スライムのお嫁さんとの休日(1)
僕の一日は特に変わらない。
平日は毎日決まった時間に起きて、学校に行って、家に帰ってきて、本を読んで、寝る。
休日も大体決まった時間に起きて、お婆ちゃんの仕事を手伝ったりして、本を読んで、寝る。
これが僕の、これまでと変わらない毎日の筈だった。
「おはよう御座います、ミュカ様!寝起き姿のミュカ様も、とっても素敵です!」
「……おはよう、プルル。そう言う君だって、もちもちプルプルでとっても素敵だよ」
この可愛らしいスライムさんが、僕に恩返しに来るまでは。
なんだかんだと僕の部屋で一緒に寝て起きたプルルは、朝から眩しいくらいの笑顔を寝起きの僕に向けてくれる。
昨日、僕に命を救われたと言って家まで押し掛けてきたスライムさんは、恩返しに僕のお嫁さんになりにきたと言って……なんやかんやあったものの、お婆ちゃんにも認められてウンディルム家の一員になった。
正直とても驚いたし、この状況に戸惑いだって無い訳じゃない。
でも、僕への好意をこんな風に全身全霊で伝えてくれるこの娘に対して、不思議と嫌な感じはなかった。
家族として僕の贈った「プルル」って名前も気に入ってくれているみたいだし、そこは本当によかった……。
「あ、ミュカ様の頭に寝癖が……もしミュカ様がよろしければ、是非とも私に直させてほしいです!」
「え、プルルはそんな事できるの?」
「もちろんです!私、ミュカ様のお嫁さんスライムですから!」
そう言うとぷるぷるの丸い身体から手?を伸ばすと、僕の頭全体をそっと包み込んだ。
「………………はい!出来上がりです!」
少しの間そうしてから、頭からプルルが手を引っ込める。
恐る恐る頭を触ってみると、寝癖は全て整えられていて、髪はトリートメントをしたばかりの様にツヤツヤサラサラになっていた。
「うわ、すごいな!寝癖もバッチリ直ってて、髪もすごいサラサラだ!」
「はい!寝癖姿のミュカ様も可愛かったのですが、こっちの方がよりカッコいいかと思いまして!」
可愛いスライム形態から可愛い人型形態になって茶目っ気たっぷりの顔で言われてしまうと、どう反応して良いか分からなってしまう。
耳から頬が熱くなるのを自覚していると、部屋の外からお婆ちゃんから声がかけられた。
「おーい、お二人さーん。朝からお熱いのもけっこうだけど、朝ごはんが冷めちまうよー」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
慌てて顔を洗ってきた後、お婆ちゃんとプルルと一緒に食卓を囲む。
ただ、プルルは食事の必要がないらしいので、僕の膝の上で丸くなっている。
何でも、体表から空気中の魔素を身体に取り込んで、エネルギーに変えているそうだ。
魔物としては、結構ポピュラーな方法らしい。
「そう言えばミュカ、今日は何か予定はあるのかい?」
「ううん、特にないよ。今日もお婆ちゃんの仕事を手伝うくらいかな?」
「ん、そうかい。それなら……」
「ソグ婆様のお仕事?どんな仕事なんですか?」
プルルがぷよんと揺れて、興味があります!とアピールしてくる。
「お婆ちゃんはね、家の裏山で採ってきた薬草を魔法調合して、ポーションを作る仕事をしてるんだ」
「少しでも家計と足しになればと思ってね。普段の生活費は、あたしの娘が家に稼ぎを入れてるから問題ないんだけど……あの仕事バカ娘、なかなか家に帰って来やしない!」
「ええと、ソグ婆様の娘さんと言う事は……」
「そう、僕のお母さん。今は少し遠い所で、魔法開発関係の仕事に就いているんだって。時々こっちに帰ってくるんだよ」
僕のお母さんは一部じゃそれなりに有名人らしくて、専門書の中には名前が載っている物もあるみたいだ。
そんな事を話しながら、僕は朝ごはんを食べ終える。
「じゃあお婆ちゃん。洗い物が終わったら、腹ごなしに裏山で薬草とってきちゃうよ。量とか種類はいつもと同じくらいで大丈夫だよね?」
「……ミュカ様!薬草探し、私にもお手伝いさせて下さい!」
と、僕が立ち上がろうとした時、ぷるぷると震えながらプルルが言った。
「え?でも……ウチに来てもらったばっかりで、そんなの悪いよ」
「私がしたくてお願いしているので、どうか気にしないで下さい!お嫁さんとして、是非ミュカ様を手伝わせて下さい!」
「……良いんじゃない?ついでに裏山をプルルちゃんに案内しておあげよ」
うーん、そう言う事なら……良いのかな?
