第2話 世界線が壊れてもお前だけは許さない

「君は何をしているの?」

愛らしい声が空から降ってきて僕は驚いた。パッと天を仰ぐと僕とそう年もかわらなそうな少女が木の枝にぶら下がっていた。ここの世界線の住人らしい。必要以上に合併先の者とコミュニケーションはとってはいけないという掟なので僕は無視を決め込んだ。

「えーつまんないのぉ。返事してよ、聞こえているんでしょ」

少女は一方的に話しかけてくる。これくらいの無視はお手のものだ。こちとら、この仕事で何年やってきてると思って…

「君さ、神の使いでしょ。なんだっけガッペ…イシ?みたいな」

ちょっと、待って。今、合併師ってこの言ったような気がするんだが。

「うん、言ったよ。」

あーやっぱね。だよねぇ。じゃなくて、

「は?」

「君、すっごく良い反応するねぇ。これくらい引っかかってくれると騙しがいってもんがあるなぁ」

にーと笑って軽く蝶のように舞って少女は地に降り立った。ニタニタしながら僕のまわりをどう?騙された気分は、と言いたげにくるくると回る。はー正直めっちゃウザい。ってかなんでコイツ心読めてんだ?

「やっぱし、心読めんの気になるぅ?気になっちゃうよねー。あのね、ここの世界線では読めちゃうんだよなそれが。誰しもがここでは超能力を持ってんの、大体。ほとんどが遺伝だけど、たまに突然変異とか訓練によって取得でしるものもあるんだよ。これ、常識ね。ここの世界線乗っとるぐらいならこれくらい知っとかないと、軍人さん?」

「あーそーですか。余計なお世話ですよ、ここの住人の小娘め。それと、ぼ、お、俺は軍人じゃねぇ。」

「あーれ、お子ちゃまが僕から俺に一人称変えちゃって。無理する必要なんてないのになぁ。乱暴な口調まで使っちゃって!お母さん、あんたをそんな子に育てたつもりはないわよ!」

しくしくとわざとらしく泣きべそを浮かべて顔を覆う。この仕事を始めてそこそこたつがこんなに煽りスキルの高い奴は初めてだ。何かと、ムカつく…

「じゃ、私もう帰るから」

「そんな報告せずにさっさと目の前から失せてくれ…とでも言いたいが、一つ聞きたいことがある」

「えー坊ちゃんから話しかけてくれるなんて初めてじゃない!おばちゃん、すっごく嬉しいわぁ。どーしちゃったの?おトイレの場所でも知りたいの?なぁんでも聞いてちょうだい!!」

「どうして、僕が合併師とわかった?なぜ、合併師を知っている?この組織はクラトニマの機密情報なんだぞ。一般市民であるお前がなぜ…」

「ふーん、君ってちゃんと軍人っぽい喋り方できるんだ。心の声が物語のナレーションっぽかったからそんな喋りしかできないのかと思ってた」

いや、だって実際これ物語のナレーションだし。

「もー雰囲気壊れるじゃん。メタい発言しないでよ。ってまぁ発言はしてないか。でも、そういうこと言わないで。take 2行く?」

それもメタい発言だよ!もうぐちゃぐちゃだからそのままいっちゃって。

「あ、そう。じゃあ気を取り直して。私が機密情報を知ってるわけよね?それは簡単、情報を振り撒いてる人がこの世界線にはいるから」

「情報を振り撒いてる人…それってつまり、あ、待って、やっべ。台本セリフ飛んだわ」

「だ・か・ら!そういうメタ発言やめてって言ったよね?」

「忘れるもんは仕方ないだろ。まだ、二話で慣れてないの!それに作者がこういうパロディ系、コメディ系の物語好きなんだから、作者に文句言って」

「もういい、次行くわ。そ、内通者っていうか、情報受け売り人って私たちは呼んでるけど」

「どうりで、この世界線を、クラトニマは。わかった、情報提供に感謝する」

「待って、合併師さん。最後に一つだけ伝えたいことが」

「何?」

「カッコつけるのへったっぴな、君へ。こんな雑魚でもさまざまな世界線を超えて生きていけると思うと勇気と元気が湧いてきたよ。ありがとう!!感謝するのはこっちだよぉ」

僕はこの世界線を壊しにきた合併師。でも、この世界線は壊したくないと思った。なぜなら、世界線を壊してもきっと許せないであろう、ウザ過ぎ小娘が僕が世界線を破壊する時も耳元で、呪いのように煽り文句を囁くと思うからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この世界線にも終止符を 田中葵 @mochimochi1111

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