倍率1000倍!?
とりあえず、俺は配信を始めることに仮決定した。どうして仮決定かというと、撮影機材を買うお金の余裕がないからである。実際に高いお金を出して機材を買い、結局3日坊主で終わったりなんかしたら目も当てられない。自動販売機すら視界に入れないように気をつけているような人間は、そんな余裕をぶっこいていられない。だから最初は機材なしで、練習がてら久しぶりダンジョンに入ってみることにした。まあ、最悪「やっぱりやめた」という結論になったとしても、気分転換と適度な運動にはなるだろう。そんな考えだった。
俺は近所に、今や公的機関として位置づけられているダンジョンに足を運んでみた。するとダンジョンは大賑わい。思わず目を疑うほどの人だかりだった。噂には聞いていたけれど、まさかここまでだったとは。
参加希望者の待機人数も多く、俺はファミレスに入った時のように受付で名前を記入した後、待機室の行列の最後尾にて自分の番が訪れるのを待つことにした。
「へえ、ダンジョンは地下5階まであるのか。結構本格的なんだな」
つい家にいる時と同じ調子でひとりごとを言ってしまい、周りの待機客からチラ見される。俺ははっとして口をつぐんだ。
待っている時間、暇なので周りの待機客たちをよく観察してみることにした。すると俺はとある共通点を見出した。それは、みんな撮影用機材を抱えているということである。もしかして、みんな『配信者オーディション』を受けようとしているのか。
「あの〜、すみません」
「は? なんですか?」
俺の一個前に並んでいる人に声を掛けてみると、少し怪訝な顔をされた。さっきひとりごとを言ってしまったせいで変なやつだと思われたのかもしれない。
「もしかして『配信者オーディション』受ける予定ですか?」
「はは、バレちゃいました?」
客の顔が急にぱあっと明るくなった。俺に対する警戒心がようやく解けたらしい。
「人生一発逆転を狙って、会社もやめてきました」
「え〜! 凄い覚悟じゃないですか!」
「でも、今は少し怖気ついてます」
客は笑いながらそう話した。理由はやはり、見たところ今日このダンジョンに来ているほとんどの人が配信者であり、結構本格的だから、ということだった。
「やっぱり今の世の中、夢を掴みたいのはみんな同じ。考えることはみんな同じみたいですね」
「なるほど…」
「『配信者オーディション』、倍率1000倍は超えそうですよね」
やっぱり。俺は自分の考えの甘さを恥じた。必死に就職先を決めて、一生懸命汗水流してお金を稼ぐしか、自分みたいな人間に生きる道はないみたい。そんなことを考えていた時だった。ダンジョンの方から、うら若き女性の悲鳴が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます