第16話 小さな手と手——繋ぐ ⑦
「とゆうか、なんでいるのよ」
「あはは・・これには深い訳があって」
ヒソヒソと話し声が聞こえる
「それに・・何?何・・あの人」
「
チラチラとこっちを見る。そりゃ・・そうだよな。
「おおっ!!こ・・これは」
「
がっついたら食べれなくなるよ」
「わ・・わかっておる」
目の前に次々と現れるスィーツに目移りをする抄湖さん。テーマパークに来たかのようなはしゃぎぶり。
「ぬおぉ・・イチゴタルト・・ひゃああチョコレートパフェ」
その姿に周りの男性達は思う
〝可愛いだろう〟
それどころではないのにここに来たのは
「何?この周りの視線・・」
柚鈴さんの友達である桃さん。彼女は何度か話はした事はある。柚鈴さんにとっては大切な親友だ。
「何でこの人達と食べてるの!?柚鈴」
「しっ!声が大きいよ・・桃」
周りは抄湖さんを見ている。普段はleisurelyだけど、かなり注目されている。目を奪われるって感じだな。カップルで来ている彼氏は彼女から怒られている。当の本人は・・
「な・・なんと・・ミルフィーユ・・バスクチーズケーキ・・おぉ・・」
お構いなしだな・・。柚鈴さんが言ってたプリンアラモードは・・あれ?
「どうしたのだ?勇人氏」
「あ、いや・・メニューに載ってない」
「え?うそ!?・・本当だ・・何でだろ?」
「いらっしゃいませ」
「あの、すみません。プリンアラモードって
置いてないのですか?」
「はい。実はオーナーが変わりましてメニューも一新されたんですよ」
店員によると前オーナーが辞めてしまい、このお店は名前だけ引き継ぎ経営した所らしい。準備に追われSNSまで手が回らなかったそうだ。プリンアラモードの情報は振り出しに戻る。
「また、情報を探すしかないな」
「だよな・・ここでわかると思ったが」
これで全て解決されると思われたが中々、上手くいかず・・。
「勇人・・ごめんね・・きちんと調べていたら煩わせる事もなかったのに・・」
柚鈴さんは少し申し訳なそうにしている。
「いや、柚鈴さんのせいじゃないよ。元々は俺達が勝手についてきたんだから謝らないで・・こちらこそごめんな。二人で楽しみたかったのに俺達はここで帰るよ。行くよ、抄湖さん」
「え?まだ!ミルフィーユが!」
「・・はは・・プリンアラモード探しに来たんだけど・・」
「わ・・わかっておる・・だが・・」
抄湖さんの表情が物語っている。すごい顔をしてるぞ・・
「待って!!」
「え?」
「折角、来たんだしそれに観音寺さんもミルフィーユ楽しみにしてるんだから、食べてからでもいいんじゃない?」
少し恥ずかしそうに柚鈴さんはこちらを見て微笑む。まあ、柚鈴さんが良いなら問題はないようだが・・
「ね?いいよね?桃?」
「へっ?あ・・まあ、柚鈴がいいなら」
「観音寺さんもミルフィーユ食べましょう」
「おぉー!!恩にきる」
「あのな・・」
その途端、抄湖さんの顔が明るくなり本当、何だかなーと思いながらもその表情を見ると嬉しくなり思わず微笑んでしまう。
「・・・」
その様子を見て小さな声で〝負けないもん〟と柚鈴さんが言ってたとは気づかず・・
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「そう・・プリンアラモードはなかったんだね。それはとても残念だよ」
結局、分からず仕舞いでお店に戻りマスターにその事を話す。
「また、一から調べてみます。大変だけど
「そうだね・・何かヒントのようなものあるかい?」
「あそこのお店は
「確か丘の上の所の・・」
「もしかして、Cafe Flowerかい?あそこのオーナーは確か新しいお店を出したはず」
「マスター、前オーナーを知ってるんですか?」
マスターがもしかしてとファイルを取り出し何かを探す。
「あった・・」
それは前オーナーの名刺
「少し、フェスティバルで話をした事があってね、お互い店の経営などで相談したり色々したから一度連絡を取って新しいお店を聞いて見ようか?」
「よくぞ、やった!大志郎」
「ありがとうございます」
マスターがプリンアラモードに繋がるかもしれないと早速、連絡を取ってくれた。あのお店のオーナーも快く俺達に会ってくれる事になった。これで何かプリンアラモードに繋がる事が出来れば良いのだけど
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「今日はお母さんに連絡してるんだ」
「なら、大丈夫だな」
「うん!早くお母さんが元気になるように
ボク、プリンアラモード見つけなきゃ!そうしたら
「湊人・・」
純粋な想い。出来るならその想いを叶えてあげたい・・だけど・・
「おい!勇人よ!あの美人さんをおれに紹・・」
「
「だぁあああ!!何だよーーー!何故お前だけ」
「知るか!」
文化祭の準備の為、真壁と一緒に大学にやって来た。ちょうど昼食でもあり食堂に出向いた俺達。食堂も賑わっていて吉田さんも作業に追われていた。その様子を見ながらプリンアラモードのことを考える。
———ピコン
抄湖さんからメールが来た。
———準備が終わったら、こちらに来てくれないか?
