため息に変わっていた。
「人気商売なんだ。異性も同性も多くの人を魅了し心を奪おうとする奴が、やれ男が出来たやら、やれ男漁りだとなればファンは離れるが必定。反感を買うのが道理だ」
肩を持つわけじゃないがなと付け足し、とみぃ曹長の様な奴も出てくると諭した。神無利かざりを例題に出し、男がと付けたのがいけなかったのか。土村の癇に障る。
「そんなの酷いですよ。アイドルだって人間なんです。個人の自由じゃないですか。恋愛だってするし、恋人だってできますよ」
年頃の女には想う所があるのだろうが。俺はとうに愛や恋がどうしたと若者と語る年代ではないので、バッサリ切り捨てる。
「そりゃあな、土村よ。金の絡んでこない一般人の理屈だ。多くの一般人はアイドルにならずに自由を選ぶ。故に叩かれない」
普通の人なら個人の理由以外で交際関係を隠す必要はない。アイドルと一般人ではそもそもの足場、土俵が違っている。それを考慮せずに同一視するから反目し合う。
己の立つべき場所を見誤ってはならないとし、今一度見定める。殺人アイドルvtuberの秘密、スキャンダルに狙いを定めた記者だろうとしっかり位置付けてから、言う。
「恋人、配偶者が公になると必ずと言っていいほど売り上げが下がる。例外はない。ファンが祝福し、どう口で繕っていようとも心は離れていく。結婚して人気が上がるアイドルがいたなら、それだけで伝説だ」
「少しは、気持ちもわかりますけど」
記者としても、女としても。まだ立ち位置が定まっていない所為か不安定な物言いだ。何方かを擁護するではなく、もっとシビアな目を養わなければならない。真に中立へ立つ為、突きつけるのは何処までも現実。
「当然、アイドルもその結果を知っている。だからひた隠しにするんだ。それが運営の方針か、個人の判断なのかは判らんがな。当人が承諾した以上は、既にもう共犯だ」
ニタリと嗤った俺に、果敢に目で挑む。
「それのどこが罪だと言うんですか」
「決まってるだろ、搾取だ」
言って、つらつらと罪状をあげていく。
「本来は落ちるはずの売り上げ。貢がれるべきではない富を享受しつつ、その代わりに得られる物をも手にしようとする強欲。謂わば二重取りだな。どっちも美味しいとこ取りしようとするんだ。非難も受ける」
ファンへと向けた笑顔の裏では、両手にひっしと金と男の両方を握りしめている。
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