第11話 小さな手と手——繋ぐ ②
——小学校
「
「
「どうした?何かあったのか?」
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思い出の味、忘れられない懐かしい味。あなたにはありますか?それはきっと、お互いの絆として心の中に残っていく。
「マスターありがとうございます」
「こちらこそありがとうね、
マスターがいつものようにコーヒーを淹れてくれる。今日は朝早くからここに来て一杯を飲む。蓄音機の前でレコードをどれにするかこの何気ない日常がとても癒しになる。
「うっうっ・・」
どこからかうめき声がする。
「無理だ・・うっ・・」
「
「ダメじゃゃゃ!!終わらぬ」
どうしたらそんな表情になるのか?いや、あれだな、締め切り間近の漫画家のように
「
「はいはい、ちょっと待ってね」
抄湖さんはここのところ修士論文などで追われていた。それと同じく言葉の研究なども入っており、昨年とは違い忙しい日々を送りそうだ今年は抄湖さん中心で進んでいくそうで、その重圧がのしかかっている。彼女は言葉の意味をとても大切にしている。その理由としてはやはり、本人に関係しているのだと言っている。何かに没頭している姿は普段とはまた、違う。最初の出会いもそう彼女の素の姿はどことなく幼く可愛らしい
マスターから淹れてもらったウィンナーコーヒーを飲みながら作業をし始める抄湖さん。
ふと、彼女を見ると俺が贈ったヘアクリップがつけられている。使ってくれるのはやはり嬉しいもんで自然に笑みが溢れる。
「何じゃ、ワシの顔に何かついてるか?」
「別に・・」
きちんと言葉にするべきだが、今回は自分だけの思いを味わおうと思った。
「ニヤニヤして気持ち悪いぞ?変な物でも食ったのか?」
「んなわけあるかい」
マスターが微笑みながら聞いている。今日のコーヒーは中煎りコーヒーだ。俺が探して焙煎した物である。
———グァテマラ
上品な酸味とまろやかなコクがあって、香り豊富。 すっきりした苦味と上品な酸味を持っていて花などを思わせる、匂い立つ芳醇なアロマコーヒー。ストロングと同様お気に入りのコーヒーだ。
「あ、明日大学に行かないといけなくなった」
「課題かい?」
「それもあるんですけど、文化祭の打ち合わせもやるみたいで参加させられるんですよ」
「文化祭か・・学生にとっては思い出のイベントじゃな」
「抄湖さんは思い出は?」
抄湖さんの学生時代ってどうだったのだろうか?考えれば、出会いは最近であって知らないことの方が多い。マスターだってそうだ。とても優しくおまけにイケメンならモテるだろうな。この3人がここで集まるって不思議なんだ。
「抄湖さんとマスターと出会えた事は奇跡だよな・・」
横を見ると抄湖さんがキョトンしていた。
「勇人氏、人たらしだな本当に」
「僕らも勇人くんに出会えた事奇跡だし、本当に良かったと思ってるよ」
「マスター・・ありがとうございます」
「自分とは違う人と出会う。これは奇跡なんだよね・・そこに意味があるなら大切にしないといけないよね」
マスターの言葉が響く。偶然なのかもしれないが、これはやはり必然なのかもしれない。ゆっくり流れる音楽が俺たちをリラックスさせる
「人類約70億人、100年生きたとして全員には出会わないそうだ。そんな歌があったのだ」
「一秒ずつでも無理か・・」
「実にユニークだね」
「ならば、絆をテーマに動いてみようかと思う」
「絆?」
「左様、今回の研究のテーマが中々決まらずで
大変だったんじゃよ。我々がこうして出会えた事とその作られる過程を研究してみようかと思っておる」
抄湖さんの発想は斜めを更にいく。元々、学部が違うわけで、そんな発想を考える事もなかった。人間同士、他人と共存していくわけでそれが何故なのか、普通は考えないもんな。
「それは面白いね、僕は抄湖ちゃんと勇人くんの絆やその過程を見ていきたいよねー」
マスターがニコニコしながらそう言う。抄湖さんとの絆?横を見ると抄湖さんが金魚のように口をパクパクさせている。
「大志郎ーーー!!」
マスターは意味深な笑みを浮かべながら
「焙煎作業してくるかな」
「おい!待たぬか!逃げるな!」
絆か・・。
語源は犬などをつなぎとめる手綱。今では断つことのできない人と人の深い結びつきで使われている。絆は「きずな」と読まれ、深い人間関係を好ましい意味と捉える。
「
「え?うーん・・絆という漢字が使われているから絆と同じ意味とか?」
「束縛など縛りつける」
「え?そうなの?」
「ワシは絆が苦手じゃ・・この意味知った時、腑に落ちた。今でこそ深い関係と捉えるがその想いは時より毒になるのだろうか」
抄湖さんが語る言葉はいつも考えさせらる。今までの経験で何かを失う事もあったのだう。この言葉の由来がそれであるのなら、何か違う形で伝えたいと思う。それはそれぞれ誰もが思っている事である。
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——次の日
俺は文化祭の準備の為、大学にやって来てた。友人が実行委員の為何故か駆り出される。
「休みの日まで駆り出されるとはな」
「まあまあ、そういうなよ。ここの学食奢るから許せよ」
この友人の名前は
———ガッシャーン
「すみません・・」
食堂のパートだろうか?大量のお皿を割ってしまいパニックになっている。
「吉田さん!何してるの!」
「すみません・・」
頭を何回も下げる女性。急いで皿を片付けている。一緒にいるパートの女性は怒っている。