何かあったのだろうか?とりあえず、真壁には上手く誤魔化さないとな。後々、面倒だ。
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文化祭の準備も少し落ち着いたので俺は抄湖さんの所に向かう。ちょうど、真壁もいないし今がチャンスだ。見つかったら面倒くさい。
「おれは面倒くさい!はっはっはっ!」
「・・・」
無駄な体力を使いたくはなく仕方なく連れて行く。本当、勘弁しろよ。
「・・・」
「ごめん・・余計なのついてきて」
抄湖さん・・眉間にシワ・・後ろで大体予想される表情しているんだろうな・・真壁
「まあ、良い。これを見てくれ・・西野教授から頂いたものだ」
抄湖さんはあるものを見せてくれた。
「これって・・」
それは俺達が探していたプリンアラモードだった。西野教授が手作りで持ってきた食べ物
「プリンを包む・・確かにそうかも」
プリンを包んでいるのはシューの生地
「これはわからぬな・・だが、やはり美味しそうだな」
「うん、でも本当美味しそうだ」
それは定番のプリンアラモードではなくシューの生地で生クリームとプリンを包んでいる。少し小ぶりだけど、誰もが食べたいと思うようなスィーツだ。これがもし湊人くんが食べたプリンアラモードだとすれば?西野教授が何故?湊人くんとの接点は?それに・・
「吉田さんとの関係もあるのかもしれぬな」
確かに、この間の吉田さんと西野教授は接点があった。だとしても・・まだ、謎だらけでこれは本人に聞くしかないかもしれない。
「西野教授はあと、少しでこの大学を去られる別の大学が決まっておる」
「やっぱり、吉田さんと関係があるのかもしれない。湊人くん達もあと少しで引越しだし」
時間が足りないかもしれない。マスターに連絡してもらったCafe Flowerの前オーナーと会う事にもなっている。まだ、点と点でこれに結びつくものに確証はない。次は一からやり直しは出来ない。すると真壁が
「おおーやっぱ、あれだな西野教授ってここの大学で教える前はパティシエをしてたんだよな?んで確かCafe Flowerでケーキ作ってた」
「今何て言った?」
「え?だから、この丘の上のcafeでケーキを作ってたんだってあそこってかなりの老舗だろ?ここ最近オーナー変わったけど・・」
「それは本当なんじゃな?」
「へっ!?・・ええ・・まぁ」
「教えてくれてありがとう」
抄湖さんが微笑む。真壁の顔が赤らめていく。いや、もう顔が緩んでだらしない表情になっていた。
「もし、良ければ今度おれと行きません?そして、あなたのこともっと知りたい・・その美しい顔をおれの為に見せておく・・」
「勇人氏、西野教授のところへ参るぞ」
真壁の決め台詞はもはや完全スルー。まあ、
ダサ過ぎる。真壁は固まっている。
———ポン
「真壁、お前はただ、ただ面倒くさい奴と思っていたが今回はよくやった。今度俺が一緒に行くから安心しろ」
「いや!面倒くさいって何だよ!男同士で言っても意味ねぇーだろ!っておい!勇人!どこ行くおーい!」
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「西野教授は大学の方に向かわれた」
「じゃあ、大学の方に戻ろう」
大学に向かい西野教授を探そうとしていたら
後ろから声が聞こえてきた。
「勇人お兄さん、抄湖お姉さん」
「蓮くん?湊人くん」
「こんにちは」
「こんにちは、どうしたの?今日は学校は?」
「学校は創立記念日で休みなんです。だから、今日は湊人のお母さんに会いに来たんです」
蓮くんと湊人くんが吉田さんと会う約束をしているらしい。この間のように内緒で会う事はしないよって嬉しそうに笑う湊人くん。
「もうすぐ、湊人のお母さん仕事が終わると思うんでここで待ってるんです」
「お母さんと蓮兄ちゃんと一緒に帰るの」
「そうなんじゃな。お母さんも喜ぶ」
抄湖さんの優しい笑顔で湊人くんも嬉しそうだ。彼らにはやっぱ幸せになって欲しい。この笑顔をなくしちゃいけないと感じる。
「時間もないがまだ確証もない。プリンアラモードの情報は確信を得てからな方がいいのかもしれないのう」
「そうだな」
西野教授が作ったプリンアラモード。真壁が言ってたCafe Flowerで働いていた事はわかったとしてもそれが湊人くんが求めていたものかはわからない。やはり、前オーナーに確かめて見よう。
「あっ!お母さん!」
吉田さんがこちらに気づき手を振る。湊人くんは嬉しそうに同じく手を振る。
「・・っ!?」
それは突然だった。湊人くんが立ち止まり動かないまま・・ゆっくりと吉田さんが倒れていく・・。
「吉田さん!!」
———きゃー!!
