第12話 因縁のはじまり

鳥生が語るのを、困惑しながら聞いていた瑠奈が

「えっと。なんの話しですか?

おとぎ話の世界にひたっている暇は、ないと思うんですが」

と、最後は怒った口調で言う。

「それが、おとぎ話では、なかったんだ」

ため息をつきながら安寧やすしが瑠奈の目をまっすぐに見つめて言った。


「ここからは、私が。

本当なら80歳近い私が、50歳くらいに見えるだろう。

そのことと、環の実の父で瑠奈さんの叔父に当たるりょうの話をしよう。

 今は亡き妻と私は、結婚してから中々子宝に恵まれず。

やっと亮を授かった時には、本当に嬉しかった。

ところが、亮が小学生になる時の血液検査で私達夫婦からは、生まれるはずのない血液型と分かった。

遺伝子検査もしたが、親子関係は、0に等しかった。

これは、病院が取り違えたのだと産院に問い合わせたんだ。

けれど亮と同じ日に生まれた子は、いないと言われ相手にされなかった。

どこに相談すれば良いかわからなかったし、大騒ぎして亮が傷ついたら可哀そうだとそれ以上は、あきらめた。

 血のつながりはなくても、赤子の時から可愛くて成長を楽しみにしていた息子だから、大切に育てようと妻とも話してた。

けれど別の気持ちでは、実の子のことも忘れられず、辛い日々を送っていたんだ。

 ところが亮が高校生だったころ、突然、都築と名乗る変な男が聡を連れて訪ねてきた。

自分の子だと思って育てていた聡が、違っていて、調べるとお宅のこどものようなので返しにきたという。

にわかには信じられなかったが、念のためにした遺伝子検査の結果私達は、99.9%親子だった。

その時は、夫婦ともに二人の息子を選ぶことができなくて悩んでいた。

無理を承知で都築にこれからのことを相談すると、シングルファーザーだったという都築は、もともと聡を自分の身内に預けっぱなしだったらしく、すんなりと渡してくれてそれきりいなくなってしまった。

それから、大変な思いをして書類を整え、親子4人で穏やかに過ごそうとしていた時、そちらの鳥生さんから連絡を頂いた。

あろうことか、都築は、衛倒えとうさん、紫さんのお父さんのご実家だが、その家の運転手をしていた時に、衛倒さんの年の離れた赤子の弟を誘拐して、身代金を奪って逃げたのだという。

そして、自分のところに警察が来た時にDNA検査で犯行がばれないように、まったく関係の無いこどもとすりかえていたと。

もう時効になったので、すり替えたこどもの家に本当のこどもを返したから、そちらも弟さんを引き取りに行くと良い。

という、ふざけた電話だったそうだ。

最初は、我が家も共犯かと疑われて大変だったが、最後は、信じてもらえて、そこから親子4人本当に幸せな時間を過ごした。

 悲しいことに、二人の息子が大学生の時、妻が患いわずらい亡くなってしまったが、それでも、二人の息子に看取ってもらえて良かった。


そのあと、亮と聡が二人でこそこそと何かを調べ始めた。

問い詰めると二人は、亡くなった母のために聡の記憶からこの因縁を作り出した、都築という男を調べて、なんらかの形で復讐をしようと企てていた。

もちろん止めた。

けれど、聡が預けられていた親戚の家が影も形もなくなってたんで、小学生になるまで過ごした『柘枝村つみのえむら』を二人で調べていると聞いたときに、民族学者だった自分の探求心が動いてしまった。

あの時、もっときちんと調べていたなら、亮を失わずにすんだと思うと今もやるせない」



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