第2話 捜査資料、備忘録一

被疑者、神無利かざり

本名、高枝恵子(30)

住所、東京都〇〇区〇〇三丁目〇─〇〇

株式会社virtualityを所属事務所とするvtuber


十二月二十日、二十二時

動画投稿サイトにて。高枝が、vtuber神無利かざりに扮し自宅より生配信を開始する。


同、二十三時三十分

配信内にて高枝は、人を殺した旨を発言。配信動画は後に権利者の手により非公開となったが、該当箇所は切り抜き動画として有志の手によってネット上へと拡散されていった。後の取り調べにおいて、発言内容に虚偽はなかったと高枝自身も認めた。


同、二十四時

高枝の手により、生配信終了。視聴者から最初の通報が入る。IHC(インターネット・ホットラインセンター)からも通報あり。警察発表までの間、尚も通報は相次いだ。


二十一日

株式会社virtualityに住所照会。高枝、不在。連絡はつかず足取りも不明。夕方、帰宅。事情を窺うと同区、早井晴也(21)を殺害したのは自身だと自白した。


早井は高枝のvtuber活動のファンであり、SNSを介し四年前から交流があった模様。早井との繋がりはSNS上、配信上での物で直接の面識はなかったと高枝は主張する。


数週間前からネット上では高枝の交際相手の噂が流れており、高枝自身は交際を否定していたものの一部ファンの間では疑問視する声があがっていた。


高枝の過去の発言やSNSの投稿に交際相手を示唆した、いわゆる匂わせと取れる行動が多々あったとスクープされていた。


報道が火種となり、今までの高枝の発言には一貫性がないとされ、高枝に対する誹謗中傷や攻撃的な意見がSNS上、配信上にて散見される騒動となった。


高枝に裏切られたと一部の過激なファン、愉快犯の扇動によって脅迫や殺害予告まで飛び交い、高枝のファンは心を痛めていたと言う。一連の騒動で高枝はファンである早井を、精神的に追い込んでしまった結果故の自殺だったと説明した。


早井から送られてきたと見られる、自殺を仄めかせた内容のメッセージ履歴を確認。高枝の証言に事件性は認められず。後日、事実確認の為に警察署へ出頭を要請した。


二十日十九時

早井晴也は同居していた家族からの通報により自宅、早井の自室にて死亡が確認されている。死因は首吊りの頸部圧迫による、窒息死。防御創の痕は見られず、部屋遺体ともに争った形跡なし。遺書と見られる物はみつからなかったが事件性は見られず、未発表の自殺体として処理された。


二十二日

早井の自宅近辺の聞き込みにて高枝の目撃情報あり。目撃者に拠ると男連れであったとの証言。共犯者である可能性を含めて、高枝の交際相手の足取りを捜査中。


早井宅周辺、コンビニの防犯カメラにて。二十日、十七時頃の映像。女の姿を確認。年齢、二十代から三十代半ば。身長、推定160センチ前後。体格、やや痩せ形。茶色のロングコート。緑色のスカート。茶褐色の靴。赤色のマフラー。白色の手提げ鞄。


目撃情報にあった通りの高枝らしき人影を認めた。サングラスとマスク姿だった為、面取りは出来ず。男の姿も認められない。従業員に確認するも、証言は得られず。


二十一日、十三時、同周辺の映像。飲食店の防犯カメラにて高枝と交際相手と思しき男の姿を確認した。身体的特徴、先の服装の特徴から同一人物と認める。飲食従業員の証言も得られた。


従業員の証言に拠れば、高枝は葬儀会社の場所を尋ねてきたと話した。早井とは面識がなかったという高枝の証言と矛盾あり。


二十二日、二十時

高枝、緊急逮捕。高枝は生配信中であった為、音声が配信に乗っていた。問い合わせが殺到する騒ぎとなる。


取り調べにて、高枝は殺害を概ね認めた。殺害方法や動機に至っては、黙秘を貫く。

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