「わかった。じゃあ洗い物を終わらせてくるから、玄関前で待ってて」
「はい!ありがとうございます!薬草探し、頑張ります!」
人型形態になってムンッと両手を握って気合いを入れるプルルの姿にほっこりしながら、洗い物の準備をするのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ウチの裏山は大体こんな感じで、ポーション作りの薬草の方はこんなもんかな?」
時間にして約数時間ちょっと。
ウチの裏山の軽い案内なんかもしながら、持ってきた二個のバケツが両方ともこんもり一杯溜まるくらいになるまで採取した薬草をプルルに見せる。
「はい、ミュカ様ありがとうございます!裏山も薬草探しもとても興味深くて、とっても楽しかったです!」
「そ、そう?ならよかった……」
薬草探しながら裏山を見て周るだけだったから、プルルが退屈してるんじゃないかってすごく不安だった。
でも、僕が少しでも役に立てて、楽しいって思ってもらえたなら本当に良かった……。
「あ、ミュカ様!せっかくなので今の内に、採取した薬草の良し悪しも仕分けてしまいませんか?」
「……え?プルルはそんな事も出来るの?」
僕はお婆ちゃんの手伝いを長い事続けてきたから薬草の種類はある程度なら見分けられるけど、詳しく見分けや質の良し悪しまではお婆ちゃんに見てもらわないと分からない。
「はい!私をバケツに溜まった薬草の上に置いてみて下さい」
「う、うん……わかった」
両手でゆっくりとプルルを持ち上げて、一個目のバケツにこんもり溜まった薬草の上にそっと置いてみる。
すると、薬草がプルルの身体の中に入り込んでいくにつれて、どんどんバケツに沈んでいく。
底まで着いたらもう一個のバケツに移す様に言われたから、言われた通りに移す。
するとやはり、プルルがバケツに沈んでいくにつれて、薬草がさらにプルルの身体の中に入り込んでいく。
「えーと、プルル?これは薬草の仕分けをしてるところなんだよね?」
「はい!まずはですね、ミュカ様が集めて下さった薬草を私の身体に取り込んで、ポーション作りの妨げになる土や汚れなどを分離させます」
「え!?そんな事までやってくれてるの?!」
す、すごい……。
ポーション作りの面倒な工程が一つ減ったぞ……!
「もちろんです!次に、綺麗になった薬草を質の良い物・良くない物に分けて、質の良い物はそのままバケツに残します。そして良くない物はポーション作りに必要な薬効成分のみを抽出して、もう一個のバケツに保存して置きます」
「………………おぉ」
す、すごい……!
ポーション作りに掛かる手間が、見る見る減っていく……!!
「これで、あとは絞りカスや汚れ等をまとめて処理して、ソグ婆様のところに持ち帰れば完了です!ミュカ様、いかがでしょうか?私、お役に立てましたか……?」
「……すごい、すごいよプルル!これならお婆ちゃんも、とっても助かると思うよ!僕からも、本当にありがとう!」
僕の言葉に、にっこりと安心した様な笑顔を浮かべるプルル。
そんな姿がすごく可愛くて、思わずプルルを抱きあげて優しく撫でてあげた。
あれだけ自分を僕のお嫁さんって言ってくれるなら、僕だってプルルをこんな風に抱いて撫でても良いんだよね?
だって、プルルは僕のお嫁さんなんだもの。
僕の感謝が手を通して、少しでも伝わります様に。
照れ臭いけど、僕が感じた想いが伝わります様に。
暖かい様な、くすぐったい様な、不思議な気持ち。
何だか恥ずかしくてプルルの方は見られなかったけど、ぷるぷる震えてるプルルの感触が堪らなく幸せで、抑えられなくなる度に、プルルをギューって抱きしめた。
上手く言葉に出来ない気持ちが落ち着くまで、しばらく二人してそうやって一緒にいた。
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