追う者、追われる者②
ランディスは『ディ・アブロ』の説明を一通り終えると、事件の概要を説明するために呼び寄せた3人の子供たちを解放した。ランディスが「解散」と宣言すると、メディエットは怒りに燃える目で席を立ち、靴音を響かせながら、重々しく閉ざされた会議室の扉を開けた。彼女の機嫌が悪いことは、その様子から明らかだった。ランディスによって多くの機士仲間を失った内紛の古傷を引きずっているのかもしれない。上司の意見に無理矢理同調させられたからかもしれない。彼女の心に芽生えた怒りの矛先が誰に向けられているのか、アレックス達は知る由もなかった。ただ、ランディスが『ジョーカー』という言葉を口にした瞬間から、彼女の鉄面は黒く変色したようだった。
扉がバタリと閉まる音を背に、ランディスと助手が会議室を後にした。そして再び、扉はバタリと音を立てる。
会議室の中には2人だけが残された。メディエットとは対照的に、アレックスは落胆した表情を浮かべている。その背中を、リリーが小さな手で優しく撫でていた。
「旦那さま……どうしましょう?」
「うぅん……」
「旦那さまは本当にトールさんが犯人だと思っているんですか?」
「う~ん。そんなことはわからないよ」
「でも、心の奥底では違うと思っているんですよね?」
「なぜみんながトールの肩を持つのかな。ベイカーの証言を聞いた限りでは、『ジョーカー』を名乗り警官2名を殺害したのはトールしかいない……。でも……」
「でも……?」
「あの人……。不器用だけど……。良い人だったから……」
リリーの優しい声に応えて、アレックスは言葉を探しながら本心を呟いた。
アレックスは、誰よりもトールの犯行を信じられずにいた。長い間、彼と肩を並べてこの街の治安を守り続けてきたからこそ、トールの名が重大な犯行に結びつけられた現実が許せなかったのだ。心の奥底では、他の犯人を切に願っていた。もし、彼が既に命を落としており、誰かの手によって操られているとしたら…。そのような幻想を密かに心に抱きつつ、アレックスはゆっくりとズボンのポケットに手を入れた。そして、ズボンのポケットから取り出した1枚のカードは、黒く輝き、まるで夜空の一部を切り取ったかのように見えた。
「旦那さま?」
そのカードが象徴するもの、リリーは痛いほど理解していた。アレックスがそのカードを見せた瞬間、彼女の表情は深い悲しみで曇った。それは、彼女が今までに見たどんな表情よりも悲しく、失望に満ちていた。そのカードは明確にトールの死を伝えていたのだ。
「リリー、これから市街に降りる。覚悟はいいかい?」
「……この街の裏側で、トールさんを探すんですね」
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