第17話 小さな手と手——繋ぐ ⑧

 湊人みなとくんがいなくなった。れんくんが慌てて2階から降りてくる。


「どうしよう、湊人がもし・・もし、いなくなったらオレ・・」

「蓮くん、自分を責めるな。詳しく聞いてもいいか?」


 何故、湊人くんがいなくなったのか?蓮くんの話だと夜中に湊人くんが下に降りていった。トイレだろうと思って気にはしなかった。そして、湊人くんが戻って来たのでそのまま眠りについたけどふと、覚めると隣で寝ていた湊人くんがいなかった。


「裏の扉から出た可能性があるね・・」


 マスターが階段から奥に扉があるとそこは店側からだと気づきにくいかもしれないと言う。


「少し様子を見れば・・」


 マスターは責任を感じている。


大志郎たいしろうそれは皆同じだ。小学生とはいえまだ、幼い。道に迷ってるかもしれない」

「ええ、我々も同じです。」


 何故、湊人くんがいなくなったのか理由がわからない以上すぐにでも手分けをして探さなければならない。


抄湖しょうこさんは警察と西野教授に連絡をして」

「わかった」

「マスターと俺はここらへんを探しましょう。いなくなってから時間はあまり経ってないしそう遠くには行ってないはずです」

「ああ、わかった」


 俺達が慌てている様子を見て不安になっている蓮くん。子供なりにも責任を感じて震えている。その姿を見て手を取り抄湖さんは


「大丈夫だ。きっと探しだすから。ワシも側についている」

「うん・・ありがとう・・」

「抄湖さん、蓮くんを頼みます。それに」

勇人はやと氏?」

「抄湖さんも何かあったら俺に言って」


 彼女も不安であると思う。少し頑張るところがあるから


「ありがとう勇人氏」


 俺達は手分けして湊人くんを探すが見つからない。西野教授からも連絡があり湊人くんが行きそうな場所を探してみるが


「くそっ・・どこだ・・」


 湊人くんが突然いなくなった理由は何だ?母親が倒れてしまった。湊人くんが望むものは?


「・・・」

「勇人くん?」

「プリンアラモード」

「え?・・勇人くん!?」


 気づけば動き出していた。蓮くんからいなくなった時間を考えれば


「母親が元気になる方法・・」


 なら、あそこかもしれない。


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「お母さんに元気になってもらうんだ・・だけど・・ここはどこ?」


———ザワザワ


「・・怖いよ・・お母さん・・」


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 大好きなお母さんの為、元気になってもらいたいその思いやりは時には大胆な行動に出る。


「何じゃと?・・わかった・・勇人氏、無茶はするな・・何かあったら周りにも言うのじゃ」


 誰かを救いたい・・それは皆同じだ。


「抄湖ちゃん、どう?湊人くん見つかった?」

「小町殿、少しお願いがあるのだ」


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「僕達の話を聞いてたんだね」

「ええ・・扉が少し開いてたので気のせいかと

思ったのですが・・」


 マスターの車で湊人くんがいるのではないかという場所に行く。

 

母親を救う方法はプリンアラモード。彼にとって一番だから、それを教えてもらう為に湊人くんはあの場所に行ったのかもしれない。


「あのプリンアラモードは吉田さんのご主人が考えたものなんです」


 そのレシピを見ながら西野教授が作ったそうだ。湊人くんが喜ぶようなプリンアラモードを作りたい。そう願いながらレシピ考案したらしい。


「その想い素敵だね・・誰かを想う」

「はい・・マスターもそうなんですか?」

「そうだね・・忘れない想いを残すのはどれだけ大切なんだろうな」


 マスターが運転しながら少し寂しげに微笑む。人は永遠ではないからその思い出、生きた証は伝えていきたいとそう思う。このプリンアラモードだって吉田さんのご主人が生きた証だから湊人くんの中でその証を残してあげたい。


———ポツポツ


「雨?」

「まずいな・・あそこは割と斜面が滑りやすいんだ・・急ごう」


 突然の雨、湊人くんを探さないともしもの事があれば大変な事になる。


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「雨が降ってる・・あそこまで行けるかな?」

「そこに誰かいるのか?」

「あ・・」

「何?子供?何故こんな時間いるんだ」

「逃げなきゃ・・」

「あっおい!待ちなさい!」


———はぁはぁはぁ


「捕まったら、お母さんを元気に出来ない」


———タッタッタタッー


「わっ」


———ドタンドタドタ


「イタタ・・暗くて見えないここはどこ?」


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俺達はこの間、柚鈴ゆずさん達と一緒に行ったCafe Flowerに辿りつく


