無計画
「もしもし。塁です。やります」
「えっ、あっ」
突然のオファー承諾に驚き、アリサは少ししどろもどろになる。そして、落ち着きを取り戻すためだろうか、彼女はゆっくりと息を飲み込んだ。
「一緒に配信しましょう。やってやろうじゃあありませんか!」
「やった! 一緒に配信してくれるんですね、ありがとうございますっ!」
アリサは急に明るくなり、ひたすら喜んだ。どの業界のどの会社からも必要とされない、異性からもモテないいわゆる「弱者男性」の俺に、アリサはどうして声をかけてくれたのだろうか。助けるといっても、ただスライムを追っ払っただけである。
「やるからには一生懸命やるよ。頑張ろう、アリサ!」
「塁さん、これからよろしくお願いします!」
そうと決まると、それからの展開はスムーズだった。何故なら俺もアリサも暇人だからである。お互い暇人な俺たちは早速翌日集まり、撮影用機材と、レアでもなんでもない寄せ集めの安い装備を持って、ダンジョンに無計画に突入した。
「さて、さっそく始めてみましょう」
「えっ、もう配信始めたの?」
「あ、はい! 始めました!」
ダンジョンに入るとアリサはすぐにカメラを回し、配信を始めた。何の前触れもなく、挨拶もなく始めたので少々面食らった。そういえば、視聴人数はどうなっているのだろうか。
「ゼロ!?」
「はは、はい。恥ずかしながら」
アリサは照れくさそうに笑っている。いや、笑っている場合ではない。なんて呑気な子なんだ。
「誰も観てないんじゃ、やる意味ないじゃん!」
「そんなことありません!」
俺の言葉に覆いかぶせるように、アリサはきっぱりと言い切った。ここまで言い切るには、何か策があるのだろうか。
「配信後もちゃんとアーカイブ残しますし、地道にやっていればいつか、見てくれる人はいます! 信じて続ければ、救われるんですっ!」
なんだ。根性論か。ただ、俺はアリサと違って生活がかかっているため、そんな悠長なことは言っていられない。しかしながらその旨を話しても、アリサは断固たる姿勢を崩さなかった。
「塁さん、いい加減腹を括ってください! 何事も継続が大事です。近道なんて何もないんですよ! やると決めたからには、一緒に頑張りましょう!」
そう言ってアリサは有無を言わせず、ダンジョンをずかずかと進んでいく。まったく、先が思いやられるというものだ。
「待ってよぉ、1人で行くと危ないよ〜」
『ダンジョン番組』に出て地雷系美少女配信者と共演するために、ひとまず配信を始めたら、これまた美女やギャル配信者とコラボすることになりモテ期が到来した弱者男性の話。 星の国のマジシャン @wakatsukijaji
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