スライムのお嫁さんとの学校面談(4)
「私も見たいわ。貴方達が、二人で幸せになる『物語』を」
それまで静かに湯呑みを傾けていた校長先生が、ゆっくりと口を開いた。
そして暖かい目で、僕達を見つめてくれる。
「生徒の幸せを願わない先生はいない。少なくとも、私が校長を務めるこの学校では、そう言う人達に働いてもらっているつもりよ」
その言葉にキンニ先生が頷く。
……ああ、今日この先生達に面談してもらえて、本当によかった。
「ところで」と校長先生が続けた。
「いきなりだけどミュカ君。この学校の校訓って覚えてたりするかしら?」
「こ、校訓ですか?ええと……確か『習うより悩め』で、合ってましたっけ?」
「ええ、正解!覚えていてくれて嬉しいわ〜!」
入学したての小さい頃に何度か聞いて、やけに印象的だったのは覚えている。
学年が上がってからは、習うより慣れろじゃないのか?と不思議に思っていた。
校長は僕の答えにニコニコと笑うと、優しい表情のまま話始める。
「例えば『習うより慣れろ』とか、学んでいく事についての言葉とかって色々あるでしょう?」
「そうですね。あとは確か、誰かから教わるだけじゃなくて自分から学びに行く姿勢が大事、みたいな言葉は聞いた事があります」
「うんうん。あと、それに加えてね?学んでいく途中に悩む事も、同じくらい大切な事だと私は思っているの」
悩む事が大切?
プルルと一緒に首を傾げる。
「あの、ルゥちゃん様。悩む事も、大切な事なのですか?人にとって悩みと言うのは大変な事だと思うので、あまり良い事の様なイメージがしないのですが……」
「ええ、そうね。悩むって、すっごく疲れる事だもの。モノによっては四六時中ずっと頭の中から消えてくれなくって、夜も眠れなくなる時だってあったりするもの。こんな辛いだけの悩みは、消えてなくなっちゃえー!なんて思う種類の悩みだってある」
「……それなのに、悩む事は大切なのですか?」
「うん。だってそれは、自分がその悩みをどうしようかって頑張っている証だもの」
校長はただ真っ直ぐに、僕達を見つめてくれている。
「何か困った事があった時、とりあえず誰かに習って参考にしたり、真似したりする事はもちろん大切。それよりもって自分で実際に行動してみる事も、同じくらい大切。でもね。私は、困った事に対して自分の心を真っ直ぐ向けて真剣に悩める事は、他に負けないくらい大切な事だと思っているの」
「だから」と校長先生は続ける。
「これからいっぱい悩みましょう?ミュカ君とプルルちゃんの二人の関係の事、二人の将来の事。また一緒にお茶でもしながら、私達にも一緒に悩ませて?」
ニコリと微笑みながら校長先生はそう言ってくれた。
……ああ、本当にありがたいな。
腕の中のプルルに視線を落とすと、僕を見上げるプルルと目が合った。
「ミュカ様……ミュカ様の通っていた学校の先生は、素敵な方がいっぱいだったんですね!私、この学校の事が大好きになれそうです!」
どうやら、プルルも同じ気持ちだったみたいだ。
「あら〜!そんな風に思ってもらえて、校長先生とっても嬉しいわ〜!私もプルルちゃんの事大好きよー!」
プルルは僕の腕をピョンと飛び出すと、それを受け止めた校長先生から熱烈なハグを受けている。
「あら、すごいわ!プルルちゃんったら、もちもちでぷにぷに!そして流動的なのに腕からこぼれ落ちない不思議な質感!カンナちゃんも触ってみない!?」
「カンナちゃん様!よろしければ、ぜひどうぞ!」
「………………では、少し」
いつの間にかプルルを触りながら、みんなが笑顔になっていた。
校長先生も、プルルも、あまり笑わない印象だったキンニ先生もだ。
でもよかった。まずは先生達に、プルルの事をちゃんと受け入れてもらえて。
ホッと一息ついていると、キンニ先生が何かを思い出した様だ。
「そう言えば、あと一つ確認しなければならない事があったんだ。一限終了まで時間も少ない、かまわないか?ウンディルム」
「もちろんです。何についてですか?」
「君達が今朝、学校の受付でしたと言う契約についてだ」
あー、あのプルルのおかげで時間短縮できたってヤツか。
そう言えば、クラスメイトが先輩から聞いた話だと一時間くらいかかるって教室で教えてくれたっけ?
「はい。なんか本当なら時間がかかるらしいんですけど、僕と一緒に学校に行きたかったプルルがあっという間に終わらせてくれました」
「……念の為、魔法契約完了の契約印を改めさせてくれないか?」
「?はい、どうぞ」
僕の左手の甲に刻まれた、学校が定めた魔法契約完了の印をキンニ先生に見せる。
校長先生もプルルと一緒になって、僕の手の甲を覗き込む。
「……確かにこれは、学校の安全面から魔物とかと入校する時に使われる魔法契約の印ね。でもすごいわ、本来の物よりずっと簡略化されているのに、契約の拘束力の低下や簡略化による綻びが一切ない……完璧だわ」
校長先生は撫でられてご機嫌なプルルに視線を合わせる。
「ねぇプルルちゃん。あの契約をしたのは貴方なのよね?とってもすごい事だと思うわ。でも、どうやったらあそこまで契約やそれにかかる時間をあそこまで簡単にして、このレベルの契約ができたの?」
「はい!まず、本来ならかかると言われた時間ですが、魔導書にあった契約に使われる魔法陣を予め解析する事で、魔法契約の内容的に必要となる部分以外の要素……例えば、〇〇を〇〇する為に〇〇を用いて、などと言った難解な部分や余計な部分を省いたり簡単な様式に置き換える事で、魔法契約の内容自体を大幅に簡略化できました!あとは他にも、複雑な魔法陣の作成に必要になる実際の陣や触媒は私自身の身体を代用する事で、すぐ契約に移れました!最後に、身体を流動させながら複雑だった魔法陣の代わりとする事で工程の短縮に成功、あっという間に契約完了までできました!」
……うん、プルルがすごいと言う事は分かった。
二人の先生は少しの沈黙の後お互いに頷き合うと、ゆっくりとお互いの席の位置に戻った。
ちなみに校長先生は、プルルを抱いたまま。
「プルルちゃん」「プルル君」
『私達と、詳しくお話してくれるかな?』
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