「勇人くんが言うならここに湊人くんが来るんだね」

「ええ・・俺達の会話を聞いてたなら、プリンアラモードは・・湊人くんのプリンアラモードはこのお店にあると思っている」


 吉田さんが倒れて湊人くんは凄く不安だろう。母親を助けてあげたいその思いで動く。


 雨が段々と強くなっていく。早く見つけないと・・警察が動いてるとはいえ一刻も争う。


 どこだ?どこに・・


「・・・」

「勇人くん?」

「聞こえる・・」


 その方向を目指して俺は歩き出す。暗闇の道を真っ直ぐただ進む。


 雨風が強くなっていく危険が伴い一刻も争うかもしれない。入り下った場所、かすかに聞こえるが姿がない。まさか・・


「・・怖い・・よ」

「湊人くん!!」

「お兄ちゃん・・うわーんうわーん」


 安心したのか、声を出して泣き出す湊人くん


「大丈夫だ!助けるからな。どこか痛いところはないか?」


 湊人くんは頷き〝大丈夫〟と声を出す。大人からはさほど高くはない所だが穴が空いた場所。子供が落ちたら見つからない。


「今から降りるからそこにいるんだぞ」

「勇人くん!」

「マスター、湊人くんを引き上げるので何かロープみたいの持ってきて下さい。あと、警察と救急車の手配もお願いします」

「わかった、これを湊人くんに」


 ゆっくりと降りて湊人くんの所に行く


「寒くないか?」


 まだ、残暑が残ってるとはいえ雨の中は冷える。少し震えている。


「もうすぐしたらみんな助けに来るからな」


 泣き出す湊人くんを励ます。


「プリンアラモード、お母さんに食べてもらおうな」

「うん・・お母さん、死なない?」

「ああ、大丈夫だ。その為お母さんは頑張ってるんだぞ。湊人くんと沢山笑う為に頑張っている。お母さんだって湊人くんの元気な姿見たいんだぞ。だから、プリンアラモード一緒に食べような?」

「うん!」


 涙を拭い〝よく、頑張った〟と頭を撫でる。少し安心したのか、湊人くんは笑顔になる。


———ウーゥーウーゥー


———ピーボーピーポー


 その後、警察や救急車がやってきて湊人くんを救出。念の為湊人くんは吉田さんが入院している病院に検査入院をする事になった。湊人くんも疲れたのかぐっすり眠っている。その側で

愛おしそうに頭を撫でる西野教授。


 吉田さんは落ち着いているがまだ、眠ったままだそうだ。徐々に回復はしていくだろうと担当の医師はそう言っていた。


「この度は湊人がご迷惑をおかけしました。そして、ありがとうございました」

「頭を上げて下さい、西野さん。迷惑だなんてかけてませんよ。こちらこそすみませんでした。湊人くんを預かっていたのに危険な目に合わせてしまって・・」 


 マスターが自分にも落ち度があったと謝るのはこちらだと言う。西野教授は湊人くんが寂しい思いをしていたんだとそれに寄り添えなかった事を悔やんでいた。


「あなた方には感謝しかないですよ。これからは佳苗かなえさんと湊人の為に支えていきたいと思います。弟の為にもです」

「西野教授は凄い人ですよ」

「え?」

「あなただって大事な弟さんを亡くされて辛いだろうにだけど、弟さんが残した最愛の二人を守ろうとしている、それはとても立派ですよ」


 俺の言葉に西野教授は安堵したのか少し、間を置いてこう話す。


「一番は弟が悔やんでる・・佳苗さんと湊人くんを残してこの世を去るなんて思ってもなかった・・それに・・最愛の弟がいなくなるなんて思いたくなかったさ・・」


 抑えていた涙が溢れ出す。きっと教授はこの二人の辛さを知っているから、だけど西野教授もそうだ。ご両親の手助けもなくこの二人を支えている。


「〝あなたにはとても感謝している〟そう吉田さんはおっしゃっておったぞ、西野教授」

観音寺かんのんじくん?」

「抄湖さん、蓮くんは大丈夫?」

「ああ、小町殿が見てくれておる。勇人氏ご苦労じゃったな」


 抄湖さんが微笑む。その労いの言葉、その表情がとても心に安心をもたらす。


「名前はその時は存じてはなかったが、自分達親子を支えてくれる人物がおると吉田さんはそう話をしておった」


 抄湖さんは湊人くん達が大学院に侵入した後大学内で会ったらしい。少し、話をして親子二人で生活が出来ているのはその人のおかげだと

自分は病弱で湊人くんの将来を考えたて思ったそうだ。

 自分ではなくご主人が生きていればとその言葉を放った時、その人は自分の事ように考えてくれてお叱りと励ましをしてくれたと


「西野教授・・あなたがワシ・・私に教えてくれた言葉の意味、吉田親子には伝わってます。何故なら、あなたのお話をすると吉田さんの表情は優しく美しい。言葉があるこそのその思いが表情に現れるのです」

「辛い時は吉田さんに甘えてもいいと思います。このプリンアラモードも弟さんの意志をあなたが引き継いでくれたんですよね」

「Cafe Flowerのご主人も言ってましたよ。このプリンアラモードはお友達だった、吉田さんの考案メニューだったと」


 マスターがCafe Flowerのご主人に聞いてくれた。ご主人は吉田さんのご主人と友達だったそうだ。二人で小さなCafeを作りみんなが喜ぶような店にしたいと始めた。吉田さんのご主人は

