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その夜、谷家の前には、軽のワンボックスカーが停まっている。いつもは停まってないのに。だが、みんな寝ていて、全く停まっているのを知らない。
その中には、2人の目出し帽の若者がいる。クロアリさんのニート支援センターの職員だ。今日は、谷家の依頼だ。良二という大学を中退したニートを鍛え直してほしいと言われた。絶対にあいつを捕まえて、更生させなければ。
「今日はこの人の依頼か」
運転手は家を見ている。この2階に更生させてほしいと言われている男、良二がいる。
「うん。なかなか働かないし、家から出ないんだって」
それを聞いて、助手席の男は拳を握り締めた。仕事をしないし、家からずっと出ないなんて、ひどすぎる。俺が世間の厳しさを教えてやらないと。
「鍛え直すしかないか」
「寝てるかどうか、見て来いよ」
「うん」
すると、助手席の男が車から出た。だが、その男は突然、そこから消えた。一体どこに行ったんだろう。
それからしばらくして、1匹のクロアリが窓から良二の様子を見ている。良二はパソコンをつけたまま、寝ている。パソコンにはオンラインゲームの映像が映っている。いつもそんな感じだ。
またそれからしばらくすると、男が戻ってきた。
「寝てる。よし、侵入するぞ!」
「ああ!」
その合図とともに、2人は車を出た。辺りは暗くて、とても静かだ。みんな寝ているようだ。
2人は良二の両親からもらった合い鍵で、静かに家に入った。家の中はとても暗い。みんな寝ているんだろう。
2人は2階に向かった。良二はその先にいる。静かに階段を上り、部屋の前にやって来た。
「1、2の、3!」
小声の合図とともに、2人は部屋に突然侵入した。程なくして、良二は起きた。こんな深夜に誰だろう。まさか、両親が呼んだんだろうか?
「な、何するんだよ!」
「いいから来るんだ!」
2人は良二の腕を握り、引っ張った。良二は抵抗したが、2人がとても強い。まるでアスリートのようだ。
「お前ら、誰だ!」
「お前を鍛え直す、閻魔さんだと思え!」
閻魔さん? まさか、両親が呼んだんだろうか? 俺の楽しみを邪魔しようというのか? こんなのを呼んだ両親、絶対に許さない。絶対に殺してやる!
「えっ、閻魔?」
良二はあっという間に1階に連れていかれた。1階には両親がいる。寝ている部屋の前にやってくると、良二はにらみつけた。
「おい、ババァ!」
「ババァと言うな!」
1人の男は良二をビンタした。あまりにも強い。良二は抵抗する力を失った。どうしてだろう。魔法だろうか?
「早く来い!」
と、もう1人の男から後ろから後頭部を殴った。
「いてっ!」
良二は抵抗できなかった。あまりにも強い。この人についていかないと、大変な事になる。だけど逃げ出して、両親を殺すんだ。こんな所に行かせた両親なんか、いなくなればいいんだ。
良二を連れた2人は、車に戻ってきた。良二は手首、足首をガムテープで縛られている。
「今日はこいつか」
「よし、成功したな。これから本部に連れて行くぞ!」
「うん!」
運転手は車を走らせた。そして、クロアリさんのニート支援センターに向かった。
「おい、どこに連れて行くんだよ!」
良二は怒っている。どこに行かされるんだろう。どうして俺は、強制的に家から連れ去られたんだろう。こんなの犯罪だろ?
「お前、働かなくていいのか?」
「いいんだ! 俺は好き勝手に生きるんだ!」
良二はオンラインゲームをしている日々が最高に好きだと感じていた。それを邪魔する人はみんな俺の敵だと思っていた。
「思い知らせてやる! この世界の厳しさを」
「何言ってんだこの野郎! 黙れ!」
良二が抵抗すると、助手席の男が殴った。とても強い。
「いてっ!」
一瞬で良二は気を失った。それから先の事は、起きるまで覚えていなかったという。
それから数十分後、まだ夜が明けきっていない中、車は走っていた。クロアリさんのニート支援センターの本部はすぐそこだ。その後ろには気を失った良二がいる。今度はこいつを更生させなければ。そして、就職を促さなければ。
車は本部の前にやって来た。本部と言っても、普通の民家だ。とても社屋とは思えない場所だ。
「よし、着いたか」
運転手の男はため息をついた。これでもう何度目だろう。最近はこういった依頼が多い。このまま増え続けると、日本はどうなってしまうんだろう。不安ばかり感じる。
「連れ出せ!」
「はい!」
助手席の男は、気を失った良二を無理やり連れだした。だが、良二は起きない。2人は本部の門を開け、本部の中に入った。
「ハッ!」
と、助手席の男は左手を広げた。すると、良二の体が徐々に小さくなり、アリになる。クロアリさんのニート支援センターは、ニートをアリにして、そこでの生活の厳しさを通じて、ニートに社会の厳しさを教え、就職を促す施設だ。だが、それでも更生しないニートはアリのままで死ぬという。
2人は、アリに変身した。この男たちもアリで、クロアリさんのニート支援センターは、アリたちが作った秘密企業だ。街頭でのチラシでニートの家族を集め、ニートを引き取る事で、お金をもらっている。
2人はアリ塚に入った。アリ塚には何匹ものアリがいて、彼らが女王アリのために頑張っている。
「みんな、今度はこいつだ!」
「ヘイ!」
その声とともに、やって来たアリたちが良二を運んだ。とんでもない馬鹿力だ。
「今回はこいつか」
「またニートだぜ」
アリはみんな、あきれ返っている。最近、こんな奴が多い。このままこいつらも死んでしまうんだろうか?
「最近、こんな奴が多いよな」
「こんな世の中だよ」
アリはここ最近の世の中を気にしていた。ここ最近、ニートが多いからだ。俺たちはあんなによく働いているのに、どうして人間にはニートがいるんだろうか? 働く事は、とても意味があるのに。全く答えが見つからない。
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