第6話

 ラーメン、うどん、卵スープ、わかめスープ、焼き魚、味噌汁、チャーハン、餃子、とんかつ、から揚げ、サラダ。

 近くまで来たせいか、食堂での食事の記憶がよみがえってくる。

 小6までお世話になった木村食堂のメニューたち。

 駆け落ち事件以降、シャッターに閉ざされて食堂の中がどうなっているのか確かめる術はない。


(でも、これでよかったのかもしれない。見えちゃったら落ち込みそうだもの)


 二階にあがる階段を目指して食堂の裏手にまわると、ゴミ捨て用のコンテナと仕入用のワゴン車をとめる小さな駐車場があった。ワゴン車は随分放置されているらしく、背の高い雑草に車体が埋もれている。

 

(このワゴン車によく乗せてもらったわね)


 家に帰るのが遅くなったとき、洸一の父である権代が、私をワゴン車に乗せて送ってくれたのを思い出した。

 不覚にも寝てしまったときは、後ろの荷物を詰めこむスペースに、私を寝かせたまま送ってくれたこともあった。

 実の父親じゃないのに父親らしく。無口で、不器用で。

 私の頭を撫でる大きな手の感触が好きだった。

 

(そういえば、あんまり話した記憶ないな)


 私は今更ながら思う。そして、ハンドルを握る権代の姿に、洸一の性格は父親の遺伝なのだと気づいて動揺する。

 ここまで人格に影響を及ぼすものなんて、遺伝とは、血とは恐ろしい。


(私が薄情なのは、父の血か。母の血か。それとも、両方か)


 あんなに世話になったのに、木村のばーさんをあっさりと忘れて、嫌悪感から故郷を捨て、仲の良かった洸一に対して煩わしさを感じている。

 すべて、自分中心で救いようがない。

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