パテシェではなかったので代わりに兄の西野教授が一緒に働く事に吉田さんはお店の経営などスィーツの考案をしていた。アイディアが長けていて周りからも好評だった。


「それぞれが彼の意志を継ぎたいと思っていた。Flowerのご主人もこれからは別の場所で意志を引き継ぐそうですよ」

「そうか・・本当にありがたい」


 これからは三人で弟さんの分まで幸せになりたいと西野教授は話してくれた


✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎


ゴホッゴホッ


———ピピッピー


「38度・・やべぇーな」


 次の日俺は高熱を出した。そりゃそうだ。雨の中ずっといたし、体も冷え切っていた。幸い湊人くんには異常はなく家に帰れる事になった。吉田さんも回復つつある。このままいけば

来週辺り転院するかもしれないそうだ。


 マスターのメールでは近々、お礼のご挨拶をしたいと吉田さんが言ってたそうだ。


「それまでに熱下げとかないとな・・」


 本当辛い・・


ゴホッゴホッ・・


 少し眠くなってきた・・俺の瞼がゆっくりと下がっていく。どのくらい眠っただろうか・・

少し、額辺りがひんやりして気持ちがいい。


 今度はゆっくりと瞼を開いていく。黒髪の女性が俺の額に自分の額を当てている。


「え?」

「・・・」

 

 目が合っちまった。


「抄湖さん?」

「いや・・これは違う!!お主が苦しそうに

唸っていて熱があって・・体が暑過ぎるだろう」


 あたふたする抄湖さん・・はは


「可愛いな・・」

「か・・可愛いじゃと!?そもそも、物騒じゃぞ!心配で来てみたら鍵が開いてたぞ!」


 ああ・・そうだった。喉が渇いて外に飲み物買いに行ったんだ・・必死で帰ってきたから鍵もかけたのかわからなかった。


「抄湖さん・・来てくれたのはいいけど、風邪がうつるよ・・早く帰りな」

「何を言ってるんじゃ、唸ってるやつを放っておけぬわ」


 ふと、見ると沢山の荷物。風邪薬から氷のうなど置いてあった。


「とにかく、何も食べてはないんじゃろ?すぐ作ってやるからしばらく寝とくのじゃ」


 朦朧としている中で抄湖さんの後姿を眺めまた、眠りについた。


 それからまた、どれくらい眠ったのだろうか?少しベッドから起き上がり熱を測る。


「37度・・微熱か」


 抄湖さんは?辺りを見るが見当たらない帰ったのか?しかし、どこから寝息が聞こえる。


「・・・」

「(スゥー)」

「寝てる・・」


 たく、この人は何をしてんだ・・。・・彼女の寝顔をしばらく見る。本当、何やってんだ・・気づけば彼女の頭を撫でる・・思えば不思議な人だよな。彼女を見てたら思わず笑みが浮かんでしまう。頭に置いた手が自然に彼女の頬を触れる。


「何やってたんだかな・・」


パチッ!!


「ぬぉ!?」


 抄湖さんがいきなり目覚めこちらを凝視している。次第に顔が赤くなっていく。


「な・・何をしてるのじゃーーー!」


 勢いよく立ち上がってしまった抄湖さん


「ぎょぇ!?」

「危なっ・・!!」


 支えよう彼女を引き寄せるがそのまま・・


———ボスン!!


 ベッドの上に横たわった抄湖さん。俺はその上にいる形だ。


「な・・な・・何をするのじゃ!!」


バチコーーーーン!!!


「痛えーーーーー!!」


 今年度最大級のビンタをくらう。熱も下がるくらいだ。


 しばらく経ってから、抄湖さんに


「お・・お主が悪いのじゃ」

「あれは事故なのに・・元はと言えば抄湖さんがバランス崩したからだぞ?支えなきゃ、抄湖さん怪我をするところだよ」

「そ・・それは」


 何だよと少し拗ねてみる。抄湖さんに背中を向けると・・


「は・・勇人氏?」

「・・・」

「そうじゃ!ここに来たのは看病だけじゃないのじゃ!これを西野教授から頼まれたのじゃ!

プリンアラモード!!」

「・・・」


 困り果ててる抄湖さん。少し意地悪過ぎたかな?でも・・


「・・い」

「へっ?」

「プリンアラモード食べたい」

「お・・おう!しばし待たれよ!用意をする・・ってなっ!?」


 俺が口を開けているのを見て驚く抄湖さん


「プリンアラモード、食べさせてよ。それで許す・・ほい!あーん」


 ポカーンとしている抄湖さんの顔、面白すぎて笑いそうになるが


「早く食べたいよー」


 ムスッとする抄湖さんを見たら、意地悪し過ぎたかなと少し反省する。


「ごめん・・調子乗り過ぎた。プリンアラモードは自分で食べるよ」

「勇人氏・・ほれ、あーん」

「え?・・」


 スプーンを俺の口に近づける。少し戸惑っていると


「いらぬなら、ワシが食べるぞ!」


———パクッ


「美味しい・・これが湊人くんが言ってたプリンアラモードか・・」


 湊人くんのお父さんが西野教授に託した。幸せの食べ物。きっと、この先もあの三人は一緒に笑顔になっていくんだろうな。このプリンアラモードのように優しく甘くだ。


「抄湖さん・・また、食べさせて」


















「調子に乗るな!」






 



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