第4話 友達と、友達以外

「ほんと驚いたよ。最初おれは売り物の女かと思ってよ。そんで、聞いてみたら志願兵だって」


 マイトのいつもの話が始まった。


「そんでよ。おれは馬鹿いうなって言ってやったんだよ。親切にもな。だってここに来てやっと2年は経ったけど、未だに志願兵が来たって話はこいつ以外聞いたことがねえんだからよ」


こいつ、の所で僕を指差す。まったく、ヒトのこと指差すなっての。ていうか持ちネタにすんな。


「でだ、そしたらよ、これはユギィ様のかっこいい名言なんだが、"おれは星を壊したいんだ"って言いのけた訳よ」


 皆が笑う。とりわけ話し出したマイトが一番大きな声で爆笑している。


「おい、今日はおれのお祝いなんじゃなかったっけ??」


 マイトが調子に乗って僕の初出撃の時の話を話し出さないように、僕は皆にここに集まった理由を思い出させてやった。


「ああ、そうだった、おめでとユギィ」

「昨日で1年か、よく持ったなあ。女装男子の割には」

「おめっとさん。おれからは花向けの言葉のみでいいよな?」


 ビス、ナルベントス、マイト。この3人には期待してないが、無愛想なもんである。まあちやほやされても逆に気持ち悪いが。


「おい、おれはちゃんと用意してやったからなユギィ。ほら、クッキー缶やるよ」


 そう言って賞味期限の切れたクッキー缶をこっちに差し出したのはミルだ。缶の蓋に"1年!!"と書いてある


「……ああ、ありがとう」


 こんなものでもありがたいもんだ。ミルは年頃が近いこともあって駐屯兵の中では一番仲がいいかもしれない。正確な生まれた年はわからないと言っていたが、背は僕より小さいから年下だろうか。金髪の癖っ毛が今日もヘルメットの跡で潰れていた。


「おい、夜警班が呼んでるぜ。2班が戻ってきたみてえだ」

「そうか、ジジイを起こさねえと。おーい、トン爺!!起きろ!!!」


 トン爺はマイトのチームの整備士だ。


「ふぁぁあ……聞こえとるがな、ふあああ」


 トン爺はいつも眠そうだ。いつかあのまま起きてこなくなるんじゃないかと思っている。


「じゃあ行ってくるぜ、ユギィ、ミル」


 ビス、ナルベントス、マイトはチームを組んでいる。基本的に塔周辺の警備担当はチームを組み、交代でモンスターが張り付いていないか見張るのが仕事だ。

 当番制だからモンスターがいなければ戦わなくて済むし、安定した収入を得られるから遠征部隊の中では人気の職だ。現在は第1班から第6班までの実働部隊と専用の整備班として計50人ほどが従事している。

