スライムのお嫁さんとの初クラス
パシフィクス地域唯一の教育機関「ブレスラグーン」
高等部魔法魔術科・2ノC。
ここが、僕が今学期から所属しているクラスだ。
まだクラス替えから日は経ってないけど、クラスの人達とはそこまで悪くない関係を築いているところ……だと思う。
プルルを抱いて教室の扉の前に立つも、そこから思う様に足が動かない。
やっぱり……めちゃくちゃ緊張する。
緊張を抑えようと呼吸を整えても、胸の不安はなくなってくれない。
連れてきたプルルに対して、周りからどんな反応をされるのか。
そして、僕とプルルの関係にどんな反応が返ってくるのか。
すごく、すごく心配だ。正直言って……少し、怖い。
僕が嫌な思いをするだけなら、まだ良い。
でも、僕と一緒にいる為に学校に来たのに、そんなプルルにまで思いもよらない嫌な言葉や辛い経験をさせられたら?
プルルを抱く腕に、自然と力が入る。
心配を悟られない様に、ゆっくりとプルルの見下ろしてみる。
さっきまで学校でも一緒にいられる事にハイテンションでぷるぷるしていたプルルも、今ではカチカチになって緊張してしまっている…………と思ったら、相変わらずぷるぷると楽しそうに揺れていた。
「ここがミュカ様のクラスですか……楽しみですね、ミュカ様!これで、ミュカ様のご学友にお嫁さんとして挨拶ができます!」
「……そうだね。僕も、プルルみたいな素敵なお嫁さんが出来たって、クラスの皆に自慢しないとだね!」
「良いんですか!?とっても嬉しいです!では、早く入りましょう!扉をお願いします!」
…………ホント、プルルは世界一頼もしくて、僕には勿体ないくらいの一番素敵なお嫁さんだよ。
思い切って、教室の扉を開ける。
普段はあまりしないけど、さらに思い切ってクラス全体に向けて声を上げて挨拶もしてみる。
「お、おはよう!」
「皆様!おはようございます!!」
それまで各々自由に過ごしていたクラスにいる人達の視線が、一気に僕らに向かって飛んでくる。
最初は僕に、次に腕に抱かれているプルルに、クラス中の視線がこれでもかと注がれる。
僕はその視線に負けない様に、堂々と胸を張って自分の席に向かった。窓際の一番後ろの席だ。
プルルの方は最初の朝の挨拶ができて嬉しかったのか、腕の中でぷるぷると揺れている。
席に着いて机の横に学校用カバンを掛けてから、朝から僕の前の席で突っ伏しているボサボサ頭の親友に声をかけてみる。
「オルカ、おはよう。また夜遅くまでゲーム?」
「……ん、あぁミュカか。おうよ、休み中は睡眠時間削ってやり込んだからな……だけど、その甲斐あって隠し要素も粗方見つけ出してやったぜ。あとは、じっくりとクリアしていくって寸法よ」
「そうなんだね……それはお疲れ様。じゃあ、今日のノートも後で僕のを写す?」
「いつも悪いな、頼むわ。今回の報酬は………………あ?」
僕の親友オルカ・オシナースは睡眠不足でできる目のクマがすごく特徴的な根っからのゲーマーで、よくノートや勉強関係では僕と協力関係を結んでいる。
夜更かし明けの彼は周りに対して極端に無関心になる事が多いけど、流石にプルルには気がついたみたいだ。
「…………おい、ミュカ。その丸っこいぷよぷよはなんだ?お前の新しいクッションか何かか?」
「あ、紹介するね。この娘は」
「はじめまして、オルカ様!私、ミュカ様のお嫁さんのプルルです!以後、お見知り置き下さい!!」
「おう、よろしくなー…………………………は?」
『……しゃ、しゃべったーー?!!!』
クラス中の声が、一つになって教室内に響いた。
「お、おいウンディルム!お前なんだよそれ?!スライムだよな?!」
「うん、そうだよ?……あと『それ』じゃなくて『プルル』ね」
「……あーなるほど。名前付けてるって事は、テイムか何かしたスライムって感じなのかな?」
「まあ、そんな感じ。今朝学校の受付で、学校に入る為の魔法契約もしてきたところ」
「え?先輩に聞いた事あるんだけど、その魔法契約ってかなり長い時間とか手間がかかるんだよね?先輩は一時間ちょっとくらいって言ってたけど……」
「そこはまあ、プルルがすごかったから……すぐ終わっちゃったよ。ね、プルル?」
「はい!かかると言われた時間とか手間ですが、契約に使われる魔法陣を解析する事で魔法契約の内容的に必要となる部分以外の余計な要素を省く事で、契約内容自体を大幅に簡略化できました!他にも、魔法陣や触媒は私自身の身体を代用する事で、すぐ契約に移れました!」
「学校の契約用魔法陣を解析?!そ、そんな事できるの……?ぜんっぜん理解しきれてないけど、とにかくすごいスライムなのね、あなた……」
「ミュカ様のお嫁さんとして、当然の事です!」
えへん、と胸を張るポーズをするプルル。
本当に、僕のお嫁さんの可愛さが留まる気配が全くない。
そう言えば、プルルについてお婆ちゃんは普通のスライムじゃなくて「マジックスライム」って言ってたけど、こんなに魔法関係に強いスライムって中々いないんじゃないか……?
流石、僕のお嫁さんだ。
「ねえウンディルム君。こんなに喋れたり魔法関連がすごい事も気になるんだけどさ……さっき、プルルちゃん?が言ってた『ミュカ様のお嫁さん』って、どう言う意味……?」
……来たか。
「……うん、そのままの意味だよ。プルルは僕のお嫁さんになりたいって言ってくれて、僕もプルルにお嫁さんになってほしいって、お互いに気持ちを伝えあったんだ。大好きだから、ずっと側にいてほしいって……プルルと一生かけて、幸せになるつもりでいるよ」
教室がシンと静まりかえる。
後悔はない。上手く隠したり、誤魔化せば良かったなんて思わない。
これで僕が皆から気味が悪がられたり、気持ち悪がられたりしても、プルルに対しての気持ちに嘘は………………
『キャーーッ!!!』
うわ!び、びっくりしたー!
耳キーンってなったよ!!
「え、すっごい素敵!二人共お互いにお互いが大好きなのね!」
「やばい待って……胸がキュンキュンする……キュン死しそう……」
「待って待って待って、尊い。これは、余りにも尊過ぎる」
「それねっ!可愛いプルルちゃんも、それを受け入れるウンディルム君も最高!見てるだけで幸せになれそう!」
どうやら、受け入れられたみたいだ。
よかった……少なくとも、この場でプルルが嫌な思いをしなくて本当によかった。
ホッとしてプルルを見ると、何やらまたしてもぷるぷるしている。
「プルル?どうしたの?……大丈夫?」
「ミュカさま……ミュカさまー!!!」
「うわぁ!」
プルルが急に人型形態になって、僕の胸に飛び込んできた!
「わたしもです!わたしも、幸せです!ミュカさまのお嫁さんになれて、側にいられて幸せなんです!ミュカさま、愛しています!ずっとずっと、一生大好きです!」
「……ありがとう。僕も一生、愛してるよ」
先生が来てホームルームが始まるまで、プルルの愛情表現は続いた。
もちろん、その間は僕もずっとプルルを抱きしめていた。
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