第2話
(うん、アレね。だけど、母よ。うきうきして言うのは、人としてどうなのだ)
心の中で呟き現実では沈黙する。簡単な墓参りを済ませて、実家に寄った己の判断を呪う。
大きめのタッパを入れたビニール袋を持たされて、私は休憩もそこそこに強引に送り出されてしまった。
(そんなにネタが欲しいのかしら。それとも、まだ恨んでいるの)
親が憎けりゃ子も憎い。
母と私を捨てて、父である
ご丁寧に二人の署名が入った書置きを二通分、
【真実の愛に目覚めた私たちは旅立ちます。桜を見るたびに、子供たちの幸せを願っています】
今でも覚えている。母が見つけた――テーブルに置かれていた手紙。時を同じくして、権代家の方も洸一の父がテーブルで見つけたらしい。
結果、大騒ぎになった。
書置きは警察によって押収され――鑑定の結果、二通とも同じ内容だったが、偽造されたものではないと証明され、失踪ではなく駆け落ちだと判断された。
突然の母親の失踪に洸一は泣いた。ばーさんも泣いた。私は泣かなかった。
両親の冷え切った仲と我が子への無関心は、幼心ながら察しており、駆け落ち事件が起きても、私は動揺することなくあっさりと受け入れた。
『ほら、よく遊んだじゃない。洸一くんのことが気になるでしょう。オカズをタッパに詰めたから、持って行ってあげて』
母の瞳に垣間見える、ゲスな愉悦にうんざりする。元受付嬢だと納得できる人目を引く華やかな顔つきが、今では枯れた彼岸花のように哀れに映る。
駆け落ち事件以降、改心して女手一つで私を育ててくれたことは感謝しているが、本音はかんべんしてほしい。会ったとしても会話に困るし、彼の事態が好転するとも思えない。
(タイミングが悪かったのか、もしかしたら呼ばれたのか)
あまりにも容易く夏休みの有給申請が受理されたものだから、そんなホラーじみた思考が泡のように浮かんで消える。
だって、そうだ。洸一になにが起きたのか知っていたら、私は今年も帰省しなかった。
「……」
だというのに、私は帰省してここに居る。
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