第8話:殺して終わったもの、招いたもの
雨の音に忍び寄り、一軒ずつ片づけていった。
知らない奴を殺した。
見たことのあるような手の奴を殺した。
誰かの面影のある顔を殺した。
そして最後に赤ん坊のいる家に向かった。
「お願いします! この子だけは! どうか、この子だけは!」
どの口で……と思いながら、耳障りな音を出す奴を殺して外に放り出した。
赤ん坊は泣き続けている。
こうして、最後の一人以外にはバレず、全てを終わらせてやった。
村中に血の水たまりができたが、それも雨で洗い流されるだろう。
自分の中の何かが変わった感じがして意識を集中させる。
《暗殺レベル5》《殺人レベル5》のスキルが生えていた。
あまりにも今更すぎる、そういうのはもっと早くほしかった。
兄妹の子を、比較的綺麗だった赤ん坊達のいる家に連れていく。
外の様子を見ても、家に入っても、何の反応もない。
何かしてあげればと思い、自分のスキルを見てみる。
《狩猟レベル4》 《剣術レベル3》 《悪食レベル5》
ものの見事に殺したり食ったりすることばかりで、生産的なものが《農業レベル3》くらい……。
誰かを助けたり救ったりするようなものは何一つなかった。
つまり、今までそういうことをしてこなかったし、そういう才能もないということだ。
「お前という人間はそういう奴だぞ」と言われているようだ。
そんなこたぁ知ってるんだよ。
だから俺はゴブリンなんかに産まれてんだ
雨音が止み、外で何か物音が聞こえる。
まだ生き残りがいるのかと思い、慎重に外に出てみると……球体の魔物「マンマール」三匹が外に出した死体を口の中に入れて運ぼうとしていた。
大事な人たちは全部家の中に入れているので、ああやって片づけてくれるなら放置していいだろう。
こっちはさっさと皆を埋葬しないとな……と考えたところで、ナイフを抜いてマンマールに飛び掛かった。
こいつらはどうしてここに来た?
血の匂いだ。
肺に充満するくらいに満たされた血の匂いが村中に漂い、それが森にまで流れたからこいつらが来たのだ。
そして、こいつらは大量のエサを見つけた。
三匹じゃ食べきれないエサを見つけたらどうする?
仲間を呼ぶだろう……何匹……何十匹……何百匹?
それを防ぐために、あいつらはここで殺しておかねばならない。
背後からの強襲で一匹殺し、二匹目を殺したところで三匹目が全速力で森の中に入ってしまった。
森の中なら俺の独壇場だ。
今までだって何度も魔物も獣も殺してきた。
追えば二分もしない内に始末できる、簡単な作業だ。
二分……その時間が頭によぎり、足を止めた。
血の匂いに気づいた魔物がマンマールだけとは限らない。
そしてやってきた魔物が、外にある死体だけで満足するとも限らない。
逃がせば大きな災いになるとわかりながらも、俺は追えなかった。
あの子と赤ん坊を放り出すには、二分という時間はあまりにも長かった。
こうなれば今すぐにでも村から逃げなければならない。
……逃げる? どこに?
俺は今まで森の中で過ごし、村の人と外について話をしてこなかった。
だから逃げられる場所など森の中にしかなく、それはあの子と赤ん坊を見捨てることと同義だった。
子供と赤ん坊が生きるには、あの森は厳しすぎた。
それに、このまま逃げるということは、皆の身体も弔えないということでもある。
今までよくしてくれた人たちを、せめて最後だけは救われてほしい。
そうじゃなけりゃ、この世界は本当にどうしようもないくらいに救いがなくて……。
この子と赤ん坊がそんな世界で生きていかなきゃならないなんて、残酷にもほどがある。
俺は誰かを救うことなんてできないだろう。
俺ができることなんて言えば―――ゴブリンらしく、殺し続けることだけだ。
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