スライムのお嫁さんとのお昼休み(1)
二限終了のチャイムがなったので、高等部はお昼休みの時間がやってきた。
話したり緊張したりなんだりしてエネルギーを使ったせいか、今はそれなりにお腹が空いている。
プルルは先生から貰った魔力の結晶が食べられるから良いとして、僕の方はお茶とお茶菓子では足りそうにない。
ただ、プルルの冷んやりした身体に今さっきまで顔を埋めていたとは言っても、この赤くなった目元で教室まで弁当を取りに行くのは、正直気恥ずかしい。
「ならば、この購買のラインナップならいかがかな?」
「うわぁ!」
突然指導室の扉をガチャッと開けて入ってきたのは、おそらく初対面の女子生徒。
黒縁の大きなメガネを掛けた少し小柄な女の子が、パンやおにぎりなどの購買の商品を、両手いっぱいに持って立っていた。
学年別のネクタイの色的に……高等部一年生、僕の一個下の子か。
「いや、失敬。ちょっとした風の噂で昼食に困っている都合の良い……もとい、可哀想な生徒がいると小耳に挟んでな?」
「な、なるほど……?」
「そこで取り引きなのだが、君達のランチタイムに私もお邪魔して構わないだろうか?その場合、これらの食料は君にも食べる権利がある」
……おお!多少面食らったけど、これはありがたい!
「僕はご一緒出来たらすごく助かるんだけど……プルルは大丈夫?」
「もちろんです!よろしくお願いします!ええと……」
「む、自己紹介が遅れてしまったね。私は『アノマ・ロカリス』どこにでもいる魔物マニアさ。仲良くしてもらえると助かる」
「へぇ〜ロカリスさんって、編入してきたばっかりなんだね」
「ああ。勉強なんて自分である程度できるが、学歴も将来的には大事な要素だからと親から言われてしまってね。それと『アノマ』と呼んでくれて構わないよ。堅苦しいのは趣味じゃないんだ」
「わかった。なら僕も名前で呼んでもらって大丈夫だよ。僕の名前は……」
「『ミュカ・ウンディルム』だろう?知っているよ。そっちの摩訶不思議なスライムは『プルル』と言う名前だ。ミュカ先輩とプルル君と呼ばせてもらおう。私の編入時期的に、今日初めて学校にきたプルル君とは、ほぼ同級生の様なモノだからね」
あれ?僕の事はともかく、今日学校に来たばかりのプルルの事に何でこんなに詳しいんだ?
「はい!よろしくお願いします、アノマ様!そちらの方々もはじめまして!」
「………………そうか、プルル君には分かるのか」
ん?僕達以外にも、誰かいるのか?
そう疑問に思っていると、突然彼女の前に薄く発光するナニカが三匹現れた。
それは節の有る棒状の魚の様な体に、一対の波打つヒレが生えた不思議な生き物だった。
これって、確か魔物の中でも珍しい……。
「私のテイムした魔物で、私の家族。スカイフィッシュのイチバ、ニバ、サンバだ」
と言い終わったアノマは、椅子からスッと立ち上がりこちらに向かって頭を下げてきた。
「回りくどいのは苦手だからハッキリ言う。私はこの仔達に、君達が学校に来てからをこっそりとストーキングさせていた。テイムした魔物との同調の魔法で、この部屋で君達が話していた内容も全て知っている。……君達のプライベートはみだりに口外しないと約束する。本当に、申し訳なかった」
「ええっと……とりあえず、頭を上げてよ。無闇に口にしないって約束してくれるなら、それで良いからさ。ね?プルル」
「はい!むしろ、ミュカ様へお食事を分けて下さりありがとうございます!」
そっか。僕達をストーキングしてたから、あんなにタイミングよく購買の食料を持って現れたのか。
あれ?でもストーカーって、自分の正体を明かさないものだよな?
「あのさアノマ。何で自分がストーキングしてたってストーキング対象の僕達に打ち明けてくれたの?……もしかして君、僕のファンだったりするー?……な、なーんちゃって」
「いや、ミュカ先輩自体にはあまり興味はないな」
アッサリと否定された……。
慣れない冗談まで言ったのに……。
「ミ、ミュカ様!私はミュカ様のファンですよ!ファンで、しかもお嫁さんですよ!」
「うぅ、ありがとうプルル……」
プルルを思いっきり抱きしめて、優しく頬ずりしていく。
このやるせない悲しみをどうにかする為に、プルルの成分……名付けてプルルニウムを補充しなければ!
「ミュカ様!?そんな、人前でなんて……」
「……あー、君達。そう言う事は家でやってくれないかな?」
………………ハッ!しまった。つい悲しみで我を忘れてしまっていた。
「ご、ごめんねプルル。つい夢中になっちゃって……」
「いえ、いいんです。いきなりですびっくりはしましたけど…………いやじゃ、ありませんでしたから」
「プルル……」
「ミュカ様……」
「…………チッ、なんだこのバカップル共は」
「……あ、ごめんねアノマ。ほったらかしにしちゃって」
「いや、大丈夫だ。ストーキング相手を間違えたとか思ってないから、ぜんぜん大丈夫だ」
「?そう言えば、アノマ様が私達をストーキングしていた理由って、ミュカ様のファンじゃないなら何なのですか?」
「……プルル君。よくぞ聞いてくれた」
その質問を待っていたと言う様にアノマは両肘を机に乗せて、口元で両手を組んだ。
「君達、私と一緒に『魔物研究会』をやらないか?」
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