朝日を叩いてコンコンと

くまいぬ

第1話


 

 コンコン

 

 早朝、いつものように、誰かが窓を叩く音で目覚める。

 俺は、いつものように重い瞼を擦りながら、机に散らかったままの参考書を整理し、その音がする方へと歩く。

 すると、いつものように、そこには可憐な少女が立っていた。

 少女は俺に気がつくと、いつものように、口角を大きく広げて、その窓から差し込んでくる朝日に負けないぐらいの笑顔を作る。

 だから、俺はいつものように窓を開けて、いつものように少女と会話する。

 少女は、俺にとっての生きる理由だった。

 少女は、俺にとっての太陽そのものだった。

 この小さな部屋で、小窓から少女が運んでくれる朝日だけが、俺を照らした。

 だから、俺は彼女を救うために努力した。

 ある日、少女が不治の病に罹っていることを知ってしまった。

 それは、俺が心にずっと秘めていた自分の気持ちを彼女に伝えたから。

 少女は俺の気持ちを受け取った後、しばらく泣いて、こう言った。

 「あなたが居なければ、私に生きる理由なんて生まれなかったのに」

 だから、俺は彼女を絶対に生かすと決めた。

 死ぬ気で勉強して、死ぬ気で大学に入って、死ぬ気で医者を目指した。

 俺を支えてくれたのは、いつも時が経てばいつの間にか陽が差し込んでくる窓、それだけだった。

 俺は死ぬ気で勉強していたが、彼女は着実に死に近付いて行った。

 いつしか、窓から朝日は見えなくなった。

 俺はいつかまたあの温かさを味わう為に、努力した。

 俺が医者として名が知れ始めた頃、彼女はずっと眠っていた。

 今彼女の登る天国への階段は、着実に天井が見え始めているのだろう。

 ならば、その天井から朝日が差し込むように、俺が窓を叩いてあげるだけだ。

 俺に生きる理由を与えたのは彼女だ。

 今度は、恩返しをする番だ。

 彼女に生きる理由を与えたのは俺だ。

 ならば、その責任を果たすまでだ。

 

 コンコン

 

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