第19話 父の願い息子の想い

 藤ノ宮家のガードマンに送られて杜若が聡の入院している病院へ到着する。


 入口で警護の警察官に挨拶して病室に入る。

頭に包帯を巻いた聡が、ギブスで固定された足と手ををベッドから出している姿を見て、知っていることなのに言葉を失う。

「父さん」

やはり瑠奈には、父のこの姿は見せられないな。

と思う。

顔を動かせないのだろう、上を向いたままの聡が、

「杜若か、こちらへ来てくれ」

と言い、従った杜若がベッドのわきに立ち、聡の包帯だらけの手をさする。

「具合は、どう?」

「連れ去られた曜子に比べたら、大したことではないよ」

杜若の顔が曇る。

「杜若。武ノ内のお祖父さんから、話しを聞いたか?」

「うん。大体は」

「そうか。本当に済まない。

昔、俺が楽な方を選んだために、亮を死なせ、結果珠緒さんも死なせた。

環さんや瑠奈に淋しい思いをさせて、今度は、曜子まで」

「父さんのせいではないよ」

「いや、あの時、柘枝村で曜子ではなく、珠緒さんを選び、完全ではなくてもスメラミコトの力を得るべきだったんだ。

そうすれば、柘枝村の人達も救えた。

亮が、珠緒さんを好きだと知った時、ほっとしたんだ。

曜子と一緒になって、家族を持って幸せになりたい。

という思いは、自分のためだけのものじゃないと」

聡の顔の包帯に涙がたまっていく。

「父さん」

杜若が病室のティッシュで聡の涙をそっとぬぐってやる。

「杜若。これから父さんは、親として最低の願いをお前に言う。

軽蔑してくれて構わない。

親子の縁を切られても文句も言わない。

だから、頼む。

玉比売になった環さんの想いだけ受け止めて、男女の関係にならないでくれ。

そして、幼いころからお前を慕っている。瑠奈の想いも受け止めて、スメラミコトになって、躑躅を倒してくれ。そして、母さんを。曜子を救って」

こらえきれずにむせびながら、聡が懇願する。

「父さん、父さん。もちろんだよ。

もちろん、母さんを助けるよ。

そのためなら、環さんとの思い描いていた幸せは、捨てるよ。

でも、瑠奈は、ダメだ。

瑠奈のことは、妹としてしか見れない」

「だめだ。それでは、だめだ。

玉比売、鏡比売、二人の愛を得なければ、完全なスメラミコトになれない。

躑躅には、勝てないんだ」

父の悲痛な叫びに、途方に暮れる杜若であった。


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