 対して、僕やミルなんかみたいに勤続年数が少なくてチームが組めなかったり、金が稼ぎたいなどの他の理由からソロで活動する兵士も少なくはない。

 ちなみに、ミルの場合は「なんかひとりのほうがラク」だかららしい。

 僕の場合は、もっぱら金のためだ。

 僕らソロの兵士はバウンティ(賞金)対象のモンスターを狩る。新種のモンスターや、塔から離れているがいずれやってきそうなモンスターをこちらから狩るのだ。 

 もちろんバウンティにチームで挑むこともできるが、分け前は減ってしまう。それなら警備班を担当した方がチームとしては効率が良い計算になる。


「さて、おれも仕事に行くかな。クッキー、ありがとなミル」

「ああ、気をつけて……って、あ! そうだ!」

「なんだ?」

「ユギィといっしょに狩りたい奴がいるんだよ。よかったらいっしょに行かないか??」


 ミルと一緒に??バウンティ対象がいない時は警備班に混ぜてもらうことはあったけど、ミルを含めて他の人間と狩りに行くことはいままでなかった。


「なんでだ? そんなに手強い相手なのか?」

「恐らくね、この前はダーティがやられた。その分報酬もでかい。ユギィとなら2人で狩れるかと思って」

「ダーティが……? 知らなかったよ。新種か?」

「OKってことなら、ほら」


 ミルは依頼版画を見せてくれた。新種、大型、飛行...つまりなんもわかってないってことね。


「いいよ。今から行けるか?分け前は半々だ」

「さっすがユギィ。行けるよ。ちゃんと整備は済ましてある」


 用意周到なことだ。クッキーもこれのためじゃないだろうな。


「15分後にG格納庫前、20分後に出発だ。せっかくバディを組んだのに他の奴らに取られてもシャクだしな」

「おっけーい!」


 僕は自機の格納庫へ走る。僕の方も今朝の定期点検は済ませてあるからすぐに飛べるはずだ。


 戦闘機を初めて見たときユギィは驚いた。

 最新鋭の技術が使われていることはわかるが、なんとも不格好で機能的には見えない。

 ブースターは歩行駆動器とコンビネートされていて恐竜の脚みたいにユニットの前半分に迫り出している。

 対して、汎用アームや精密作業アームは最低限の耐久度で細く作られているから本当に恐竜をモデルにしているんじゃないだろうか。

 パイロットが乗り込むコクピットは半円ガラスで視認性を確保しているが、その防御力の低さがパイロットの致死率を高めていることは否めない。

 まあ、パイロットの死亡原因で一番多いのは燃料引火による爆発らしいが...。それも仕方がないことだ。大小多数のブースターによって飛行時の体勢制御については理論上全方向へ行えるようになっている。これも第三の塔の技術だろうな。

 操作は完全にパイロットのスキルに依存していた。

 細かい話になるが、例えばAアームの駆動時に油圧関節スライダーの調整が自動化されていなかった。専用レバーの押し込みによってそれを手動制御できるものの、戦闘中にそんな精密操作は行えない為、多くのパイロットの操作方法としては本来なら低馬力の上腕側のパワーを上げて慣性で動かすのが主流となっていた。

 もっともユギィはこの操作は行わない。パーツの寿命が減り、運用コストがかさむ。これが意外と馬鹿にならないのだ。ユギィは金を稼ぎたい。

 ユギィの愛機は、最近その大切な金を貯めて新調した近接型。重シールドが後ろ。前は稼働重視。ソロは自然と火力型になる。

 パワー重視の無骨な武器、燃料油管や信号ケーブルが張り巡らされて見た目は最悪。だが、それがいい。

 遠距離型は性に合わない。あれは時間と金をかけて集中砲火を行えるチームでやるのがセオリーだ。弾薬コストを考えながらトリガーを引くのは好きじゃない。

 もちろん、遠距離型の方が安全ではある。だから酔狂な金持ちを乗せることもたまにはあるらしいが...それも不安定な収入だ。


 さて、一通り出動前点検は済んだ。

 ユギィは金がかかるからと専用の整備士をつけるのもケチっていた。そのおかげでユニット構造にも精通している。


「16:10まで後2分か、ちょうどだな」


 ユギィはガレージの扉を開け、愛機を発進させた。

 ミルも時間通りにG格納庫前に到着していた。コクピットの窓越しにハンドサインで3、0、2と伝えてきた。無線チャネルの番号だ。


「時間ぴったりだね。MA搭載は新型圧縮バーナー!? かっけぇ!!」

「これはまじで使いやすい。さ、行くぞ」


 5分後、ユギィとミルは西向きのフライトゲートから塔を飛び立った。

真正面からは見たことのある夕陽が2人の機体を赤く照らしていた。



「ユギィはやっぱ操縦上手いよな」


 狩りが終わり、ミルと2人で夕食を取ることになった。

 ミルの言った通り、報酬はたっぷりと貰えたので合成肉を食うことにした。


「まあ、今回のやつはでかいだけでノロかったし。ミルも上手いよ。いてくれて助かった」

「いや、おれはあんだけ近くに寄る勇気はないなー。でも0距離まで行けるなら確かに圧縮バーナーはユギィにぴったりな武器だな」

「そうなんだよ。気に入ってる」

「ダーティも残念だったよな。あいつ、友達いなかったんかな?」

「……」

「ん、どした? なんか変なこと言ったっけ?」

「いや、そうだな。……おれ人参嫌いなんだよ」


 本当はミルが僕のことを"友達"だと思っていたことに驚いたのだけど、誤魔化した。


「ユギィ、ここにいるのかー?」


 食堂の入り口から誰かが呼んでいる。確か...警備班の奴だ。顔だけは知っている。


「ここだ。何か用か?」

「いや、おれが用があるわけじゃないんだ。今夜はキャラバン市をやるのは知ってるよな?」

「ああ、だけど今夜はおれは当番じゃないはずだが」

「そうじゃないんだ。それが、売り手のひとりがお前のこと知ってるらしくてな。呼んでこいって騒いでるらしい。金も積んでる」

「なんだって?」


 テントに入る。頭にターバンを巻き、上質な生地の服を着た男。あいつか?

向こうもこちらに気づいたらしい。


「ユギィ、おせえぞ」

「おれはユギィだが、お前、だ……」


 誰だ? と続けようとした言葉は途切れた。


「お前、オ...モト......」


「よお、おれのこと"アニキ"って呼ぶのは、やめたのか?」


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る