———人が倒れたぞー!
俺達は急いで吉田さんの所に行く。すると、背後から足音が聞こえた。振り返ると
「西野教授・・」
西野教授が走っていく姿が脈を測り吉田さんを抱えて指示をする。
「すみません。救急車をお願いします」
仲間の人達が電話をする。抄湖さんはすぐに湊人くんのところに駆け寄る。
「・・お母さん」
サイレンが響き渡り救急車が到着、吉田さんの意識はあるが発作があり息が荒い。急いでストレッチャーに乗せられる。
「ここの病院に連絡をしてください。何かあればそこに搬送してくれと言われてます」
「わかりました。急いで連絡を取ってみます」
西野教授は的確に状況を説明する。普段の心拍数から検査や薬などの情報を救急隊の人に伝える。
「
「はい」
「観音寺くん、この子を頼む」
「はい、わかりました」
西野教授は頷き、湊人くんの側に行き頭を撫でる。そして・・
「大丈夫だ。お母さんは負けないぞ」
今も泣きそうな湊人くんに優しく微笑む。
「勇人氏」
「抄湖さん、行ってくる!マスターの所で待っていて。湊人くんを頼むね。後で連絡する」
「うん」
緊急でもあるが湊人くんの精神的なショックもある。一旦マスターの所で待機してもらう事になった。
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緊急搬送された吉田さんは幸い命の別状はなかった。西野教授の機転のおかげもあったからだ。だけど、またいつ発作が起きるかわからない。一刻も早く手術をしなければならないと担当医に告げられた。そうなれば、湊人くんの引越しも早くなる。吉田さんが元気になる為だとはいえ、蓮くんとの別れは辛いものがあるだろう・・
吉田さんは意識があるがしばらくは入院をする事になる。ここから新しく転院する病院に行く事が決まった。
「では、よろしくお願いします」
頭を下げる西野教授。
「高梨くんありがとう」
「いえ・・あの吉田さんと西野教授は」
「彼女はオレの弟嫁だった」
「え?」
「はは・・驚くも無理はないな。俺の弟が彼女・・
突然の死が吉田さん達の人生を変えてしまったと西野教授はそういう。まだ、幼い子を抱え本人もまた、病気で一人で育てるのは難しいだろうからって両親が湊人くんを養子にすると言って当然、吉田さんは断りこちらとも絶縁状態だったそうだ。
「弟が亡くなったのは彼女のせいだと両親は責めた・・佳苗さんは悪くはないのに」
少し・・辛そうに手で顔を覆う。しばらく音信不通になっていたが西野教授は彼女を探し続けていた。そして、決して裕福ではないが生活をしている事を知り安堵する。だけど、吉田さんの発作は完治してるわけではなく手術が必要だとわかり、西野教授はパティシエを辞めて教授の道に行くことにした。
「手術には莫大な費用もかかり、何とか支援をしなければと両親には伝える事をが出来ない。佳苗さんを支える為には両親を安心させる必要もある」
誰かを守る為・・西野教授が
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「そうか・・吉田さんは大丈夫なんじゃな・・ああ、今夜は大志郎のお店に泊めてもらう事になった」
抄湖さんに今後の事を伝える。
〝しばらくしたら、お店に戻るから〟
「うん、わかった。勇人氏気をつけて」
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「今日、湊人くんは俺の知人のお店に泊める事にしました。明日、ここに連れてきます」
「そうか・・湊人にも話さないとな」
「・・・」
誰かを救いたいそう思うとまた、他の誰かが辛い思いをする。湊人くんや吉田さんを喜ばせたいと思うのに・・
「何も出来やしない・・」
