第13話 柘枝村 (ツミノエムラ) Ⅰ

 安寧やすしは、辛いことを思い出したのか、ふうと息をはいた。

そしてまた、語りだした。


 三人で柘枝村つみのえむらという名前で地図やネット検索したが、そんな場所は、この黄國に存在しなかった。

 聡の記憶は正しいのかと、亮と私で聡の覚えている限りの村の様子を聞いたが、こどもの記憶なのかちょっと信じられないことばかりだった。

手掛かりになるものもなく消沈しだした二人だったが、私は、内心ほっとしていた。

 母を亡くした悲しみが柘枝村探しという目的で少し和らいだのでは、と思っていたから。

それだけで良い、復讐なんて馬鹿らしいと。

 ところがある日、図書館から帰ってきた亮の目が輝いていて、私たちに1冊の本を差し出した。

 それは、民間伝承を面白可笑しく書いたような本で内容に信憑性しんぴょうせいがあるとは、とても思えなかった。

けれど、亮が付箋を貼って二人に読め。と言ったページに、

『県境が木ばかりで車の通れる道もないような山中で、秘境巡りをしていた男が道に迷い、うっそうと茂る暗い木立を何日も彷徨さまよっていたところ、小さなつり橋のところで見たことのない提灯のようなランプを持った男が、

「ここには、人里は、無い」

と言って、帰るルートを教えてくれた。

それだけではなく、まるで立ち去ることを確認したいのかと思えるほど、出会った場所が分からなくなるまで、道案内までしてくれた。親切なその男は、体中包帯を巻いていてとても異質だった』

とあった。

安寧が、亮と聡を交互に見て頷く。


 聡の記憶では、柘枝村の住人は、何故か男の人だけあちこちに火傷の傷跡があったという。

特に手の付近には、ほとんどの大人の男の人が包帯を巻いていたと。

そして、電気もガスも無いはずの村なのに灯りがあり、そのための何かを補充するのは、皆から姫様と呼ばれる女性で、街頭が無いので各家に不思議なランプがあった。

など、にわかに信じられないことばかりだったのだが、この民間伝承の本に書いてある山で出会った男と聡の記憶が重なる。

安寧は、作者とコンタクトをとれないか、出版社に問い合わせてみることにした。

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