スライムのお嫁さんとの登校




 その後、家に帰った僕達は準備してあったお赤飯を食べながら、お婆ちゃんに二人の関係の事を報告した。

 

 あれから僕はプルルの事が本当に好きになって、これから先もプルルにお嫁さんとして、世界一大切な相手として側にいてほしいと思っている事。

 プルルは僕への恩返しの為と言う理由だけじゃなくて、本当の意味で心の底から僕のお嫁さんになりたいと思っている事。

 二人してかなり勇気を出したカミングアウトだったんだけど、それを聞いたお婆ちゃんの反応はかなりシンプルだった。


「……ああ、わかった!二人でちゃんと幸せになりなっ!」


 身近な家族に受け入れてもらえたと言う事実に、安心感から目元が潤む。

 そんな僕を見て、白い歯をニッとさせながらサムズアップするお婆ちゃんは、最高にカッコよかった。


 


 次の日の休日は、昨日プルルが大量に作ったポーションを、お婆ちゃんが馴染みのギルドに売りに出かけて行った。

 僕らも手伝いで一緒に行こうとしたところ「二人きりの時間くれてやるから、今日はしっかりイチャイチャしな!」と有り難いお言葉を頂いた。

 

 そんな訳で、めでたく二人きりになれた僕らは、僕の部屋で一緒にのんびりと過ごしていた。

 イチャイチャと言われると思い付く事は色々あったものの、最終的には僕の好きな物語が書かれた本をプルルと一緒に読むと言う事で落ち着いた。

 プルルとしては、僕の普段の生活や好きな事が知れるのが何より嬉しいらしい。

 プルルはスライムの姿になって僕の腕の中で過ごしたり、人の姿になって隣に座ったりしながら、本当に楽しそうに過ごしてくれた。

 そんな彼女の色々な表情を見ながら、本当に幸せな時間を過ごせたと思う。

 一緒の時間を過ごしていく毎に、プルルの色々な魅力を発見できたと心から思う。

 

 お婆ちゃんが帰ってきてイチャイチャできたか?と聞いてきたから「「バッチリ!」」と二人でサムズアップで応えた。


 きっと僕の17年の人生の中で、一番幸せな休日を過ごす事ができた。

 



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 

 

「そんな……ミュカ様のお嫁さんなのに……私達は離ればなれになってしまうと言うのですか…………」

「えーと、プルル?何か……目が死んでるけど大丈夫?」

「な……何故ですかミュカ様!あの時、私にずっと一緒にいてほしいって!側にいてほしいって仰ったじゃないですか!」

「あの、学校に行くだけだから。流石に学校にお嫁さんは連れていけないし……学校終わったら帰ってくるからね?」

「あんなにも!何度も、執拗に、私を愛して下さったのに……!もうミュカ様は、私の身体に飽きてしまわれたと言うのですか!?」

「いや言い方!人聞きが悪過ぎる!……あとプルルに飽きるとかあり得ないから!」


 変なテンションになってる所為か、朝っぱらから声のボリュームがすごい。

 ただでさえ可愛らしい女の子の形態をしていて、リアクションも大きすぎてめっちゃ目立つ。

 プルルさん、ここ玄関先なんですよ。さっきからご近所さんの目線とヒソヒソ声が心に痛いんですよ……。

 あとお婆ちゃん、後ろでニヤニヤ見てないで助けてください……。


「プルルちゃんや、少し落ち着いて。心配しなくてもミュカはあなたの事が大好きだし、こんな事も有ろうかと一緒に学校に行く方法も考えてあるよ?」

「?!本当ですかソグ婆様!ぜひ教えて下さい!!」






 そんなこんなで、何とかやってきました。

 この辺唯一の教育機関「ブレスラグーン」


 いつもなら正面門を潜ってから自分の教室に向かうところだが、今回は職員室や外部用の窓口がある正面玄関に向かって歩く。

 すると、今日は学校と言う事でカバンの中に入っているプルルが話しかけてきた。

 