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「おかえり・・勇人くん」
「ただいま・・マスターありがとうございます」
「大丈夫だよ、いつでも僕に言ってよ。今コーヒー淹れるから」
「俺、湊人くんの様子見てきます」
マスターは頷き〝抄湖ちゃんもいるよ〟と伝えてくれた。俺は2階に上がり湊人くんが寝ている部屋に入る。そこには抄湖さんが見てくれていた。湊人くんと蓮くん。一人では心細いだろうからと蓮くんも泊まってくれた。
「ただいま、抄湖さん」
「勇人氏・・おかえり、ご苦労じゃったな」
二人は疲れたのだろう。ぐっすり眠っている。あどけない表情・・蓮くんの手を握って眠る湊人くん。不安でいっぱいだろうに・・
「お母さんは大丈夫だからな・・」
湊人くんの頭を撫でてそう話す。抄湖さんは黙って寝顔を見ている。
「不安だろうな・・」
「蓮くんがずっと側にいてくれたのじゃ」
「そっか・・」
ベッドで眠る二人を見て
「頭を撫でられる安心するのじゃな」
抄湖さんが湊人くんの頭を撫でる。
「誰かを失う・・湊人くんは父親を亡くしておる。一人にさせてはならぬ」
「うん・・抄湖さんがいてくれてよかった」
「え?」
「湊人くんも少しは落ち着いたんじゃないかな」
「ワシは何もしてぬ・・じゃが、そう思ってもらえるなら嬉しいものじゃ」
「抄湖さんもさ、不安になったら頭撫でてあげようか?」
こんな時に言うべきではないけれどふと、言葉が出てしまう。その反応は
「お願いしようかね」
妖艶な笑みでこちらを見る。
「え?・・」
「いつもの仕返しじゃ」
そのような言葉が返ってくるとは思わなかったけど、彼女との時間が安らぐようになってきたんだ。何も出来ない自分の不甲斐なさにあなたがいてくれたのは何よりも嬉しいのだと思った。
「コーヒーのいい匂いがする。大志郎が淹れてくれてるのだな」
「うん・・そろそろに下りようか?話もあるから」
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「今日はご苦労様・・寝る前だから少し薄めにしたよ」
「ありがとう・・マスター」
「ところで、勇人氏話とは何だ?」
「あ、うん。プリンアラモードなんだけど湊人くんの為に何とかしてあげたいと思ってたけど
今は吉田さんの身体が回復しないといけないと
思うんだ」
湊人くんの為プリンアラモードのヒントとあり明日、あのcafeの前オーナーに会う約束していたが取りやめる事にした。
「そうだね・・今は吉田さんの回復が先だろうし、僕から前オーナーに伝えておくよ」
「お願いします。マスターから紹介してもらいながら申し訳ないです」
「仕方ないさ、また、落ち着いたらあの丘の店に行けばいいさ・・僕も一緒に行こうかな」
「いいんですか?とても心強いです」
前オーナーも忙しい中、あそこのお店に来てくれる事になっていた。マスターは事情を話せばわかる人だよって言ってくれた。
「本当、マスターに助けられてばかりですね。とても感謝してます」
「はは、嬉しいね。あそこはとても景色もいいし誰もが元気なれるって評判がいいんだよ」
「そうですね、抄湖さんもがっつり沢山食べてました」
「う・・うるさいぞ!美味しいのだからいいのじゃ」
いつか、何気ない会話が吉田さん達にも出来るようになるといいよな。言葉で励ます、その魂を込めれば温かいものになる。
「あれ?ドアが開いてる・・さっき閉めたのに」
ゆっくりと会話をしながら明日の事しっかりと考えよう。
———バタバタバタバタ
「何だ?」
しばらくしたところで何やら騒がしくなる。二階から蓮くんが下りてくる
「勇人兄さん!湊人が・・」
「え?」
青ざめた表情で
「湊人がいなくなった」
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