追う者、追われる者③
カッ――ン
カッ――ン
庭園の中には、太陽の光を貪欲に追い求める観賞用の植物が生い茂っている。陽光を吸収するために頑張って伸びるその姿は、静かな生命力を感じさせた。花々は熟した蜜を秘め、羽のある昆虫達がそれを求めて飛び回っている。小鳥はその縄張りを守るために、切なく甲高い鳴き声を響かせており、全ては調和の取れた絵画のようで、そこは慌ただしい市街から隔離されたような安らぎの空間だった。
しかし、その静けさはメディエットがその庭園に足を踏み入れた瞬間、一変した。彼女は石畳の上を堅実に歩き、その靴音が空気を揺らし、それが鳥達や昆虫たちの営みを乱す。それはまるで彼女が進む道の前に広がる自然が、彼女の気鋭の思考に敬意を示し、静寂を返すかのようだった。
庭園を抜け、廊下へと進む彼女の前には、ある老人の姿があった。彼はあたかもメディエットの出現を予期していたかのように、彼女の到来を静かに待っていたようだ。
「熱心なものだな。これから市街に降りるのかね?」
そう、ランディスが、メディエットに声をかけた。
「あぁ。これ以上被害が広がれば減給になるからな」
少女はメディエットの足音により、一斉に生物達が逃げ出した中庭を呆然と眺めている。メディエットはそんな彼等の脇を邪魔者を見るような目で一瞥すると通り過ぎる為にまた靴音を響かせた。そして、メディエットの側面を一陣の風が交差する。
「その男の人生を変えてしまったのは誰かが吐いた些細な一言だったのかもしれない。『馬鹿とか、屑とか』罵倒や中傷、罵りや嘲り。あるいは市街で小耳に挟んだ、ただただ時世に沿った噂話だったのかもしれない。いつの世も人生の歯車を狂わせてしまうのは、そういった些細な言葉に他ならない」
「だからといって、トールの罪が軽くなるわけではないだろ」
ランディスの意味深な言葉に、メディエットは正論を返した。
「良い心構えだ。本部のグレゴリオはよほど教育熱心だったみたいだな。メディエット。君の内に秘めたる正義感が何時までも消えぬ事を、私は切に願っておるよ」
ランディスがそう呟いた時、その背後にメディエットの姿は既に見受けられなかった。彼女の静かな去り際は、彼女が持つ決意の深さを、ランディスにはっきりと伝えていた。
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