スライムのお嫁さんとの学校面談(1)




「さて、ではホームルームを始めるが……ウンディルム、もう問題はないか?」

「は、はい!もう大丈夫だと思います、キンニ先生。朝からお騒がせしてすみません……」

「うぅ……ミュカ様、申し訳ありません……。私、感激して、止まらなくなってしまって……」


 結局あの後プルルの愛情表現は収まらずに、担任のカンナ・キンニ先生が教室に来るまでずっと続いていた。

 人型になれる事に驚かれはしたものの、それ以外は皆温かく僕達を見守ってくれていた。

 

 今は恥ずかしくなってしまったのか、僕の膝の上で小さくスライム形態になって縮こまってしまっている。

 そんなプルルも可愛いと思う僕も含めて、クラスの雰囲気がほんわかとしてしまっている。


「……こほん。さて、朝の連絡事項等は以上だ……が、まだ新学期は始まったばかりだ。引き続き諸君らには、気を引き締めて学校生活をおくってもらいたい。わかったなら返事を」

『はい!』

「よろしい。あとウンディルム。そのスライム関係で色々と話があるから、この後私と一緒に職員室まで付いてくる様に。一限の授業担任には、既に話は通してあるから気にしなくて大丈夫だ」

「わ、わかりました。プルルも一緒で大丈夫ですか?」

「プルル?……ああ、そのスライムの事か。もちろんだ。さて……他に何かない様なら、朝のホームルームを終了する。各自、今日も怪我等に気をつけて過ごす様に」


 そう言ってホームルームを締めたキンニ先生は、教室の出入り口へと向かっていく。

 教室と廊下との境目で立ち止まってこちらを見ているから、きっと僕達を待っているんだろう。


 「……そんな訳でオルカ、一限のノートを後でお願いして良い?」

「ああ、任せとけ。さっきお前らがくるまでで、何とか仮眠は取れた。ただ、解読できる文字になるか保証はできんがな。あと、キンニ先生なら悪い様にはならんと思うが……一応気をつけていけよ?」

「うん、ありがとう。じゃあ……プルル、行こっか」

「は、はい!」


 席を立って先生の元へ向かう途中、クラスの皆が声を掛けてくれる。


「プルルちゃん!また後でお話しよーねー!」「ウンディルム君のお嫁さんの話、いっぱい聞かせてよねー!」「お昼とかよかったら一緒に食べよー!」「ウンディルムー!後で色々聞くから覚悟しとけよー!」


 そんなたくさんのクラス中の声に見送られながら、僕達は教室を後にした。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





 職員室……の隣の部屋。

 進路指導室と書かれた部屋に通された僕らは、机を挟んで先生と向かいあっていた。

 キンニ先生はすごく真面目で、規則に厳しい人だ。

 そんな先生との面談……内容が分かりきったものだとしても、めちゃくちゃ緊張してしまう。

 心なしか、部屋の空気がピリッとしている感じさえある。

 プルルも雰囲気を感じとったのか、若干身体がピンとしている。うん、これはこれで可愛いな……。


「ウンディルム。呼び出された理由については、分かるな?」

「……はい。プルルの事ですよね?」

「そうだ。君の連れてきたスライムについて、色々と確認しないといけない事が……」


 コンコンコンッとノックの音がした。


「すみません、ただ今指導室は、キンニが生徒指導に使用しています。私の方にご用の方ですか?」

「はーい!そんな職務に熱心なキンニ先生に、差し入れでーす!」


 そして扉が開かれると、そこにいたのはメガネをかけた優しそうな年配の女性。

 ………………て言うか。

 

「こ、校長先生?!」

「あら!こんなお婆ちゃんの事を覚えててくれたの?嬉しいから、貴方にも差し入れあげちゃう!」


 校長先生がパチンッと指を鳴らすと、机の上に人数分の湯気が立つお茶とお茶菓子、それに飴玉サイズの綺麗な色の結晶が数個、お盆に乗って現れた。


「スライムさんにもどうぞ!魔力を固体にした物なら、あなたも一緒に食べられるでしょう?」

「え……は、はい!お気遣いありがとうございます!」


 まあ!礼儀正しいのねー!とプルルを見てテンションの高い校長先生。

 

 しかし、なるほど。

 魔力関係のモノなら、プルルでも食べられるのか。

 勉強になるなーと思っているとキンニ先生が眉間に皺を寄せながら、校長先生に話しかけた。


「校長。彼との面談は、担任である私が行うと先程決まった筈ですが?」

「もちろん知っているわよー!でもね、指導室でお話するのって緊張するものでしょう?堅苦しい話じゃないんだから、お茶とお菓子でも楽しみながら、皆でお話しましょうよ!」

「…………本日の校長の業務の方は大丈夫なんですか?」

「えぇ、もちろん!教頭先生にも押し付け……協力してもらうから問題ないわ!」


 すごい。表情がいつもキリッとしてると評判のキンニ先生が、ため息ついて諦めたみたいな顔してる……!


「……貴方は彼の面談にかこつけて、仕事の時間にお茶したいだけでしょう」

「あら、失礼しちゃう。私だって、ちゃーんと生徒の事を考えているんですよ?それに、カンナちゃんだけに生徒の事を抱えさせる訳にはいかないでしょう?」

「そこはお気遣い感謝します。あと……仕事中に『カンナちゃん』はやめてください。もう子供じゃないんだから……」

「うふふ、大丈夫よー。だって私は、この学校にいる全ての人達を自分の子供の様に思っているもの。だから、カンナちゃん呼びも問題無し!」

「問題大有りです」


 先生達のやり取りに呆気に取られていると、思い出した様にキンニ先生がコホンと咳払いをした。


「……あー、そうだな。多少予想外の事が起こったが、これから面談を始めていこうと思う。……お茶でもお菓子でも好きに飲み食いしながら、話してくれて構わない」

 

 こうして、僕らとキンニ先生と校長先生の面談と言う名目のお茶会が始まった。

 

 

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