第四話 俺達は真剣だ
明達、「鳶の反逆」のメンバーは中野駅の改札南口に朝九時に集合することになっていた。明達にとっては、午前中に集まるということは稀である。夜のうちに冷やされた空気が朝の陽ざしに温められ、肌に当たり気持ちいい。楽しげな一日を想起させる日だった。
明は昨晩から政治家探しについて考えていた。どこに自分たちが理想とする政治家がいるのであろうか。今までの生活では政治について等、深く考えたこともなかった。皆目見当がつかない。明が理想とする政治家とは国民の事を第一に考え、私利私欲を優先せずに、国民の未来を先頭に立って切り開いてくれる人物だ。明達のような一般人に夢や希望を抱かせてくれる政治家だ。明はそのような崇高だが具体性を欠いた漠然とした想いを胸に今日の政治家探しを行うつもりであった。
「よー、おはよーさん」
間のぬけた挨拶を聞いて、明は本当にこのメンバーで理想の政治家なんて見つけることが出来るのだろうかと不安になった。考えれば自分たちは世の中の負け組だ。然したる特技や才能を持ち合わせていない。持ち合わせているものといえば、これまで盗みといった社会的リスクを取ってきた度胸とそれを通して培った仲間との絆くらいだ。正当な方法で本当に自分たちが世の中と戦うことが出来るのだろうか。世の中を変えられるような働きが出来るのだろうか。そう考えると明の額に皺が寄った。
「なーに難しい顔しとんねん。柄にもないなー」
先程から地元の方言で間延びした声をかけてくる正太に明はフラストレーションを感じていた。
「よー、明と正ちゃん。おまたー。健ちゃんはまだかいな。俺が最後やと思っとったわー」
「珍しいな。健二よりも港が先に集合するなんてな。いっつもお前は髪型が決まらんやどうのと言って、二十分遅れは当たり前やのにな」
「そうやろ、今日は朝起きたときから寝癖がええ感じやってん。それを活かしてな。そんで時間ぴったりや。見てみ。決まってるやろ」
港が髪を指差し、明達にアピールする。
「はあー。ほんっと。中身のない会話だなー。俺達はこれからこの国を変えるような作戦会議をするんだぞ」
明はため息をつくと思っていたことが口に出ていた。
「なんや、明はホンマに真面目やなー、なあ、正ちゃん」
「そうや。そうや。そんだけ、平和やっちゅうことや。あれ、平和なんやったら特に変えんでもええんちゃうか」
「せやなー。それも言えるなー」
「ダメだよ。変えなくちゃ」
はあはあと息を吐きながらその一言を放ったのは健二だった。
「遅れてごめん。電車、乗り間違えちゃって。久しぶりに電車に乗ったから」
「ええよ、健ちゃん。いつもは俺が遅れてくる立場やしな」
「はは、そう言えばそうだね、港君」
せやろ、せやろと言いながら、うんうん頷く港は早く来れた理由を健二にも説明している。
「せや、健ちゃん。この糞真面目な明がな、この平和な会話を中身のない会話なんていうんやで」
港が健二に擦り着いた。オリエンタルな香水の匂いがする。シダーウッドだろうか。
「港、俺を悪者にしないでくれよ。俺は俺達の目的である政治家探しについて、真剣に考えていただけだ」
明は港に反論した。
「そうだよ。港君、さっきも言ったけど、平和だからって、このままで良い訳ない。平和に見えて、この国は真面目に働く者から利益を吸い上げ、それを自身の肥やしとする国民の声を聞かないような政治家がうじゃうじゃいる。一度、成功出来なかった国民はなんとか自分の生活だけを守れるような賃金で生活を保ち、家族を食べさせていくのには四苦八苦している。そんな国は変えなくちゃいけないんだ。誰もが期待を込めて生活をしていけるような世の中にしなくては」
健二の言葉にはいつも以上に熱が入っている。明が昨晩、考えていたことだ。健二も同じ想いであった。健二の目は澄み、その瞳の奥は固い意志を灯していた。
「ごめんよ、健ちゃん。せやな、今日は真剣にするわ」
「俺もそうするよ」
港と正太は健二の想いを感じ取った。
これから、理想の政治家探しが始まるのだ。
詐欺師達の王 梨詩修史 @co60
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