第2話 姫様も悪くない
外国語の後は油絵のモデルである。おかかえの画家が肖像画を描くのだ。
椅子に座りなるべく動かない様にする。写真など無い世界で絵のモデルは苦痛であった。
そこで甘い物でもと頼むと普通にリンゴパイが出てきた。休憩に入り画家にもリンゴパイが渡されるとガツガツと食べる。
確かに美味しいリンゴパイだ。
画家がリンゴパイに気を取られている瞬間を狙って部屋から抜け出す。書斎に隠れるとテツが入ってくる。
「姫様、皆が探していたぞ」
「テツ、かくまってくれない?」
「仕方がない、おてんば姫様だな」
私は奥に隠れると。探しに来たメイドのテレサに居ないと嘘を言う。
「出てきていいぞ」
「えへ、借りができちゃったね」
「何か雰囲気が昨日と違うな」
テツはジト目でこちらを見ている。ヤバ、私は私であって違うのか……。
バレると、厄介そうだ。
「き、き、気のせいよ」
「そうか……」
良かった深くは追求されなかった。その後、テツは世界中の事を話してくれた。
この世界がルネッサンス期の小国であることが分かった。
夕ご飯も贅沢ができた。
ホント、姫様も悪くない。自室は相変わらず豪華で、満足して寝る事にした。
「う~?うん?」
そして、気がつくと保健室のベッドの上であった。
「起きたかよかった」
学校の制服姿の鉄雄が心配そうに声をかける。あれ?私、現代に戻って来たの?
時計を確認すると三十分ほど経っていた。
「田中川さんに感謝しなさい。あたなが倒れた後テキパキと動いて、こうして保健室に運ばれたのよ」
保健の先生が微笑んでいる。あの娼婦発言の鉄雄がね……。
でも、前世でテツとして優しかったし、ルネッサンス時代の世界中の事を話してくれた。
これは運命の恋か……憧れるな。私はもう少し鉄雄に甘えてみる事にした。
「もう、元気そうだな、俺は帰るな」
すると、鉄雄は冷たい言葉は放つと帰ってしまう。
あああああ、やっぱり最悪男子だ。
その日の夜。私はベッドに座り、ローズマリーの小瓶を見ていた。
この小瓶の臭いを嗅げば、また、姫様に成れるのか?
本当に不思議な体験であった。
しかし、姫様でいれば政略結婚が待っている。
複雑だな、でも、テツの魅力は今考えてもドキドキする。あのドキドキが鉄雄にあったらな……。
そう、鉄雄は最悪男子であった。そんな事を考えながら不意にスマホを見ると。
着信の知らせがあった。
うん?
これは鉄雄との電話番号を交換した形跡である。あの最悪男子、私のスマホをいじったな。
消すか迷っていると。
電話番号を使ったショートメールが届く。
鉄雄からだ。
『娼婦発言、悪かった、俺、美々のことを考えると、どうして良いか分からなかった』
ふ~う、謝罪ショートメールか。でも、人間関係は第一印象が重要だ。
ここは×のスタンプを探す。
ま、いいや、放置で問題無かろう。
それより、テツだ。同じ顔で同じ雰囲気でもテツの方がいい。
私は明日の放課後にまたローズマリーの香りを使ってみる実験をしよう。
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