第6話

「野上くんは、このままじゃ、ダメっ。写真を撮って。貴方には他の人にはない才能があるの」


 だが、普通に働こうとすると誰かが必ず現れて、野上をカメラマンの道へと修正しようとする。

 それだけ、野上の腕と才能を買っているのだが余計なお世話でしかない。

 フリーのカメラマンになって自然の写真を撮るのが、今の彼にとっての限界なのだ。

 自然は野上になにも要求しないし、なにも望んでいない。要求するのはいつも他人だけだ。

 


『幸せになりたい?』


 暗闇の中で、緑の瞳をした速水祥子が野上に語り掛ける。


「わからない、だけど祥子と一緒にいたい」


 お願い、俺を一人にしないで。

 あぁ、なんて矛盾だ。相手の要求を拒否しておいて、自分だってみっともなく祥子に要求している。



「あ、ごめんなさい。写メにあなたが入ってしまったみたいで」


 出会いのきっかけは、彼女の写真に野上が映り込んだこと。

 気晴らし寄った自然公園で、彼女は携帯を構えて季節の花を写真に収めていた。


「いや、その」


 ずっと撮る立場だった野上にとって、自分が偶然とはいえ被写体になれたことが驚きだった。

 自分が誰かの思い出の一部になれることが信じられなかった。


「気分悪かったですか? すみません、すぐ消します」

「いや、消さなくていいから。すごく、キレイにとれてると思うし」


 とても何気ないことなのに救われた。

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