流行に乗っただけの初心者美女を救助

 あくまで野次馬的な考えで悲鳴のする先まで様子を見に行ってみると、派手な髪色で極端に薄着した、見かけだけでいったらギャルみたいな女性が、スライムに囲まれていた。



「ぎゃあああぁぁ! 誰かぁ、誰かぁッ!」


 なんと大袈裟なことか。スライムはヘラヘラしながら彼女の周りに集まっているだけで、まだ何もしていないじゃないか。もちろん女性も怪我も何もしていない。さらに女性をよく観察してみると、ダンジョンをナメているとしか考えられないような服装だった。腹が隠れないタイプの流行りのシャツに、太もも丸出しの半ズボン。それに厚底。これは仮に、魔物にやられたとしても自業自得と言われるかもしれない。やられてないけど。

 ちなみに余計な情報だが、彼女はとても可愛らしかった。



「助けてぇ!」


 彼女は至って真剣である。確かに、初心者ならスライム相手に恐怖を感じるのも、ある程度仕方ないのかもしれない。この娘ならスライムの強さすらよく知らなかった可能性すらある。見たところ、配信者ブームに乗っかろうとして痛い目に遭った、というところだろうか。ただ、周囲の客も誰も怖がって動かないので、百戦錬磨の俺が助けてやるしかない。もっとも助けると言っても、特に何もすることはないけれど。

 受付の人もバイトなのだろう、どうしたらいいかわからないようでただ途方に暮れている。俺は特別に受付に許可をもらい、ダンジョンに足を踏み入れた。久々の感触だ。ダンジョンに入った途端、俺の脳みそは芯から震えた。異世界での数々の記憶が、走馬灯のようにふつふつと蘇っていたからだ。

 俺は再び冒険者になった気分だった。自信に満ち溢れている。俺は女性及びスライムの群れの元に悠然と向かっていった。



「ほら! スライム! あっちいくよ! シッシ!」


 まるで犬を追っ払うかのような対応でも、スライムたちは恐らく俺のレベルに度肝を抜かしたのだろう。一目散に逃げ出していった。


「まったく…」


「あのぅ」


 女性は恥ずかしそうに顔を赤らめながら俺の顔を見た。


「助けてくださり、ありがとうございます」


「あ、いえいえ!」


 俺は逃げていくスライムの様子を見つめながら、口だけで返事した。


「素敵…」


「え?」


「いや! なんでもないです、すみません!」


「は、はぁ…」


 待機室で観ていた人たちから、拍車が起こっていた。俺は恥ずかしくて居ても立っても居られなくなり、ダンジョンハウスから飛び出した。今日は帰ろう。出直すことにしよう。


「ふぅ…」


「あのぅ」


「うわわ! ビックリしたぁ!」


 声のする方を見ると、先ほどの女性が出口までついてきていた。


「少し、お茶しませんか? お礼をさせていただきたいです」

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