タナカ、ゴブリンに転生したってよ

@gulu

第1話:絶滅種ゴブリンの誕生

『あなたの転生先はゴブリン』


 宇宙が滅び、クラスメイトと一緒に転生する先の神様(なんか光で見えない)に、刑罰のようなものを言い渡された。


『ゴブリンはほぼ絶滅が決定している種、レア』


 そういうレアさは求めてないんですよ。

 というかクラスメイトからの視線が痛くてたまらない。


「いや、待つでござる! ゴブリンといっても作品によって千差万別。つまり、当たりである可能性もワンチャンありますぞ!」


 ありがとう、オタク(太田)くん!

 そうだよね、地球で言われるような悪逆非道な種族とは限らないよね。


『世界で最も醜悪であると言われる種族。過去に行った悪行も加味されている』

「田中殿……短い人生でござったなぁ……」


 うわああああぁぁ! もうダメだオシマイだあああぁ!

 もう産まれた瞬間からハードモードどころかマスト・ダイだよこんなの!

 こんなんでどう生きろってんだよ!?


「お、落ち着け田中。ほら、オレができるだけお前も皆も集めて守るから」

「あーあー! いいですねー貴族様の子供に産まれるって決まってるヒトはー! 上から目線で楽しいですかー!?」


 クラスの委員長、ぐっさん!(山口)

 前世で善行を積んだおかげか、産まれからして恵まれることが決定していた山口くん!


「じゃあ助けない方がいいのか?」

「すんません助けてくださいお願いします!」


 恥も外聞も投げ捨てて土下座する。

 正直、生きる為には何かを選んでる余裕なんか一切ない。


『あなたの転生先はドラゴン』

「よっしゃぁあああ! ドラゴン最強! ドラゴン最強!」

「あっ、てめぇズリぃぞ! なんだよドラゴンって!」


 こっちが土下座している最中にもドンドンと進行していく。

 付き合い十五年の腐れ縁、でっちー(出立)はドラゴンに転生するらしいが、ゴブリンとえらい差がある。

 そして腐れ縁といえばもう一人、女子だけど子供の頃からずーっと付き合ってきたりっちゃん(律華)だが――。


『あなたの転生先は……英雄です』

「フッ、悪いね二人共。どうやらボクが主人公だったらしい」

「ハァッ!? ドラゴンの方がスゲーし! ツエーし!」

「くたばれー! 英雄らしく惨たらしく死ねー!」


 俺とでっちーによる、あらん限りの罵倒を投げつけるが、涼しい顔で受け流される。


「ボクに跪くなら向こうでハーレム作る時に少しくらいはお零れをあげてもいいけど、どうする?」


 ふんっ、その程度で俺とでっちーが揺らぐとでも思ったか?

 共通の敵を見つけた俺達は1+1で200! 100倍だ!


「でっちー、言ってやれ! 俺達の絆は不滅だって!」

「ああ!  おれぁアッチに付く! てめーは追放だ!」

「裏切りやがったなこの野郎! そんなにモテてぇか!?」

「あぁ、モテてぇよ! お前はモテたくねぇのか!?」

「モ"テ"タ"イ"ッ"!!!!」


 当たり前のことを聞くんじゃねぇよ!

 モテられるならモテてぇよ!

 なんなら学校でも毎日言ってたよ!

 "だからモテないんだよ"ってりっちゃんにも言われたよ!


「それでも……それでも、お情けでモテるのは三十歳まで我慢できねぇ!!」

「三十歳になったら耐えられないのかい」


 りっちゃんのツッコミに、静かに頷いて肯定する。

 そこまでいったらもう手遅れな気がしないでもないけど。

 というか今まさに周りにいる女子の視線を見るに手遅れになった気がするけども。


「というより、君は先ず女をどうこうの前に明日の命を心配した方がいいんじゃないか? だってゴブリンだし」


 それもそうだった。

 他の皆はほとんど人間なのに、俺とでっちーだけが明らかな人外。

 だけど、でっちーはドラゴンだから早々死なない。

 つまり、誰よりも先ず最初に俺が死ぬぅ!


「神様ぁ! 俺、このままだと"七歳まで神のうち"どころか出産即涅槃みたいなことになるんですけど何かスゲー力とかないんですか!?」

『存在する。別の魂、故に、異才が混じる』


 その言葉を聞いて周囲がざわつき、俺はガッツポーズを掲げた。


「ッシャア! チートォ!」


 これはアレだ、地面を耕すだけで野菜が勝手に生えてきたり、どんなモンスターでも使役できたり、あまつさえ超可愛い人型モンスターが仲間になってエッチなことが起こるアレだ!

 神様の言葉に俺だけではなく、男子生徒も色めき立って騒いでいた。


「それで、俺のチートは何ですか!?」


 ワクワクと心を躍らせ、これから待ち受ける薔薇色の人生……いや、ゴブ生を夢見ていた。

 しかし……。


『性欲に比例し、戦闘力が上昇』

「……すいません、もう一度お願いします」

『性欲が高まるほど、強くなる』


 幻聴じゃなかった、幻聴であってほしかった。

 クラスメイトとの心と物理的な距離が更に開いた気がする。


 ちなみにでっちー


「ッスゥー……リセマラとか、ないでしょうか」

『転生の意志を確認』

「あ、待って違う違うそうじゃないのお願い待ってちょっと待ってほんと少しでいいから待ってくださいお願いします!」

『……転生を開始』

「ほんとにちょっとしか待たないやつううぅぅぅ!!」


 そうして問答無用……いや、律儀に問答はあったのだが、爪の垢ほども納得できないまま転生という名の拷問が始まろうとしていた。


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