スライムのお嫁さんとの学校面談(2)




「さて、では早速だがウンディルム。君の連れてきたスライムについてだが……」

「はいはーい!初対面のスライムさんもいるのだし、まずはお互いに自己紹介からが良いと思いまーす!まずは、カンナちゃんからー!」

「…………はぁ。私はカンナ・キンニと言う者だ。この学校の教師で、彼のクラス担任をしている」

「良ければ『カンナちゃん』って呼んであげてね♪」

「はい!よろしくお願いします!カンナちゃん様!」

「………………校長?」

「あ〜ん、カンナちゃん怖ーい。助けてミュカく〜ん!」


 キンニ先生の方を見ると何と言うか……表情が大変凄まじい事になっている。

 僕ら生徒を注意する時には、まずお目にかかれない様な表情だ。


「あれ?そう言えば校長先生、僕の名前を……」

「ちゃーんと覚えているわよ。もちろん大切な生徒だから、と言うのもあるけど……大事な友達のお孫さんでもありますもの♪」

「…………ええ!?ウチの祖母って校長先生とお知り合いだったんですか?!」

「そうなのよー!私や、私の旦那とも学生時代からの付き合いでね?今でも偶にお茶したりしてるの!」

「え?!ソグ婆様のお友達なんですか!?お会い出来て嬉しいです!」


 それを聞くと校長先生は、僕に抱かれているプルルに目線を合わせた。


「私もお会いできて嬉しいわ、キュートなスライムさん。私はルゥサルカ・ヴォージャノイ。よかったら、ルゥちゃんって気安く呼んでも良いのよ?」

「分かりました、ルゥちゃん様!私はプルルです。スライムで、ミュカ様のお嫁さんです!」

「まあ!そうなの?こんなに可愛いらしいお嫁さんがいるなんて……ミュカ君も隅におけないわね」

「あ、ありがとうございます……」


 何と言うか、すごい。校長先生のエネルギーがすごい。既にお腹いっぱいになりそうだ。


「そう言えば、お婆さまは元気にしてる?」

「ええ、一昨日も元気にポーションを作ってました」

「私もお手伝いさせていただきました!」

「あら、そうなのねー!何と言うか……いつでも、ソグネは変わらないわねー」

「……失礼。校長、今ウンディルムのお祖母様の事を『ソグネ』とおっしゃいましたか?」

「えぇ言ったわよ。本名は『ソグネフィヨルド・ウンディルム』または……『大水薬の魔術師』って言った方が、通りが良いかしら?」


 キンニ先生の物凄く驚いた表情を校長先生が見て、悪戯っぽく笑っている。

 ただ、プルルが良く分かってなさそうな表情だったから、軽く解説を挟む。


「あのねプルル。『大水薬の魔術師』って言うのは、お婆ちゃんの別名……異名や通り名なんて感じに呼ばれる事もあるけど、要はお婆ちゃんの皆への働きによって皆から呼ばれる様になった、もう一つの自分の名前なんだ」

「二つ名、なんて言い方が最近のトレンドなんでしょう?カッコ良くていいわよね〜!」

「……うん、それでね?僕が産まれるよりずっと前に自然災害で多くの人が大怪我をしてしまった時に、お婆ちゃんがすごい大量のポーションを作って皆を助けて回った時の感謝の気持ちから、そう呼ばれる様になった名前なんだって」


 実際、今でも災害が発生した時期が近づくにつれて、家に感謝の手紙がものすごい量で届く。

 それくらい、お婆ちゃんに救われた人達やその子孫は多いんだ。


「………すごい……すごい、すごいです!ソグ婆様は優しいだけじゃなくて、とってもとってもすごい方だったのですね!」

「うん。優しくて、とってもすごい人なんだ。僕も、もっと頑張らないと…………」

「…………でもミュカ様だって、ソグ婆様に負けないくらい素敵な方ですよ?」

「へ?!う、うん。ありがとうね、プルル」

「…………さてさて、じゃあ昔話はこれくらいにして、ちゃーんと面談もしないとね!カンナちゃん、お願いね!」


 そう言った校長先生がパンパンッと手を叩くと、お婆ちゃんの話題の衝撃で惚けていたキンニ先生がキリッといつも顔に戻り、ようやく本来の面談が始まった。



 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 

「……と言う流れで、今にいたる感じです」

 面談が始まり、僕はこれまでの事を出来るだけ詳しく話していた。

 本当ならある程度かいつまんだり、ウケの悪そうな部分は端折って話した方が良いのかもしれないけど、せっかく時間を取ってもらっているのだから、先生達にはなるべく正確な内容を聞いてほしかった。

 何より、プルルとの事をいい加減には話したくない。

 

 出会った経緯、その日の内に助けてもらった恩返しにきてくれた事、とりあえずお嫁さんとして家族の一員になった事。

 そして、その後の二人の関係の事。

 全て、包み隠さず正直に話した。

 

「そんな事があって、僕はプルルの事が本当に好きになったんです。もちろん最初は色々考えたし、戸惑いもしました。でも、今はこれから先もプルルにお嫁さんとして、ずっと側にいてほしいって思っています。……世界で一番、大切な存在です」

「…………ふむ、なるほどな。では次に、プルル君はウンディルムとの今の関係をどう思っている?」

「……始めは、私の中で『お嫁さんになる』と言うのは命を助けて頂いた方への恩返しの手段の一つだったんだと思います。でも、ミュカ様やソグ婆様と一緒に暮らして、ミュカ様と同じ時間を過ごした事で、恩返しと言う形だけではいつの間にか満足出来なくなってしまったんです」


 プルルが身体が僕の腕の中で、ぷるぷると小刻みに揺れていく。

 まるで、彼女の想いの丈を表わす様に、絶え間なく。


「最初に言葉にしてくれたのはミュカ様でした。あの時『これからも恩返しとか関係無く、ずっと側にいてほしい。そして、僕と一緒に幸せになってほしい』と言ってくれて……その言葉を聞いた時に、もうミュカ様への恩返しの為と言う理由だけじゃなく、本当の意味で心の底からミュカ様のお嫁さんになりたいと思っている事を自覚できたんです」

「でも、それはプルルが恩返しの為とは言え、僕や祖母に裏表無く真っ直ぐに向き合ってくれたからだと思います。そのおかげで僕はあの時のプルルへの気持ちを素直に言葉にする事が出来ました。……僕達はお互いに一生かけて、お互いを幸せにするつもりでいます」


 僕の、僕らの思いは伝えきった筈だ。

 

「なるほど。君達の想いの丈はよく理解できた」


 キンニ先生が僕らを真っ直ぐに見つめる。





「それを踏まえて教師として、君達の判断の全てに賛成はしかねる」


 

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