「ミュカ様。こちらから手続きを行う場所に向かうのですか?」

「そうだよ。これで申請がちゃんと通れば、プルルも僕と一緒に学校に来れるよ」


 お婆ちゃんが僕達の為に教えてくれた事。

 それは、プルルを「自分に従わせた魔物」と言う形で一緒に学校に行く方法である。

 卒業生のお婆ちゃん曰く、テイムなどの魔法で使役した生き物や魔物などの扱いを学びながら、学校生活を円滑にする為の制度が定めているようだ。



 そんな訳でプルルと話しながらも、無事に受付窓口近くに到着した。

 入学以来、ほぼ訪れた事のない場所に少し緊張していると、有り難い事に案内の声が聞こえてきた。


「そこの君ー。何かお困りかなー?」


 窓口の女性から、声がかけられる。

 近づいていくと、少し顔にあどけなさが残るお姉さんが手招きしてくれていた。


「あ、はい!このスライムなんですけど、テイムとかで従属した魔物と一緒に学校に入る為の申請をお願いしたくって……」

「あら、可愛い子だねー!それじゃあ……って、初めての受け付けだなー。ちょっと確認してくるから、待っててねー」


 そう言って窓口を離れる受付のお姉さん。

 そのタイミングで、プルルからじっとりとした目線が向けられる。


「えっと……プルル?」

「ミュカ様は、ああ言う女性の外見が好きなのですか……?」


 ああ、なるほど……。

 本当に、最高に可愛いな。僕のお嫁さんは。

 

「僕はその……今のプルルの姿が、世界で一番好きだよ」

「ミ、ミュカさま!?あの、大変嬉しいのですが、その……お、お外ですぅ……」


 あー可愛い。ホント可愛い。プルルを思いっきり抱きしめながら、可愛いって言い続けたい。

 そんな自分の感情と自制心が激しい戦いを繰り広げていると、受付のお姉さんがこちらに戻ってきた。


「お待たせしましたー。長い事ごめんねー」

「大丈夫です。それで、手続きはできそうですか?」

「あーそれが……ちょっと今日中の手続きは難しいねー」

「……ええっ?!なんでですか?!」

「えっと、テイムとかの魔法で従わせた魔物は普通ならそのままの状態でも他の場所とか施設に行く事は、法的に問題ないのね。でもこの学校では、学生とかの安全対策の為に専用の契約をしないといけないって規則があるみたい何だよねー」

「な、なるほど……ちなみにその契約って言うのは……」

「この魔導書に書かれてる契約なんだけど、契約に使う儀式用の魔法陣の準備に多少複雑な手間がかかるから、ちょっと今日はその子との一緒の入校は規則的に無理になっちゃうんだよね。……せっかく来てくれたのにごめんね」


 うーん……安全とか、その為の準備に時間がかかるって言われたら、もうそれはしょうがない。

 おそらく遅刻になってしまうけど、もう一度プルルと帰って………………。

 

「ミュカ様!私にその魔導書を見せて頂けますか?!」

「へ?う、うん。……すみません、失礼します!」


 窓口に置いてあった魔導書を素早く手に取って、プルルに見せる。


「あ、こらこら!関係者以外は原則閲覧禁止だよ!………………いや、今スライムが喋らなかった!?」

「はい、ミュカ様のお嫁さんのプルルです!それと、契約の魔法陣も何とかなりそうです!」

「やっぱ喋ってる!あと……お嫁さんってどう言う事?」


 お姉さんの疑問は尤もだけど、今はプルルだ。

 プルルは開いた魔法陣のページの前で、強力な魔力を準備している。


「プルル、いけそう?」

「はい!複雑な陣や工程は私の流動する身体で代用する事で、簡略化が可能です!解析も終わったので、今すぐ契約できます!」

「よし!それじゃあ、契約しちゃおう」


 プルルは僕の言葉を合図に、魔法陣を展開して行く。

 広がるスライムの身体が線や図形の代わりとして流動しながら、何重にもなる複雑な魔法陣を用いた魔法契約が進んでいき、やがて完了する。


「うっそ……あそこまで複雑な魔法契約をこの短時間で、しかも自力で?!スライムが?!!」

「えーと……じゃあ、これで大丈夫ですかね?」


 契約完了の証として僕の身体に刻まれた、魔法の契約印を受付さんに見せる。


「……は、はい。確かに………………」

「よかったです!あとこれ、魔導書もありがとうございました」


 お礼を伝えて、プルルと一緒に教室に向かう。

 何とか朝のホームルームには間に合いそうだ。


 

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