2

 その夜、谷家の前には、軽のワンボックスカーが停まっている。いつもは停まってないのに。だが、みんな寝ていて、全く停まっているのを知らない。


 その中には、2人の目出し帽の若者がいる。クロアリさんのニート支援センターの職員だ。今日は、谷家の依頼だ。良二という大学を中退したニートを鍛え直してほしいと言われた。絶対にあいつを捕まえて、更生させなければ。


「今日はこの人の依頼か」


 運転手は家を見ている。この2階に更生させてほしいと言われている男、良二がいる。


「うん。なかなか働かないし、家から出ないんだって」


 それを聞いて、助手席の男は拳を握り締めた。仕事をしないし、家からずっと出ないなんて、ひどすぎる。俺が世間の厳しさを教えてやらないと。


「鍛え直すしかないか」

「寝てるかどうか、見て来いよ」

「うん」


 すると、助手席の男が車から出た。だが、その男は突然、そこから消えた。一体どこに行ったんだろう。


 それからしばらくして、1匹のクロアリが窓から良二の様子を見ている。良二はパソコンをつけたまま、寝ている。パソコンにはオンラインゲームの映像が映っている。いつもそんな感じだ。


 またそれからしばらくすると、男が戻ってきた。


「寝てる。よし、侵入するぞ!」

「ああ!」


 その合図とともに、2人は車を出た。辺りは暗くて、とても静かだ。みんな寝ているようだ。


 2人は良二の両親からもらった合い鍵で、静かに家に入った。家の中はとても暗い。みんな寝ているんだろう。


 2人は2階に向かった。良二はその先にいる。静かに階段を上り、部屋の前にやって来た。


「1、2の、3!」


 小声の合図とともに、2人は部屋に突然侵入した。程なくして、良二は起きた。こんな深夜に誰だろう。まさか、両親が呼んだんだろうか?


「な、何するんだよ!」

「いいから来るんだ!」


 2人は良二の腕を握り、引っ張った。良二は抵抗したが、2人がとても強い。まるでアスリートのようだ。


「お前ら、誰だ!」

「お前を鍛え直す、閻魔さんだと思え!」


 閻魔さん? まさか、両親が呼んだんだろうか? 俺の楽しみを邪魔しようというのか? こんなのを呼んだ両親、絶対に許さない。絶対に殺してやる!


「えっ、閻魔?」


 良二はあっという間に1階に連れていかれた。1階には両親がいる。寝ている部屋の前にやってくると、良二はにらみつけた。


「おい、ババァ!」

「ババァと言うな!」


 1人の男は良二をビンタした。あまりにも強い。良二は抵抗する力を失った。どうしてだろう。魔法だろうか?


「早く来い!」


 と、もう1人の男から後ろから後頭部を殴った。


「いてっ!」


 良二は抵抗できなかった。あまりにも強い。この人についていかないと、大変な事になる。だけど逃げ出して、両親を殺すんだ。こんな所に行かせた両親なんか、いなくなればいいんだ。


 良二を連れた2人は、車に戻ってきた。良二は手首、足首をガムテープで縛られている。


「今日はこいつか」

「よし、成功したな。これから本部に連れて行くぞ!」

「うん!」


 運転手は車を走らせた。そして、クロアリさんのニート支援センターに向かった。


「おい、どこに連れて行くんだよ!」


 良二は怒っている。どこに行かされるんだろう。どうして俺は、強制的に家から連れ去られたんだろう。こんなの犯罪だろ?


「お前、働かなくていいのか?」

「いいんだ! 俺は好き勝手に生きるんだ!」


 良二はオンラインゲームをしている日々が最高に好きだと感じていた。それを邪魔する人はみんな俺の敵だと思っていた。


「思い知らせてやる! この世界の厳しさを」

「何言ってんだこの野郎! 黙れ!」


 良二が抵抗すると、助手席の男が殴った。とても強い。


「いてっ!」


 一瞬で良二は気を失った。それから先の事は、起きるまで覚えていなかったという。




 それから数十分後、まだ夜が明けきっていない中、車は走っていた。クロアリさんのニート支援センターの本部はすぐそこだ。その後ろには気を失った良二がいる。今度はこいつを更生させなければ。そして、就職を促さなければ。


 車は本部の前にやって来た。本部と言っても、普通の民家だ。とても社屋とは思えない場所だ。


「よし、着いたか」


 運転手の男はため息をついた。これでもう何度目だろう。最近はこういった依頼が多い。このまま増え続けると、日本はどうなってしまうんだろう。不安ばかり感じる。


「連れ出せ!」

「はい!」


 助手席の男は、気を失った良二を無理やり連れだした。だが、良二は起きない。2人は本部の門を開け、本部の中に入った。


「ハッ!」


 と、助手席の男は左手を広げた。すると、良二の体が徐々に小さくなり、アリになる。クロアリさんのニート支援センターは、ニートをアリにして、そこでの生活の厳しさを通じて、ニートに社会の厳しさを教え、就職を促す施設だ。だが、それでも更生しないニートはアリのままで死ぬという。


 2人は、アリに変身した。この男たちもアリで、クロアリさんのニート支援センターは、アリたちが作った秘密企業だ。街頭でのチラシでニートの家族を集め、ニートを引き取る事で、お金をもらっている。


 2人はアリ塚に入った。アリ塚には何匹ものアリがいて、彼らが女王アリのために頑張っている。


「みんな、今度はこいつだ!」

「ヘイ!」


 その声とともに、やって来たアリたちが良二を運んだ。とんでもない馬鹿力だ。


「今回はこいつか」

「またニートだぜ」


 アリはみんな、あきれ返っている。最近、こんな奴が多い。このままこいつらも死んでしまうんだろうか?


「最近、こんな奴が多いよな」

「こんな世の中だよ」


 アリはここ最近の世の中を気にしていた。ここ最近、ニートが多いからだ。俺たちはあんなによく働いているのに、どうして人間にはニートがいるんだろうか? 働く事は、とても意味があるのに。全く答えが見つからない。

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