第4話:救いはない
「カマキリ? それにしちゃ大きさが……」
「ねぇねぇ、それよりゴブリンって聞こえなかった?」
「ゴブリンってぇと、あれか? まさか……いや、でも見た目は……」
周囲がざわつき、それを聞きつけてさらに人が集まってくる。
本格的に自分の最期というものが近づいていることが分かるが、こちらにはまだ人質がいる!
いざとなればズボンを剥ぎ取った子供を盾にしてここから逃げてくれるわ!
……あ、でも文明レベルが進んでない世界って命の価値も軽いんだっけ?
子供はまた産めばいいから、むしろ大人の命の方が大事だとかなんとか。
チクショウ! なんだってこんなことになったんだ!?
俺が何か悪いことしたってのかよぉ!?
……したな。
子供のズボンを無理やり剥ぎ取ろうとして、今も人質にしようとしてるし。
でもそれは死ななきゃいけないほど悪いことなのかよ!?
……悪いことかもな……悪いことかも……。
「待って、みんな! この子はゴブリンじゃないわ!」
おぉ! なんかよく分からないけど女の人が庇ってくれるっぽい!
「だって下半身についてるモノが竿どころかマメじゃないの!」
「イダダダダ! 痛い! 心が、痛い!!」
いくらゴブリンだからって、どうしてそんなヒドいことを言えるんだ!?
それに今はゼロ歳児だけど、将来は……こう、御柱みたいなのになるかもしれないじゃん!?
……いや、地面こすりそうだから普通のでいいや。
「だが! もしもこいつが本物のゴブリンなら! 純情で巨乳な淫乱の全肯定男装プリンセスとかも実在するかもしれねぇじゃねぇか!!」
「待て待て待て! 何だ属性が多いというか業が深すぎる存在は!」
「そうよ、そうよ! ゴブリンがいるならモロ本に出てきた金髪オッドアイの単眼マッチョ王子も実在するんだわ!」
「なんだよオッドアイの単眼って! 存在を矛盾させるなよ! というかそれと並べられるゴブリンはどういう存在になってんだよ!?」
「え? そんなのモロ本に出てくる都合のいい竿役でしょ」
悲報、ゴブリンは書物の中だけの存在になっていた。
モロ本って、多分エッチな本のことだよな?
あれか、この人らが興奮してるのはエッチな本に出てくる存在が実在したから、他の都合のいいキャラも実在してるんだって信じたいのか。
「ッスゥー………残念ながら、村人に優しいロリエルフもいなければ、リードしてくれる高身長ケモ耳女装っ子も、ましてや"「昔助けてくれたお礼に……」とか言って結婚してくれる両性ドラゴン男の娘"も存在しません!」
しばらくの沈黙、そして――
「ウソだあああぁぁ!」
「じゃあなんでゴブリンが存在するんだよ! おかしいだろ!?」
「いるもん! 男が嫌いだからって女の人の格好しかしないインキュバスくんいるもん!」
恐ろしい叫び声と怒号が周囲に響き渡り、事態は混迷を極める。
俺には……いや、神様でも救えない人たちだ……。
「こんなところにいられるか! 俺は森に帰るぞ!」
そして俺は男の子のズボンをひっぺがし、周囲の大人達の合間を縫って森の中へと逃げていった。
俺と人間との間に、あんなにも意識の差があるだなんて……やはりゴブリンと人は交わってはいけなかったんだ……。
これからはひっそりと人目を避け、森の中で静かに暮らそう……それがお互いの為なんだ。
「ゴブリンが逃げたぞ! 追え!」
「山狩りだ! 松明を持て! それと頑丈な縄!」
「捕まえて褐色爆乳バニー親子の居場所を聞き出せ!」
チクショウ! やっぱりこの世界のゴブリンには人権がなかった!
「カエレ! ニンゲン、カエレエエエエェ!!」
俺は叫びながら、ただひたすらに逃げ続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます