第7話
こんな俺を受け入れて、彼女とのツーショット写真を撮るたびに、自分の中に温かいものが満ち溢れていくのを感じた。
彼女のおかげで、いつの間にか普通に笑えるようになって、生きることに前向きになれたと思う。
こんな俺の恋人になってくれて、ずっと俺を支えてくれて感謝しかない――。
だけど。
『明史。私たち、幸せになれるのかなぁ』
俺と彼女はよく似ていた。
両親はすでに他界して、周囲の人間に翻弄されて、無自覚な悪意に怯え続けていた。
『ねぇ、この前のニュース観た。石垣島のグリーンフラッシュっていう緑の夕焼け。見る者を幸せにするんだって、小笠原でも撮れるかもしれないね』
なにも知らない彼女は、グリーンフラッシュの撮影がどんなに運任せなのか知らないのだろう。
そして、俺のほうも。
カメラマンとして、グリーンフラッシュを撮影できたことは、宝くじに当たるくらい喜ばしいことなのだ。
だが、野上にとっては、雨が降るのと同様のただの自然現象でしか考えられない。感動まで感情が直結できない。
写真なんて撮りたくない。だけど、普通に働くこうとすると誰かが野上の邪魔をする。
気付けば金を稼ぐ手段が写真撮影しかなくなり、無責任すぎる善意が地獄の一方通行を作っているのだ。
あぁ、なんて不毛すぎる。
一方的で身勝手な人間に振り回されて、人間の一方的な善意の中でしか居場所がない――まるで、自分は小笠原諸島みたいではないか。
「だけど、たくさんの人間に支えられているココと違って、明史の方が状況が悪いよね? このままじゃ、潰れちゃうよ」
緑瞳の祥子が身を乗り出して問いかける。
「うるさい。放っておいてくれ」
「だめだよ。今でも君を愛している【彼女】のことを思い出して」
ぴしりっと。頭の中で亀裂が走る音が聞こえた。
野上は耳をふさいで暗闇の中でうずくまる。
思い出したら、ダメだ。
苦しくて悲しくて、自分を保てなくなる。
「うるさいっ! 君はもういないっ! 結局、俺はどうすればよかったんだっ!!!」
背中がずっしりと重くる。頭が割れそうに痛くなり、痛みで目を閉じると緑色の影が、瞼を通してちらちらと眼球を舐めた。
あの日
帰ってきたら、彼女が天井からぶら下がっていて
いつの間にか、空だった自分の口座に金が振り込まれいて
祥子の遺書には、難病に犯されて余命宣告を受けていたことと
――俺の幸せを願っているというメッセージ
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