第3話:ムラムラ30ぺぇせんとだぁ!!
悲鳴のあった場所まで向かうと、珍妙なものが二つ歩いていた。
俺よりも大きな球体に手足が生えており、手には棍棒を持っている。
真ん中には冗談みたいに大きな口がついており、子供くらいなら丸呑みできそうだ。
「わあああああああぁぁん! うううぅぅあああああん!!」
というか小学生くらいの男の子が実際に口の中に突っ込まれて泣き叫んでるが、ボールもどきは気にした様子もなく歩いている。
「ああああぁぁ! やだあああぁぁ! おにいちゃぁん!」
そして、その後ろを更に小さな女の子が一生懸命に引きとめようとしているが、力が足りなさすぎて引き摺られていっている。
『■■……■■、■■■……』
流石にうっとおしさが勝ったのか、子供を口に入れてない方の球体が棍棒を振り上げる。
「あ……ゃ……やだぁ! たしゅけてぇ!」
「その言葉を待っていた!」
木の上から頑張って妄想して溜めていた力を解放し、棍棒を振り上げていた球体の腕を、落下の速度も加えて骨で切り落としつつ蹴りで地面に転がす。
全員が呆気に取られている隙に、まだ立っている方の球体の足を棍棒で振り抜いて転ばせると、口の中にいた子供が吐き出された
「ひゃああぁぁぁ!?」
「お"に"い"ち"や"あ"あ"ぁ"ぁ"ん"!!」
無事っぽいのでひとまず放置し、珍妙な球体二匹を対処することにする。
今のムラムラ度はおよそ30%……ずっと聞こえてくる泣き声のせいで全く集中できなかったが、それでも十分な強さだった。
とはいえ、このままよく分からん球体を殴り殺せるかというと無理だ。
皮膚が石っぽくて固いので、恐らく叩き割る前にこっちの体力が切れて、そのあと嬲り殺される。
ゴブリンの本能でそれが分かった。
なので、とにかく殴って殴って転がして……そして――。
「ホールインワン!」
二匹とも散策の時に見つけた湖の中に叩き込む。
もちろん球体共は溺れないように、窒息しないように大口を開けて浮かび上がろうとする。
「アルバトロス! ボギー! ストライク! ガーター!」
うろ覚えのゴルフ用語のような掛け声と共に、口へ大きな石をドンドン投げ入れる。
短い手足では口の中にある石を取り出せず、そのまま球体は"狼と七匹の子ヤギ"のように、湖へと沈んでいった。
「ふん、雑魚が……」
とは言ったものの、実際はかなりやばかった。
少なくとも生後0日目で戦うような相手じゃなかったが、勝ちは勝ちだ。
なんだか少し強くなった気がしながら、子供のところへと戻ることにした。
「ハァ、ハァ……や、やぁ、ぼうや達……だいじょうぶ、だった……かい?」
「はああああうううぅぅ!!」
やべぇ、お兄ちゃんと妹ちゃん、どっちも怯えてる!
体力が尽きて息切れしてるせいで、獲物を前に興奮してるゴブリンにしか見えねぇもんな!
この状態で「ぼくと友達になって握手!」とか言っても絶対に信じてもらえねぇな。
それならそれで、最初の目的を果たすとしよう。
「俺ぁ命の恩人なんだ、そのまま帰れるとは思ってないよな? ……ズボンをよこせ、それでチャラにしよう」
一瞬の沈黙、そして――。
「ぎゃあああああぁぁ! へ、へんたいさんだあああぁぁ!!」
走って逃げた、それも物凄いスピードで。
「おい待てぇ! なんで逃げるんだこのガキぃ!」
「パパが言ってたもん! パンツとかズボンとか欲しがる人を見たら逃げろって!」
ちくしょう、良い親御さんだな!
教育が行き届いてるじゃねぇか!
とはいえ、折角のズボン獲得チャンスを逃すわけにもいかず、俺も全速力で追いかける。
「げへへぇ! 俺から逃げられると思ってたのかなぁ!?」
「やあああぁぁぁ! うわあああぁぁん! たすけてー! だれかー!」
うっ……子供の泣き声で性欲が減っていく……。
なんとか出力を取り戻そうと妄想するが……こんな全力疾走で子供を追いかけてるシチュで出来るわけねぇだろ!!
それでも初速が乗っていたおかげでなんとか襟首を掴むことに成功した。
しかし場所が悪く、坂道だったせいで三人ですったもんだになりながら転げ落ちていく。
「うわああぁぁ!?」
「きゃああああぁぁ!?」
「うぎょわあああぁぁ!?」
三人ですったもんだに転がっていき、広まった場所でようやく止まった。
「フゥッハッハァ! 観念してこいつをよこしなぁ!」
そして男の子のズボンに手を掛けたところで、周囲の気配に気付いた。
どうか凶悪な怪物の群れとかであってくれと願いながら、周囲を見渡す。
牧歌的な服装に身を包んだ大人達が、じっとこちらを見ていた。
ッスゥー……ここ、人間さんの村っすね。
しかも皆見てる、ガン見してる。
泣きじゃくる子供と、そのズボンに手を掛けてるゴブリン……やばいな、言い訳の余地がどこにも見当たらない。
いいや……まだだ!
ここから俺が超ドエロい妄想をして性欲500%になれば勝てるはずだ!
いくぞ、エロのフォルダは十分か?
うおおおおおおおおぉぉ!!
……あ、ダメだ。死を前にした恐怖で全然興奮できねぇ。
死んだわこれ。
「お、おい……あんたぁ、何なんだぁ?」
恐る恐るといった感じで大人が近寄ってきた。
「あ、俺タナカ。ゴブリンっす」
「ゴブリン……」
ここで気付いてしまった。
この大人は俺のことを"何なんだ"と言った。
つまり、ゴブリンだとはバレてなかったのだ!
「すいません、ウソです。本当はカマキリです」
「カマキリぃ!?」
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