第8話
「ああああああああっ! やめろ、思い出させないでくれ!!!」
グリーンフラッシュの話をしたのは、本当はいつだった?
祥子は自分の幸せじゃなくて、本当は俺の幸せを願っていた?
「いやだ、俺は祥子がいてくれたからそれでよかったのに」
祥子は死ぬ前に、俺に負担をかけないようにすべてを手配していた。
自殺した場所のマンションの管理人や、特殊清掃会社や自分を納骨してくれる親戚に声をかけて金を握らせて。
せめて遺骨を手元に置きたかったのに、それすら叶わなかった。
遺骨は自宅への保管は認められているが、野上は恋人であり正式な親族ではない。
関係ない第三者に遺骨を委ねることは、下手をすると遺棄罪にあたるのだとその時知った。
『お願いです。せめて遺骨の一部をください。俺から彼女を奪わないで……』
泣いて縋る野上に対して、親戚たちの瞳はどこまでも冷たい。
ノヤギを見た岡野と同じ顔で、彼らは野上に言った。
『ふざけるな。そんなに愛しているのなら、なんで、あの子は自殺を選んだっ!』
容赦のない言葉に胸が抉られて、発狂しそうになった。
「そうだ。俺が、俺が頼りないばかりに……。祥子を殺したのは俺なんだ……」
自分の才能に向き合って、専属契約を解除しなければ彼女の治療費をかせげたはずだ。
もっと人間的に強くなれていたら、彼女は自分の病気を打ち明けていたはすだ。
もっと早く彼女の苦悩に気づいていたら、自殺を思いとどまらせたはずだ。
「ううん、ちがうよ。いい加減に気付いてあげて。彼女はずっと君の傍にいたんだよ」
聞きたかった彼女の声、言葉、するりと野上の耳に入った瞬間に、凝り固まったプライドが崩れた。
見えない力で目が開かれて、両肩にかかる白い腕。
……もしかして。
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