「大変だな・・っておい。勇人」
俺はその人のところにいき、一緒に皿を片付ける。
「危ないですよ。ここは私が片付けるんで」
「いえ、一人で片付けるのも大変ですよ」
その女性は30代くらいでいつも真面目に働いている人。文句も言わず黙々と仕事をこなす。食堂を利用する時は〝ごちそうさまでした〟そう言うと笑顔で〝ありがとうございました〟と言ってくれる。
「これで大丈夫かと思います」
「ありがとうございます」
頭を深く下げる女性。こちらも頭を下げてその場を後にする。
「お前は人が良すぎるよ」
「困ってたら助けるのが当たり前だからな」
真壁も文句を言いながらも片付けを手伝ってくれた。こいつこそいい奴だ感じる。
「そう言えばお前、白川さんと別れたんだって?驚いたぜ」
「まあ、フラれたからな」
「あんなに可愛い彼女がいて羨ましいと思ったが一人寂しいならいつでもオレを呼んでくれ」
「うるせーよ」
彼女とは同じ大学だけど、学部も違う。会う事は減るかもしれない。だけど、幸せになって欲しいと思う。さて、そろそろ準備も終えたし抄湖さんがいる大学院に行こうか。彼女も研究室で作業するって言ってたし、書類も渡さないといけないしな。
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「ねえ・・やめようよ。蓮兄ちゃん」
「きちんと話をしないと!湊人だって嫌なんだろう?」
「・・うん」
何やら子供の声がする。自分の用事が終わったので大学院の所までやって来た。
「行くぞ!湊人」
「待って!蓮兄ちゃん」
走ってくる二人だがこちらには気付いてない
ぶつかりそうになる。
「おっと」
男の子二人は驚くが逃げる。
「あっ、おい!?」
あれ?あの二人どこかで見たような。ここは関係者以外入れないし、抄湖さんの大学院は一部入れない所があるから彼女に頼んでもらって許可証がおりたので良かったが・・
とりあえず、探して保護しないとな。
———バタバタ
「危なかった・・」
「お兄ちゃん帰ろうよ。やっぱ、ぼくいいよ」
「何言ってんだよ。お前のお母さんに会って一言、言わなきゃ」
「そこで何をしてる」
「ヤバい!湊人逃げるぞ」
「あ!おい!・・この抄湖様から逃げられると思うか?待てーい!!!」
———バタバタ
大学院の中を探し回る。まずは抄湖さんに伝えないといけない。
「君は?」
「え?」
後ろから声がして振り返る。そこには40代前半くらいの男性が立っていた。
「すみません。許可証見せます」
男性に見せると
「
「今日は研究の参加ではなくて、観音寺抄湖さんに用事で会いに来ました。書類とか色々聞きたい事もあって」
「そうなんだね。初めまして彼女と一緒に研究をしている・・」
男性は名刺を渡してくれた。
言語学人文学部 教授
「教授・・え?あの有名な先生ですか?」
「はは、私がそんなに有名なのかい?それは光栄だよ」
この西野教授は言葉の研究や日本の文化などに貢献されている人で教科書などにも協力されている人だ。抄湖さんとこの教授だったとはとても驚きだ。
「観音寺くんから君の事聞いてるよ。とても勉強熱心な青年がいると、彼女が他人の事を熱く語るってあまりなかったからね。実際会うとなるほど、わかる気がするよ」
「いえ、そんな対した者ではないです」
少し照れながらも抄湖さんが話をしてくれてたなんて少し嬉しい気もする。
「彼女の研究や修士論文などもあって忙しいかもしれないが協力よろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします」
西野教授はとても温厚で優しい人だ。抄湖さんはその人の元で学べるとは羨ましいと感じる。そういえば、抄湖さんは研究室にいるのだろうか?
「あの、観音寺さんは研究室に居られますか?」
「それが先程覗いたのだけどいなくてね、少し休憩でもしているのかもしれない。彼女の研究室に案内するからそこで待っとくといいよ」
「ありがとうございます」
戻ってくるまで待つとするかと思ったら、外が騒がしい。窓から覗くと
「そこの子供達よ!止まるのだー!!」
「逃げろーー!!」
逃げ惑う子供達を必死に追いかける抄湖さん。一体何があってそうなったんだ?あの子供達ってさっき見かけたよな?
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———バタバタ
———バタバタ
「お兄ちゃん!怖いよー!」
「湊人!あの建物に入るぞ!階段を上れ」
———タタタッタタターー
「逃げ足が速い。待つのだ!何もせぬ!ここはお前達が入る所ではない。止まるのだ」
心配で抄湖さんのところに向かったが子供を追いかけていた彼女。階段を上って一人の男の子を捕まえる
「確保したぞ」
「離せ!」
「わっ!?」
男の子が手を振り払おうとした瞬間だ
「抄湖さん!!」
バランスを崩し背中から落ちていく抄湖さん
———ドドドドーーバタバタン
「お・・お兄ちゃん
「あ・・」
顔面蒼白になってる子供達。
「・・ワシ階段から落ちたが・・え?勇人氏」
階段から落ちていく抄湖さんを庇ったその勢いで階段から落ちていった
「勇人氏!!」
「・・抄湖・・さん。大丈夫?」
「ワシは大丈夫だ」
「・・よかった」
無我夢中だった。抄湖さんが無事だとわかって安心したのか、俺はその場で意識を失った。
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