第2話:ゴブリンライフ0日目
「天上天下!! 唯我独尊!!!!」
その産声と共に俺は産まれた。
普通の方法ではゴブリンで生き残ることは不可能……ならば、普通じゃない方法を使うしかない。
そこで産まれた瞬間に普通じゃないことを仲間のゴブリンに見せつけ、元の知識を利用して俺がトップに立つ!
そして仲間ゴブリンを駒として利用して委員長であるぐっさんに合流する、これだ!
見えたぞ俺の生存ルート!
俺はゴブリンで終わる男じゃねぇんだ!
いつか人間になりあがってやる!!
……ここだけ聞くと悪の実験で生まれた怪物が人間に憧れるアレみたいだな。
それにしても、出産直後にブッダをやったのに静かだ。
一体どういうことかを目を開けると、まさしく山の中にある森だった。
周りには仲間どころか巣のようなものも見当たらない。
そして真後ろにはヒトらしきものの死体がある。
"らしき"というのは、左腕が千切れてて顔面が潰されてるからだ。
多分、これが産みの親だろう。
ッスゥー……いきなり天涯孤独の身か、おらワクワクしてきたぞ!
心拍数が上がった理由は徐々に迫ってくる死への恐怖のせいだけどな!!
さて困った、ここでバブーバブー言ってても事態は何も進展しないどころか窮して行く。
だって0歳児で衣食住を全部一人でやれってことだぜ?
引きこもり矯正センターでも、もうちょっと手心あるよ。
あぁ、でもゴブリンだし全裸であることと野宿に目をつぶれば"衣"と"住"は気にしなくていいのか。
全裸については心の中にある大事なものを失くしそうだけど、人間みんな産まれた時は全裸なんだし気にすることじゃないな。
そもそも、そんなの気にする人間さんは、全裸であろうともなかろうとも、ゴブリン見たら殺しにくるだろうしね!
HA! HA! HA! HA!
……さて、現実逃避やめて食料でも探すか。
ゴブリンに転生したおかげか、食べられるもの、食べられないものは本能で分かる。
森の中だし、これならすぐに食料の調達はできそうだな!
≪三十分後≫
何の成果も! ありませんでしたぁ!!
そこら中にある草、花、木、葉っぱ、全部ダメだった!
森の中なのに食べられるもの少なくない!?
多分、火があれば食えるものもあるんだろうけど、そんなもの何処にもねぇよ!
というか腹が減ってきて本格的にやばくなってきた。
出産0日目で餓死ルートが見えてきたぞ。
というか赤ん坊の状態で生食できるものって何だよ、普通はお乳だろ。
念のために死んだマンマのところに戻ってお乳が出るかと確かめたが、硬かった。
胸が無いとかいう死体蹴りの意味ではなく、死後硬直だった。
そして触った瞬間に気付いてしまった、「あ、これ食える」って。
いやいやいや……生だよ? しかも産みの親だよ? いくら死にそうだからってそんな……ねぇ?
≪十分後≫
「うわあああああぁぁ! 食べちゃったああああぁぁぁ!!」
しかも全部! 完食! 満足してごちそうさまでしたって言えるくらいに!
美味しくはなかった、美味しくはなかったけど、腹が満たされてスッキリしてる!
産みの親を食うとか……俺、本格的に人間辞めてってる気がする……。
あ、でもカマキリだってメスがオスを食うじゃん?
あれと同じだよ、だから俺はゴブリンじゃなくてカマキリなんだよ、きっと。
……俺、カマキリでいいのか? そこまで誇りを捨てていいのか?
でもゴブリンよりかは長生きできそうなんだよな。
じゃあ俺はこれからはカマキリってことで、理論武装ヨシ!
なんにせよ、栄養になってくれた産みの親ゴブリンに合掌し、食べ残しである尖った骨を持つ。
これがあれば役立ちそうだ。
親の遺骨であれこれするって色々とやばそうだが、そういうのは畳の上で死ぬ時になってから考えよう。
先ずこの世界に畳があるのか、そんな安らかに死ねるのかどうかは知らないが。
さて、それじゃあこれからのことを考えよう。
具体的には食料と水の確保である。
水については湧き水の匂いがあちこちでするのでそこまで困ってない、問題は食料だ。
具体的には火があれば食えそうなものはいくつか見つけたが、その火がどこにもない。
太陽光で発火させようにもレンズがないし、木の棒をこすり合わせて火を起こそうにも赤ちゃんゴブリンの体力じゃ無理だ。
しょうがねぇだろ赤ちゃんなんだから!
『―――ヮ―――ァ―――』
遠くの方で声が聞こえた気がする。
動物の鳴き声じゃない悲鳴……つまり人間がいるということだ。
よっしゃ助けに行くか!……と思ったが、いま自分がゴブリンだということを思い出す。
神様が言うには"世界で最も醜悪であると言われる種族"らしい。
つまりゴブ・即・殺になる可能性が大いにありうる。
人前で露出しないゴブリンだけが良い露出狂だ、という名言を思い出す。
……あれ、人前で女装しないゴブリンだけが良いゴブリンだっけ?
まぁどっちも似たようなもんだし、どっちでもいいか。
というわけで逃げる選択肢しかないはずなのに、どうしても存在しないはずの後ろ髪を引かれてしまう。
だって、ここで逃げたら俺はクラスメイトと合流するまでずっと一人で生きていかないといけない。
つまり、なんだ…………一人だと寂しいんだよ!!
もうどうしようもないくらい、救いが無いってのなら諦められるさ。
だけどもしかしたら、ワンチャン友好的な関係が気付けるかもしれないじゃん!?
だからこっそり様子を見に行って、助けられそうなら助ける。
それで石を投げられたら諦めて逃げる。
ウソ、石を投げ返してズボンくらい奪ってから逃げる。
流石にマッパ生活はキツイからね、助けた恩人に石を投げるやつならズボンくらい奪ってもいいでしょ。
……いや、待てよ?
マンガとかだと、こういう時って襲われてるのはお姫様とかお嬢様って相場が決まってるよな?
そんで、そこから一目惚れされるの全然あるよな?
フッ……なるほどね、完全に理解したわ。
この転生は罰ゲームじゃなかった、むしろご褒美だったんだよ!
待っててくれ、お姫様! もしくはお嬢様!
今、あなたの王子が参ります!
……あっちが王子でダブったら、王子をお姫様にしてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます